安倍元総理を銃撃した殺人容疑で逮捕された山上徹也容疑者が5か月半の及ぶ鑑定留置を終えて1月10日、奈良西署に移送され、本格的な取り調べが始まります。刑事弁護に詳しい川崎拓也弁護士によると、裁判員制度が始まった2009年、一般人の裁判員に「刑事責任能力」をわかりやすく理解してもらおうという流れから起訴前の鑑定留置が増え始めました。

年々増加傾向の「鑑定留置」

ーー安倍元総理銃撃事件で山上徹也容疑者(42)の鑑定留置が1月10日で終了となりました。当初は去年の7月25日~11月29日、約4か月間行われると言われていましたが、実際には地検の請求で2回期間の延長、そして弁護士により2回の延長不服いわゆる準抗告の申し立てがあり、1月10日までの約5か月半、鑑定留置となりました。この5か月半の鑑定留置をどのようにみたらいいですか?
「率直に言ってやや長めだったかなと思います。通常は3か月が多いので当初の4か月も若干長かったんですが、それに延長が加わって5か月半、やはり裁判所が延長の不服を認めたのも頷ける部分があるのかなと思います」

ーー実はこの鑑定留置、年々増加傾向にあるということです。どうしてなんでしょうか?
「2009年の裁判員制度が始まったというのが、大きな分かれ目かなと思います。やはり責任能力、一般の方には非常にわかりにくいところがあります。裁判になったときにそれがちゃんと説明できるのか。わからないから無罪になったらそれでいいのかという問題意識が捜査機関、検察側にあって、2009年以降きちんとした証拠を裁判の前に持っておきたい、ちゃんと調べて起訴をしたいという欲求みたいなものが強くなっているのかなと思います。これは起訴前、裁判の前に、容疑者が犯行時に責任能力があったのかを精神科医の先生に相談、面談をしながら判断をしていく、鑑定書という書面ができるんですけども、これが一つの将来の責任能力の証拠になる。そういう手続きになります」

多くの時間は「鑑定医との面談」生い立ち…家族関係など聞き取る

ーー鑑定留置では一体どのような事が行われるのでしょうか?
「多くは鑑定医との面談です。面談は山上容疑者がそもそも生まれてから犯行に至るまでどういった生い立ちだったのか、家族との関係はどうだったのか、学校ではどんな生活をしていたのか、犯行に至るときにどんな気持ちだったのか、それが終わった後にどういう気持ちでいるのかなどを鑑定医が聞き取る中で犯行時の精神状態を判断していくということになります」

ーー自由に語らせていくということなんですか?
「私が見たケースではそういうケースが多いです。やはり決めつけて聞いちゃうと、なかなか情報が出てきませんので、できるだけオープンに一見関係なさそうなことでもできるだけ話してもらうというスタンスで臨む先生が多いんじゃないかなと思います」

「犯行時に精神疾患があったのか」をまず鑑定医が判断

ーー鑑定医との面談の頻度は多いときは週に1回、少ないときは1か月何もないこともあるということでどうして差があるんでしょうか?
「これも鑑定医の先生のキャラクターにもよるんですが、聞き取りを続けたいときには頻度を多くしていきますし、例えば周囲のご友人、ご家族から話を聞いてる時は、本人に聞くのはその後のタイミングになりますので、しばらく何もないことも結構あります」

ーー鑑定留置の間は取り調べは受けないということですか?
「はい、取り調べはされません」

ーーということは5か月半の間、どういう生活だったんでしょうか?
「もちろん面談の時は一生懸命お話されてるのかどうか私にはわからないですが、面談がない時間は基本的に何もすることがないので、例えば差し入れの本を読んだり勉強をしたり、もちろん彼がという意味ではないですが、私のかつての事件ではちょっと退屈だなみたいな時間をもて余す人も結構いらっしゃいます。犯行時に精神疾患があったのかどうかをまずドクターが判断しないといけないので、そこに至るまでにどんな生活を送ってきたのか、通院歴があるのか、飲んでるお薬があるのか、幻聴が聞こえたのか幻覚が見えていたのかそういうことを細かく見ていくことがこの間に行われる作業なのですが、やはり過去にどうだったか。非常に難しい判断になります」

