海外送金所「キョウダイレミッタンス」は海外送金を専門にする業者で、200か国以上に送金ができて、銀行を使って送金するよりも手数料が安いため、多くの利用客が訪れます。コロナ禍に物価高、そして円安。激変する経済環境の中、どんな人がどんな思いで海外にお金を送っているのか?大阪・ミナミの海外送金所を定点観測しました。
「母国の家族のクリスマスのために」
開店から2時間が経とうとしていた午前11時50分。取材した11月29日の初めてのお客さんがやってきました。出稼ぎのため日本で介護の仕事をしているというフィリピン人の女性。母国にいる家族への送金に来ました。
(フィリピン人)
「クリスマスのためのお金。子どものプレゼントとか」
現地のお金で約3万2000ペソを送るといいますが…。
(フィリピン人)
「前だったら7万円で、今8万円送ったら(現地のお金が)同じ分かな、だいたい。(自分の)生活もかかっているから、やっぱりちょっときついですね」
フィリピンに同じ金額を送ろうと思っても、これまでよりも多くの日本円が必要になる理由、それは円安です。
円安と新型コロナで海外送金所は大ダメージ
日本銀行の「外国為替市況」によりますと、今年3月ごろから円の価値が下がる円安が続き、取材した11月29日は1ドル138円台。一般的には円安が進むほど、外国の通貨に替える時に多くの円が必要になるため負担が大きくなるのです。
銀行などに比べて手数料が安いことから人気の送金所ですが、新型コロナウイルス、そして円安は大きなダメージになっているそうです。
(キョウダイ・なんば支店 ナレンドラ支店長)
「コロナで新しいお客さんが入ってこないし、ちょっと減ってしまいましたね。急激な円安と、急激だけじゃなくて歴史的にひどい状況になってきて、今(外国人のお客さんの)数はあるけど送金がない」
コロナ禍で失職して来日「母親の面倒も見ないといけない」
送金所にやって来たインドネシアのバリ島出身の男性。観光地で知られるバリですが、新型コロナウイルスにより大きな打撃を受けたといいます。
(インドネシア人)
「バリはコロナで大きな影響を受けました。災害のようでした。家族のためにお金を稼ぐ手段を考えないといけませんでした。今バリで仕事を探すのは本当に大変なんです」
バリで働いていたレストランがコロナの影響で閉店。家族を支えるため2か月前に来日し、インドネシア料理店で働いているそうです。
(インドネシア人)
「自分のためだけに働いているんじゃないんです。母親の面倒も見ないといけない。バリでは家族をとても大事にするのです」
日本で働いて、母国の家族に生活支援として送金する人にとって、円安の影響は小さくないといいます。
(キョウダイ・なんば支店 ナレンドラ支店長)
「仕方なく送らないといけないというお客さんだったら送金するんですけど、そうでないと(送金を)我慢したいくらいのレベルなんですね。今の円安は」
海外からお金を受け取る人は「焼肉に京都旅行に」
一方で円安が吉と出る人もいます。午後2時にやってきたフランス人の男性。送金ではなく、お金を受け取りに来ました。
(フランス人)
「この状況は私にとってはうれしい。でも日本にとっては悲しいと思う」
フランスにいる親族からの誕生日祝い。円安のため以前と比べて受け取れる額が多くなったのです。
(フランス人)
「(Q日本でこのお金でなにをしたい?)焼肉!1泊2日で京都に行こうと思っています」
この後、友人と念願だった焼肉を堪能。清水寺で紅葉を楽しみ京都を満喫したそうです。
「34年間、海外の子どもたちのために」
送金所を訪れるのは外国人だけではありません。午後4時にやってきた山下欽三さん(69)は年に4回、ネパールへ送金しています。十分な教育を受けられない子どもたちの支援を34年続けているのです。
【送金所でのやりとり】
(山下さん)「この前15万送ったでしょ」
(支店長)「そうですね」
(山下さん)「(円安の影響で)あれでちょっと足らないって」
(山下欽三さん)
「(ネパールには)学校に行けない子がたくさんいて、日本の子どもたちに比べたらずいぶんと厳しい生活環境の中にいて、自分たちで何とかできないかと」
これまでに山下さんらが支援した子どもの数は約3700人。奨学金・食事・学校の制服などのサポートをしているそうです。
【送金所でのやりとり】
(支店長)「少しレートに変化が出そうな感じ」
(山下さん)「そうなの。やった。ちょっと円高なりそうかな」
(支店長)「大きくは変わらないけど」
現地で受け取れる額を同じにしようとすると、円安により2年前と比べて2割~3割ほど多くの円が必要になるといいます。
(山下欽三さん)
「もうたまりませんね。今回の円安とかで渡す金額が500ルピー、1000ルピーと減ると、それが何食分にもなるわけですよね、ネパールでは。その分が減るということは、ご飯を食べられないということだから、(ネパールの人が)もらうお金を毎年同じにするようにしています」
「3年会えていない弟の大学進学のために」
午後5時10分。来店したのはネパール人のデュンゲル・ビサルさん(26)。
手元にはかなりの大金が。日本円で54万円です。送金の理由は?
(デュンゲル・ビサルさん)
「弟が大学入学するために送って。ちょっと大変なことなんですけど、必要ですからやるしかないですね」
弟の写真を見せてくれました。
(デュンゲル・ビサルさん)
「3年会っていないです。会いたい、さびしい気持ちがあります」
弟のために学費を送るというビサルさん。ビサルさんも学生で3年前に来日して日本語を学んでいます。
(学校で日本語を学ぶビサルさん)
「おはようございます。お電話ありがとうございます。ビサルでございます」
将来の夢は日本語の通訳。今では簡単な漢字も書けるようになりました。ただ、学業の合間に行うアルバイトの月収は多い時で14万円。54万円もの大金は貯金だけでは足りず、友人から借りて集めました。
(デュンゲル・ビサルさん)
「勉強だけ頑張ってという気持ちで(弟に)送りました。(私も)学生時代はアルバイトもしないといけない、勉強もしないといけない、寝る時間も短いし。そういうことで生活しにくいかなと思っていますが、3年間頑張ってここまできました」
母国に住む家族や支援が必要な子どもたちのため。そこには大切な人のことを思う人々の姿がありました。