旧統一教会をめぐる「被害者救済法案」が、12月6日に衆議院本会議で審議入りする見通しです。法案では“不当な勧誘行為で寄付者を「困惑」させることを禁止”するとしています。この点について全国霊感商法対策弁護士連絡会の阿部克臣弁護士は「旧統一教会は時間をかけて教義を教え込むので、寄付時点では『困惑』していないように見える」と指摘。『自由な判断ができない状況』など、別の文言にすべきだという考えを示しています。また、被害者家族の救済に関する“養育費などの特例”についても、要件が厳しく範囲もかなり限定的だとして「救済にはほとんどならない」と指摘しています。
(2022年12月5日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

―――6日に審議入りした旧統一教会を巡る被害者救済法案、規定は大きく【禁止行為と配慮義務】にわかれています。まずは【禁止行為】を見ていきましょう。不当な勧誘行為で寄付者を「困惑」させることを禁止し、具体的には、「勧誘してくる人に対して退去を求めても立ち去らない」「恋愛関係の破綻を告知する」「霊感を用いること」などが明記されています。

―――この禁止行為に関して、全国霊感商法対策弁護士連絡会の弁護士・阿部克臣さんの見解はいかがでしょう。

はい。取り消し権が付与されているのは「困惑した場合だけ」です。統一教会の場合は、最初に正体を隠した勧誘をして、数年かけて少しずつ教義を教え込んでいく、恐怖や不安を少しずつ植え付けていくわけです。そうして信仰を持たせた上で、信仰に基づいて献金をさせるやり方をとりますので、献金した時点だけを見ると、困惑していないように見える。信者本人の意思に基づいて献金しているように見えるので、現在の法律の建付けですと「寄付の時点で困惑」が要件となってますから、外れる場合が多いだろうと考えています。そういう心理状態にさせられている、あたかも自らの意思に基づいて献金してるような形になっているということなんです。

―――阿部さんは「自由な判断ができない状況」など別の文言にすべきとお考えですね。

「困惑」とは、戸惑うとかそういうことを指す言葉ですが、「自由な判断ができない状況」など、より広い言葉であれば、統一教会がやっていることを捉えうると思うんです。この自由な判断ができない状況というのは。実は困惑という言葉の意味として、消費者庁のコンメンタール(注釈書)に説明してある言葉になるんですね。だとすれば端的に「自由な判断ができない状況」というのを条文上も規定すればいいと思うんです。

―――対象になる人を幅広く、ということだと思いますが、豊田さんは禁止行為に関してどう思われますか。

(豊田真由子元衆院議員)
この条文、実は「消費者契約法4条3項」に全く同じのがあって、それを契約じゃなくて寄付っていう行為にも使えるって言っただけなので、ここはそんなにハードルは高くないと思いますが、画期的な条文ではあるんです。阿部先生にお伺いしたいのは「自由な判断ができない状況」って世の中にいっぱいあって「本人は教義を信じて積極的に寄付するが家族が困るケース」や「ギャンブルで親御さんが経済破綻をして子供が困窮するケース」など憲法に反しない範囲で平等を守ったまま、みんなを救うってなると、ものすごく広がっていくので、どういうふうに切り分けができるか、可能性を教えていただきたいです。

(阿部弁護士)
おっしゃる通り、様々な寄付で救済すべきものはあると思うんですね。現在の新法の三条に入っている配慮規定というのは、弱いものですけれども、例えば「家族とか本人の生活の維持を困難にする寄付はしてはならない」という条項が入っていて、例えばそういうものを禁止規定という形で強くすれば寄付を今後救済する道は開く可能性としては出てくるかなというふうに思っています。

―――話が出ました「配慮義務」ですが、三つ項目が挙げられています。①自由な意思を抑圧することで適切に判断することを困難にさせない②個人や家族の生活の維持を困難にさせない③勧誘する法人を明らかにする、これに配慮しましょうというわけですが、罰則などの規定がないので禁止行為ほどの効力は見込みにくいという声が上がっています。そこで与党は修正案として「勧告に従わなければ、法人名を公表すること」など検討しています。

配慮義務に罰則がなかったとしても、法律上明確に禁止するというのは、それ自体が強い意味を持つわけです。①~③は寄付を勧誘するにあたって、当然守るべきもので、特に①と③は、過去に統一教会の判例でも違法性を認定する基準として判断されているものになります。これはもう配慮義務にとどめるだけではなく、端的に「禁止規定」とすべきだと思います。

―――続いて被害者家族をどうやって救済していくのかという話です。「養育費などの特例」が設けられ、寄付した人の子や配偶者らが本人に代わって寄付の取り消し、返還請求ができるということです。阿部さん、わかりやすくご説明いただけませんか。

例えば母親が信者として教会に献金をしていたと。それで家のお金がなくなって、子供が本来養育されるはずのものがされなかったと。その分を、子供が母親に代わって取消権を行使して返還請求できるというものです。ただ「要件が厳しく、範囲もかなり限定的で、被害者家族の救済にはほとんどならない」とみています。

「債権者代位権」で行使できるのは、あくまで子供が持っている権利の範囲内なので、子供の養育費だと月数万円ぐらいの金額になるわけで、母親が仮に数百~数千万円を献金していたとしても、あくまでも数万円とか、その範囲で取り消すことができるに過ぎない。他方で、要件がかなり厳しくて実際は被害者の救済になるかと言われたらかなり限られてくるということになります。

―――国会の会期が迫っていますけども、どのあたりで決着して欲しいと考えていますか。

家族被害の救済という点については、債権者代位権という制度を使ってる以上、これを手直しして、抜本的な救済を図るというのはなかなか難しいです。なので私が考えているのは、新法に「1年以内の見直しの規定」を入れていただいて、次の国会で家族被害や二世被害の抜本的な救済を図る法整備を改めて検討するとか、附則とか付帯決議で示していただき、次の国会できちんと議論していただくというのが現実的だと思います。