インドネシア発祥の大豆を使った発酵食品『テンペ』。「インドネシアの納豆」とも言われ、高たんぱく・低カロリーで栄養的にも優れたスーパーフードとして注目を集めています。そんなテンペを滋賀県の山奥で20年以上作り続けているインドネシア出身の男性がいました。インドネシアの現地メディアでは「日本のテンペ王」と紹介された人物です。

滋賀の山奥にいる“日本のテンペ王”

 京都市山科区にある「れんこんcafe」。昼下がりのカフェでお客さんが食べているハッシュドポテトのような厚揚げのような食べ物。

 (客)
 「絶対に日本人は好きなんじゃないかな」
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 その正体はインドネシア発祥の大豆の発酵食品テンペ。高い栄養価のスーパーフードとして注目を集める食品です。このテンペを日本で作って20年以上。滋賀の山奥に日本のテンペ王がいました。
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 琵琶湖西岸に連なる比良山地。杉の木が立ち並ぶ山の中でテンペは作られています。工場を運営するインドネシア出身のルストノさん(54)。ここで1か月に約5トンのテンペを作り、日本全国のインドネシア料理店などに卸しています。
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 真っ白な断面にみっちりと大豆が詰まったテンペ。高たんぱく・低カロリーで、「インドネシアの納豆」とも呼ばれ、インドネシアでは肉の代わりに食べられるなど国民食として親しまれています。日本の納豆のようなネバネバ感はなく、出来立てはナッツのような良い香りがします。

 (Rusto代表 ルストノさん)
 「白いでしょ。昨日はまだ大豆のままですね。今もうこれはいい発酵ですね。(Q発酵が出来上がる瞬間が楽しみ?)そう、一番楽しいです」

 材料は水と大豆とテンペ菌といわれる菌のみで、添加物は一切なし。シンプルゆえにつくるのは難しく、季節や仕込むタイミングで発酵中の温度や湿度管理が異なるため、繊細な作業が求められます。茹でた豆に菌を混ぜて発酵させること約30時間。雪のように白く固まったテンペが出来上がります。
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 そのおすすめの食べ方はニンニクだれに浸したテンペを素揚げした「テンペゴレン」。チリソースなどをつけて食べるのが定番なんだそうです。

 (記者リポート)
 「美味しい。けっこう酸味とかはチーズに近いんですけど、でもそこまでクセが強いわけじゃなくて、なんでしょうね」

きっかけは「日本の大豆製品の多さ」…家族4人でテンペ作り

 ルストノさんは日本人の妻・つる子さん(54)との結婚を機に来日。現在は長女のノエミさん(24)と次女のレミナさん(21)の家族4人でテンペ作りに励んでいますが、来日するまでは食べる専門で作ったことはありませんでした。
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 (Rusto代表 ルストノさん)
 「(きっかけは)日本に来てから5日後、錦市場に行って、そこからですね」

 豆腐や納豆など大豆製品が多いことに気付き、「日本でもテンペが売れるのでは」と考えたのです。しかしインドネシアと気候が大きく違う日本。上手く固まらなかったり菌が黒くなってしまったり失敗の連続だったといいます。
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 転機となったのは「水」でした。

 (Rusto代表 ルストノさん)
 「伏見のお寺で水をもらって、作って、上手くできましたね。そこから『やっぱり水かな』と思って、そこの葛川の水で作ったんです」

 豊かな自然が生み出す天然水が日本でのテンペ作りには欠かせないと、21年前にこの地に越してきました。それからも改良を重ねて今のルストノさんのテンペにたどり着きました。実に4年がかかったといいます。
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 異国の地での開発の日々。支えたのは家族の存在でした。

 【写真を見ながら話すルストノさんたち】
 (ノエミさん)「あぁ、私か」
 (つる子さん)「小学生かな?」 
 (ノエミさん)「小学生やと思う、たぶん」

 (長女 ノエミさん)
 「宿題をやったらその後はテンペの仕事って感じだったので。家族で一緒にやっていました」
 (Rusto代表 ルストノさん)
 「テンペだけじゃなくて、テンペの夢があるから、家族でいつも一緒に(過ごす)。家族の時間がいっぱいです。それがよかったです」

大規模な商談会に初参戦!そこになんと百貨店バイヤーが…!

 今年10月、ルストノさんらの姿は東京にありました。日本の食卓にもテンペが定着してほしいと、東京ビッグサイトで開かれた600社以上が出展する大規模な商談会に初参戦することにしたのです。ブースを設けて400食の試食を用意して臨みます。しかし…。

   (来場者)「結構なかなかね、本当に知っている人じゃないとね」
   (来場者)「テン『ベ』?」
 (ノエミさん)「テン『ペ』です」

 食べてはもらえるものの、テンペの認知度が低いからか、交渉とまではいきません。そこで…。

 (ノエミさん)「タンパク質が豊富で鶏肉と同等の量」
   (来場者)「ちょっと(パンフレット)よろしいですか?」
 (ノエミさん)「はい、もちろん」

 栄養価の高い食品としての側面を売り込みます。すると…。
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    (来場者)「へぇ、滋賀県なんや。冷凍庫の中に入れていていいの?」
  (つる子さん)「そうです」
 (ルストノさん)「1年が賞味期限です」

 この男性は関西で店舗を展開する「京阪百貨店」の食品バイヤーでした。冷凍保存もできるテンペに可能性を感じたようですが、そのわけは…。

 (京阪百貨店 矢谷達担当部長)
 「(最近)冷凍食品に特化した売り場をオープンしていて。冷凍食品の可能性をもっと引き上げていく、そんな売り場作りを目指しています」

 一度工場を見てから契約を考えたいとのこと。後日視察に来ることが決まりました。
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 東京での商談会から約1週間後。バイヤーの矢谷さんらが工場にやってきました。契約が決まれば初の百貨店進出。ルストノさんも気合が入ります。

 (ルストノさん)「これが発酵の部屋です」
   (矢谷さん)「は~なるほど」

 百聞は一見に如かず。実際の製造現場を見たことで矢谷さんらの気持ちも固まったようです。
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 (京阪百貨店 矢谷達担当部長)
 「初回発注をもうかけます。11月の頭に一回入れてもらって」

 無事、契約成立です。

 (Rusto代表 ルストノさん)
 「緊張しました、はい。緊張、うれしい、緊張、うれしいです。一個一個、(日本にテンペを広げるという)私の夢が叶います。うれしいです」

百貨店での実演販売で手応え『今度はもっと食べたいとなるように』

 そして11月。「京阪百貨店守口店」の売り場に初めてルストノさんのテンペが並びました。実演販売で娘2人がキッチンに立ちます。

 (実演販売をするノエミさん)
 「炒めあがりましたので、今から調味料を入れていきます」
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 大学芋ならぬ「大学テンペ」で集客を図ります。初めて目にするテンペにみんな興味津々です。食べた感想は…。

 (テンペを食べた人)
 「めちゃめちゃおいしかった」
 「大豆はそこまで好きじゃないんですけど、すごく食べやすかったです」
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 反応は上々のようです。幅広い客層をターゲットとする百貨店との初の取り引きにルストノさんは手応えを感じています。

 (Rusto代表 ルストノさん)
 「お客さんの口に入ってよかったです。今度はもっと食べたい(となるように)。まだまだこれからです。長いですけど、でも大丈夫です」