動物の保護団体が法改正に悩んでいます。環境省の発表によりますと、2020年度に全国の保健所や動物愛護センターに持ち込まれた犬や猫は約7万2000頭に上ります。そのうち約3万9800頭が新たな飼い主に引き取られた一方で約2万3700頭が殺処分されています。そんな中で「動物愛護管理法」が改正されて、今年6月から新たに、従業員1人につき飼育できる犬の数を制限する『頭数制限』、1頭あたりの飼育スペースの広さを規定する『数値基準』が定められました。この改正について保護団体などから悩みの声が上がっているのです。
保護活動のきっかけは『明日、殺処分されます』
神戸市兵庫区にある「保護犬ふれあいカフェGUARDIAN」。ここには犬の引き取りを検討する人たちが訪れます。
カフェを運営するNPO法人「DOGBASE」の代表・秋山文子さん。この保護犬カフェを通じて犬たちの新しい飼い主を探す活動をしています。
(NPO法人DOGBASE代表 秋山文子さん)
「この子らは多頭崩壊の子ら。一軒の民家に160頭ぐらいおって、犬だけで暮らしていた空き家があって、そこにおった子ら。この子らは繁殖引退犬の子たち。ペットショップとかに売られている子らの親をしていた子たち」
現在ここには約40頭の保護犬が暮らしています。保護犬とは、飼育放棄や繁殖犬としての役割を終えたことにより飼い主がいなくなってしまった犬のこと。保護されているのは犬だけではありません。
(秋山文子さん)
「このカラスは飛べなくなっていたところをうちの飼い主さんが見つけて捕まえてきて今治療中やねんけど、(ゆくゆくは)放せたらいいなと思っている」
ほかにもけがをしたハトや飼育放棄されたというミニブタもいます。エサ代や光熱費など運営費は1か月で100万円以上。支援に助けられて何とか活動を続けられています。
活動のきっかけはSNSでたまたま目にした1枚の写真でした。
(秋山文子さん)
「『明日、殺処分されます』という子が写真で出てきて。私でも引き取れるんかなと思って連絡してみて引き取った子がこの子なんですけど。この子をきっかけにこういう子らがいているんやということを知って保護活動を始めました」
殺処分される犬がいる現状を知り、8年前から保護活動を始めた秋山さん。これまでに約2200頭を保護しました。しかし最近は保護の依頼があっても応えられない状況が続いています。
保護団体らを悩ます「頭数制限」と「数値基準」
(電話をする秋山さん)
「お疲れ、今いけるよ。今?何の犬?今すぐは厳しいけど、ちょっと待ってもらえたら空きがいけるかな。ごめんな、ありがとう」
(秋山文子さん)
「(Qどなたからの電話ですか?)今のはね、うちの仲の良いボランティアさんで。全部引き取ってあげたいけど、うちが今のところキャパいっぱいなんで」
これ以上、保護できない理由は動物愛護管理法の改正にありました。動物を虐待などから守るための動物愛護管理法が改正されて、今年6月から新たに頭数制限と数値基準が導入されました。
頭数制限はペットショップなどの従業員1人につき飼育できる犬などの数を制限するものです。例えば保護団体では、来年には30頭まで、2年後には25頭、3年後には20頭というように、3年をかけて飼育頭数を段階的に減らしていきます。
また数値基準によって、1頭あたりの飼育スペース(寝床や休息場所となるケージの大きさ)がこれまで以上に必要にもなりました。縦は体長の2倍以上、横は体長の1.5倍以上、高さは体高の2倍以上が必要になります。これは秋山さんの団体にも適用されます。
(秋山文子さん)
「今まではこれでなにも言われなかったんやけど、この子らの大きさの2倍の高さと長さのケージが1頭に対して必要で。置く場所がないですね、置いてあげられる場所が」
これまでと同じように保護するには新たな場所を借りる必要があり、資金面でも一層厳しくなっていると話します。