責任能力の有無は「鑑定医が本来決めない」法律的に判断

ーー鑑定留置では一体何が決まるんでしょうか?
「鑑定医が結論を書くことは少なくなってきています。皆さん鑑定医が鑑定書に責任能力があるなどを書くと思ってる方も結構いらっしゃるんですが、あくまでも責任能力があるかないかは法律判断なので、鑑定医の先生が本来決めることではないんですね。そうすると、どんな疾患があったのか、犯行時にそれが影響しているのかしていないのか、影響しているとすればどの程度なのか、鑑定医の先生は専門領域として医学的な見解として鑑定書に書かれると。それを見て捜査機関側で、完全責任能力でいけるな、あるいは耗弱かもしれないなどの判断を法律的にしていくことになります」

ーー中には刑事責任能力がないと判断されて、起訴できませんということもあるわけですか?
「長年やっておられる鑑定医の先生がいらっしゃいますので自分が鑑定した方がその後どうなったかっていうのもわかる人もも多いですから結論めいたことをおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、やはり法律か、鑑定医の領域かをきちんと分けて考えていこうというのは、最近のトレンドなのかなと」

ーー1月13日までに殺人と銃刀法違反の罪で起訴の見込みとなっていますが、それまではどのような取り調べになると予想されますか?
「鑑定留置期間中に新たに事実が分かった点、鑑定書に書かれていて気になった点などを質問するのではないかとみられます。おおよそのことは既に聞いていると思いますが、(鑑定留置期間中は)取り調べはないにしても捜査は続いていますので何か新しいことがあれば、そのことについて彼に聞くということもあるでしょう。もちろん専門的な領域なのできちんと漏れなく捜査をするというのは重要なことなんですが、一方で無罪推定は当然あるわけで、身体拘束が長くなるのはよくないことだと。長くなる事件では起訴後にも鑑定をしようという話にもなってくると、そのことが、容疑者・被告にとってもいいのかどうか、社会全体にとってもいいのかどうか、考えないといけない点だろうなと思います」

ーー被害者救済法の成立とか大きな社会の動きというのがありましたけどそのあたりはどうなんでしょう?
「施設収容法という法律が別にありまして、精神が不安定になるようなところは墨消しをされて黒塗りをされて新聞を読んだりということはあります。弁護士と接見をしますので、その時に例えば外ではどんな様子なんでしょうかとか、そういうことを聞かれることもよくありますので一定程度はやはり知ってるんじゃないのかなとは思います」

山上徹也容疑者に「100万円超の差し入れ」は「非常に珍しい」

ーー山上容疑者の伯父によりますと、衣類やお菓子、100万円を超える現金が届いているということなんですが、こういったことが行われるというのは一般的なんですか?
「非常に珍しいです。やはりご家族が現金を入れられたり、あるいは差し入れのお菓子を入れられたりっていうことはありますけど、全然面識のない方が100万円を超えるような金額は非常に珍しいです。例えば大阪拘置所の場合は指定された差し入れ屋さんで買ったものしか入らない。もちろんお菓子どっかで買ってきたものをそのまま入れるわけではなくて、指定された差し入れ屋さんで買って入れるそれがインターネットなんかで手続きができたりして、おそらくそれが皆さんわかってやっておられるのではないかなと思います。何でも入っちゃうとよくないですので、信頼できる業者の方がきちんとそういうものを代わりに差し入れるという段取りになります」

ーー差し入れに関しては証拠隠滅がないために一般的に差し入れは誰でも可能ということでしょうか?
「手紙は難しい局面が出てきますが、現金衣類については特に制限がないことが多いです」

(2023年1月10日放送MBSテレビ『よんチャンTVより』)