7月8日に安倍晋三元総理が銃撃された事件から5か月。逮捕された山上徹也容疑者(42)は現在は刑事責任能力の有無を調べる鑑定留置中だ。事件を巡っては警護体制の不備が指摘されてきたが、当時の警護体制について記された警察庁の報告書を基に、MBSが独自で実写とCGを組み合わせて当時の様子を再現・検証した。

警察庁の報告書を基に警護員と山上容疑者の動きをリスト化

 12月8日の近鉄大和西大寺駅。ちょうど5か月前、北側のガードレールに囲まれた場所で安倍晋三元総理が銃撃され、死亡した。この場所は来年3月までに再開発によってすべて車道になることが決まっている。
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 今年7月8日。多くの支援者らが集まる中、安倍元総理が演説を行っていた。その時だった。
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 2回の爆音が響き渡り、安倍元総理はその場に倒れた。
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 一体なぜ演説中に銃撃されるという事態は起きたのか。事件から1か月後、警察庁は当時の警護体制についての検証結果をまとめた。

 【警察庁の報告書より】
 『本件遊説場所の南側に警護上の危険があることは明らかであった』
 『警護計画には明らかな不備があった』

 警察庁の報告書には、現場にいた警護員らがどのように警戒にあたっていたのかが、秒単位で記されていた。
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 今回取材班は、警察庁の報告書を基に、当時、安倍元総理の周囲にいた警護員6人の動きと、山上容疑者の動きをリスト化した。

 午前11時28分42秒、安倍元総理が演台に登壇。午前11時31分5秒、山上容疑者が銃口を演台上の安倍元総理に向けた。わずか数分の間に何が起きていたのか。

警察官4人と山上容疑者の動きをCGで再現

 取材班は安倍元総理の最も近くで警護していた警察官4人と山上容疑者の当時の動きをCGで再現した。

 午前11時23分25秒、安倍元総理が登壇する前、候補者の演説が始まった。
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 周囲には警護員らが警戒に当たり、演台の周辺には選挙関係者の姿があった。
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 そして午前11時26分、ガードレールの外で南側を警戒していた警護員Cが、警護員Aからの指示を受けてガードレールの内側に移動している。
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 この時、山上容疑者は南側のバス停付近で拍手などして様子を伺っていた。

 こうした人員の配置について警察庁の報告書には次のように書かれていた。

 【警察庁の報告書より】
 『警護員Cが県道上を通行する車両と接触する危険を防止するため、ガードレールの内側に移動するよう指示した』
 『遊説場所の南方向への警戒は不十分となった』

 南方向、後方への警戒が手薄のまま、安倍元総理の演説が始まっていたのだ。

現場にいた人たちの証言「銃声とは気付かなかった」

 当時、この場所にいた女性が動画を撮影していた。動画には、安倍元総理が現場に到着し、警護員に先導されながら聴衆に手を降る様子などが映っている。
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 (当時現場で動画を撮影した女性)
 「すごい違和感でしたね。こんなところでされるのかなと思って。ここも車通りましたし、ここ渡る人もいましたし。厳重に守られているという感じはしなかったです」
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 後方から接近して銃撃した山上徹也容疑者。その手に握られていたのは容疑者が作ったという銃だった。事件があったその日に警察は山上容疑者の自宅を家宅捜索。ワンルームの部屋からは少なくとも5丁の銃と火薬などが押収されている。捜査員らはその異様な光景から『武器庫』と呼んだ。

 当時、安倍元総理の真後ろにいた自民党奈良市支部の青年局長・櫻井大輔さんは、あの瞬間について取材にこう話している。
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 (安倍元総理の後ろにいた櫻井大輔さん)
 「破裂したような音が鳴って、前がピカッと光って煙が出たような状態だったので、最初何かが破裂したのかなと思って。何か破裂したなら飛んで来たら危ないと思って僕はかがんだんですけど。(Qそれが銃だとは気付かなかった?)思わなかったですね」

 当時、聴衆の中で演説を聞き、事件直後には救命措置を呼びかけた奈良県天理市の並河健市長も「銃声とは気付かなかった」と話す。
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 (奈良県天理市 並河健市長)
 「立て続けにまた爆発音がありましたので、これは異変だということで駆け寄っていきましたら、安倍元総理が倒れていらっしゃった。そして容疑者が取り押さえられていて、そこに手製の散弾銃が転がっているのを見ましたので、それで安倍元総理が銃撃されたのだとわかりました」

『山上容疑者の目』にはどう映っていたのか

 銃撃を許した大きな要因の1つとされる安倍元総理後方への警戒の緩さ。当時、山上容疑者の目にはどう映っていたのか。容疑者の目線で見えていた様子をCGで再現した。
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 午前11時30分、山上容疑者はロータリーの歩道上を駅の方向に歩き始めた。
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 午前11時30分51秒、1台の自転車が演説する安倍元総理に近づく。さらに台車を押す男性もいた。
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 その2人が通り過ぎようとしたその時、山上容疑者が車道へと出て安倍元総理のもとへ。カバンから銃を取り出して立て続けに2発発砲した。報告書では、直前に横切った自転車や台車の動きを警護員が目で追ったことも、山上容疑者の接近を許した要因として指摘されている。

池田克彦氏「管轄するそれぞれの署がどこまで自分の問題としてやるか」

 今回の警護体制について元警視総監の池田克彦氏はこう指摘する。

 (元警視総監 池田克彦氏)
 「(奈良西)警察署が本来はもっと人を出すべきだったと思います。(警察署は)『県警本部が指揮することですのでそちらに従ってやります』という考え方になるのではないかと。そこに1つの問題点があったと思いますね」

 警察庁は事件を受け、要人警護を定めた「警護要則」を28年ぶりに改正。今年8月から都道府県警は全ての警護対象者について警察庁に報告して事前審査を受けることになった。

 (元警視総監 池田克彦氏)
 「全国警察に警鐘を鳴らすという意味では一定の効果があるだろうと。一番大事なのは地元を管轄しているそれぞれの署がどこまで自分の問題としてやるか。そこのところをもう少し(警察庁の報告書では)強調してほしかったなと」
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 警備のあり方を問うことにもなった今回の事件。逮捕された山上容疑者は、来年1月まで精神鑑定が行われ、その後、検察が起訴するか判断することになっている。