頭を抱えているのは秋山さんだけではありません。20年以上ブリーダー業を営む福栄泰夫さんは、原油高でエサ代が上がるなど支出が増える一方で、法改正に伴う国からの支援制度はなく、立ち行かなくなると訴えます。
(ブリーダー 福栄泰夫さん)
「(今回の法改正は)ちょっと厳しすぎるね。厳しすぎます。(今は)ほとんど儲けはないです。犬のためにはええんかなと思うねんけど複雑。自分がつらいから、苦しくなってきたから」
犬猫適正飼養推進協議会の「2020年犬猫ブリーダー調査」によりますと、法改正を受けて犬の繁殖業者の約3割が廃業を視野に入れていて、犬や猫約13万頭が行き場を失うといいます。
環境省『予算が限られている…直接支援は検討していない』
ではなぜ法改正に至ったのか。動物愛護管理法を所管する環境省・動物愛護管理室の野村環室長に話を聞きました。
(環境省・動物愛護管理室 野村環室長)
「犬や猫の不適切な取り扱いをする事業者さんが非常にまだ多いというかおられる。これまでも犬猫の管理の基準というのは一定程度あったんですけれども、これをより具体的にしていかなきゃいけないと」
一方で、法改正によって苦しむ声が上がる中、今後考えられる支援策はあるのでしょうか。
(環境省・動物愛護管理室 野村環室長)
「一気に対応してもらうのは難しいだろうということで、3~4年かけて対応していってくださいという措置をしたというのが限界、といいますか。非常に国の予算も限られた予算しかございませんので、現状では団体を直接支援する仕組みを検討している状況にはございません」
『急いで新しい家族を見つけてあげたい』と譲渡会を開催
神戸市西区で行われた地域のイベントに秋山さんの姿がありました。
(ビラ配りをする秋山さん)
「頭数制限っていう法律が変わって、うち今シェルターを持っているんですけど、そこではもう助けてあげることができなくて」
頭数制限が始まった今年6月以降、保護の依頼は増えていて、今保護している犬の飼い主を1日でも早く見つけたいと譲渡会を開いていたのです。
(秋山文子さん)
「(Q譲渡会とカフェの両立は大変では?)大変ですね。もうカフェと譲渡会の両立だけじゃなくて、犬の世話も大変やし、もう全てが大変です。どうしても保護する頭数が前に比べて多いので、急いで新しい家族を見つけてやらないと、次の子たちが控えているような状況なので」
この日は3頭が新たな家族に迎えられました。
(新たな飼い主)
「やっぱり今は保護犬が多いので、ちょっとでもお家に迎えられて幸せやなと思ってくれたらいいなというのが飼うきっかけ」
貯金を取り崩して『犬が暮らすための家の土地』購入
とはいえ、卒業していく犬の数以上に保護の依頼が圧倒的に多い現状。秋山さんは思い悩んだ末、ある決断をしました。行き場をなくした犬のため兵庫県三木市に新たに約200坪の土地を購入したのです。かかった費用200万円は秋山さん自身の貯金を取り崩しました。
(秋山文子さん)
「地道にずっと10年くらい小銭貯金をしていたんですけど、結構貯まっていたし、たまたまここもそれくらいの値段で言うてくれはったので、縁として買ったらいいかな思って買いました」
犬が暮らすための家を建て、ドッグランスペースも整備する予定です。建設費は1500万円以上かかるためクラウドファンディングで資金集めをすることにしました。12月6日現在で約1300万円が集まっていて、2023年春ごろに完成予定だということです。
乗り越えなければならない壁はまだまだありますが秋山さんは前を向いてます。
(秋山文子さん)
「やっぱりかわいいしかないのと、新しい家族のところに行って幸せにしてもらっている顔を見たら『やってよかったな』って。何しているよりも一番楽しい。犬たちが楽しそうに走り回って、殺処分されるような子らがここに来て、問題のある犬じゃないと知ってもらって、家族につなげられる場所になれたらいいかなと思っています」