年末年始に多数のミサイルを発射した北朝鮮。さらに金総書記は「核弾頭の保有量を幾何級数的に増やす」と核兵器の大量生産に言及。「韓国は明白な敵」「核の先制攻撃」を示唆するなど南北緊張の度合いを高めています。北朝鮮と金総書記の一連の言動について、龍谷大学の李相哲教授は「米韓の合同訓練で金総書記の捕獲を想定した訓練についての対抗策では」と分析します。そして日本が核攻撃を受ける可能性について、李教授は「日本にある米軍関連の施設が攻撃される可能性はある」と話します。(2023年1月6日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

―――去年12月末の朝鮮労働党の総会。そこで金総書記は韓国が明白な敵であること、核弾頭を急激に増やすこと、戦術核兵器の大量生産の重要性などを強調しました。また北朝鮮の核戦力保有の目的について 戦争の抑止が第1の任務であるとし、第2の任務は防御にとどまらないとし、核の先制攻撃とも取れる発言をしています。

金正恩総書記はで今、不安に駆られているという証拠だと思います。昨年暮れに、韓国とアメリカが合同訓練を行って、ちょっと太った男を捕獲するような訓練写真を公開したことがあるんです。それに対抗する措置として我々の能力をみくびるなと、そのようなことを言ったと思います。

―――それは、金正恩氏を想定した訓練ではないかということですか。

間違いないと思います。体型も似ていますし、発表した時期も金氏が立て続けにミサイル発射した時期に、わざと捕獲して連行するような写真を公開しています。「斬首作戦」というのは昔から言われてまして、それは技術的にそんなに難しくないんですが、捕獲するのはかなりの難易度があるというふうに思います。

今まで、ビンラディン氏を射殺したり、その後継者を射殺したときは、「忍者ミサイル」というものを持っていて、4人が一緒にベランダにいても標的1人だけ殺せるような武器もアメリカは持ってるんですね。

―――北朝鮮が核攻撃をほのめかしていることについては。

北朝鮮は昨年9月8日に最高人民会議で「こんな場合には我々は核を使います」と言ってそれを法制化したんですが、その中で注目すべきはですね、我が指導部、つまり金正恩氏を攻撃しようとするとか、その兆候が見られた場合は、我々は核を使うと。ですからこれは、我々の指導者を斬首するとか、捕獲しようとはするな、という警告でもあるんですね。

―――この北朝鮮の核が日本に向けられる可能性は「十分ある」ということですか。

朝鮮半島で有事が起きた場合は、やっぱり日本は後方基地になるんです。朝鮮戦争に参加した16カ国の連合軍、その後方司令部と基地が日本に残ってるんですね。ですから、朝鮮半島で戦争が起きた場合は、そこから外国の応援部隊が行きますのでやっぱりそこを破壊する必要があるので、十分考えられるシナリオですね。朝鮮で何か起きた場合は日本がやっぱり被害をこうむりやすい立場にいると見た方がいいですね。

―――ちなみに1950年の朝鮮戦争のときの国連軍の後方基地は、今も日本に7ヶ所残っていて、例えば沖縄や長崎、東京や神奈川などにあります。

―――李教授、ミサイルは2023年はどうなりそうですか。

今年も間違いなく続くと思います。金正恩氏は年末の会議でですね、対南戦力を強化すると言っています。今まで見せた以上の武器はやっぱり作って、それを証明しなければなりませんので実験を続けると思います。

―――ミサイル発射の後に、必ず抗議するわけじゃないですか、あの抗議は届いてないんですか。

抗議程度では全く聞きませんね。北朝鮮に対してこの20年以上、国際社会はいろんなことをやってきました。説得したり、支援をしてみたり、やったんですが全く効かないですよね。抗議ではなく、新しい何かを考えなければならないです。

―――一方、北朝鮮を代表するアメリカ通の外交官・李容浩元外相が「粛清された」ということを、韓国の情報機関が粛清を確認したと報じられています。ただ「粛清」って難しい言葉で、「厳しく取り締まるとか不正を取り除く」という意味で使われることもありますが、今回は李教授によると、処刑の可能性は低いということですか。

ちょっと今のところはっきりしないんです。4~5人処刑したというふうなことも書かれてますので、それだとかなり大がかりな粛清ですよね。それであれば、一般的には公開処刑が慣例になってるんですが、公開処刑したという情報がない。「粛清」と言っても①革命化教育②強制収容所③処刑というようにいくつか段階がありまして、革命化教育なら、平壌から追い出して過酷な労働現場で、強制労働をさせるという。そうすればいい人になるんじゃないかっていうものですね。その革命化教育は復帰する可能性も残されてますけれども、②強制収容所に送って党籍をはく奪されれば復帰の可能性はないですね。この②までの可能性は十分考えられますけれども③処刑は今のところ確認できないです。

―――李容浩元外相ですけども三澤肇解説委員は、以前直撃取材したこともある。

当時アメリカと北朝鮮が核を巡る交渉をずっとやっていて、李容浩元外相が結構ヨーロッパ各地に来ていました、ちょうどベルリンに来ている情報を嗅ぎつけてホテルで張っていたら現れました。直撃すると、にこっと笑うんです、北朝鮮では珍しいちょっと柔和な感じの外交官で、当時は外務次官でしたけども「粛清」と聞くとちょっと驚きましたよね。

―――2023年に李教授が注目しているポイントは二つです。①完全な核保有のため、開発実験に邁進するであろう。②金正日氏の誕生日(2月16日)と金日成氏の誕生日(4月15日)、この間に功績を残したい金正恩氏が核実験を行うのではないか。

最近、衛星写真で確認したところによりますと、2月8日あたりにまた軍事パレードをやるんじゃないかと。2月8日は北朝鮮朝鮮人民軍創建日なんです。その前後も考えられますけれども、2月8日に軍事パレードをやって、その後、4月15日までの間に核実験をやる可能性は十分あるというふうに見た方がいいんじゃないかと思います。韓国の尹錫悦政権がかなり厳しい姿勢をとっているので、北朝鮮がエスカレートするのがちょっと怖いです。