「カバディカバディカバディ…」と言い続けるイメージがあるスポーツ「カバディ」。インド発祥で、現地ではプロカバディがあり、テレビ中継もされ、スター選手も多く誕生しています。ただ、日本ではまだあまり知られていないマイナースポーツでもあります。そんな中で今回、取材班はカバディ日本代表選手に密着。国内での飛躍を信じて牙を研ぎ続ける姿に迫りました。

激しいぶつかり合いの中にある繊細な駆け引き…インド発祥のスポーツ「カバディ」

 体育館で激しく体をぶつけあう選手たち。11月20日、東京で「カバディ」の全日本選手権が行われました。関東や関西など全国の26チームが集結して日本一を競います。
k9.jpg
 大柄な選手が多い中、小さな体で躍動する人物がいました。河手佑天選手(25)です。河手選手はスピードを生かしたプレーが持ち味の日本代表の選手です。

 (河手佑天選手)
 「基本的に激しいコンタクト、接触があるスポーツなんですけれども、その中で結構細かい駆け引きとかチームプレーみたいな、繊細な部分もあるというのが個人的にはおもしろいなと感じています」
@.jpg
 カバディとは、ドッジボールコートのようなフィールドで7対7で戦うインド発祥のスポーツです。攻撃の選手1人が相手チームのコートに入り、守備の選手と接触・タッチして自分のチームのコートに戻るとタッチした人数分が得点になります。
@@.jpg
 守備の選手は基本的には攻撃側から逃げますが、攻撃の選手を捕まえて動けなくすると守備に得点が入るので、時には守備側がタックルを仕掛けることもあります。この攻撃と守備を交互に行い、制限時間内により多くの得点をとったチームが勝利となります。
k12.jpg
 (河手佑天選手)
 「相手のコート内に攻めている間は『カバディカバディ』と言い続けなければいけないという特殊なルールもあります。(Qコートから離れた場所では全然聞こえないですね?)そうですね。近くに審判がいるんですけど、審判の人に聞こえていればOKという感じになっています」

日本代表でもカバディでの収入はゼロ…普段は「アスリート社員」としてIT企業に勤務

 横浜市のIT企業「ProVision」。河手選手はカバディ日本代表ですが、普段はこの企業でアスリート社員として働いています。

 (同僚社員)「この写真、社内の公式Twitterにアスリート社員としてあげたいんですけど?」
 (河手選手)「大丈夫ですよ」
@@@.jpg

 (河手佑天選手)
 「自分は今、広報のチームに所属していまして、主に社外向けのリリースの記事であったり、あとはSNSの更新であったりとか、社外に向けて会社のブランディングをするような仕事をしています。国内ではカバディ1本で生活していくというのはかなり難しくて、まず(国内で)プロのリーグとかもないですし、日本代表でも金銭面は支給されないので」

 日本代表であってもカバディによる収入はゼロ。ほとんどの選手は河手選手のように2足のわらじで競技に打ち込んでいるのです。
k17.jpg
 ちなみに、河手選手の上司である高野ひかりさんは、ラクロス日本代表でありながら、同じくアスリート社員として勤務しているといいます。

 (河手選手の上司 高野ひかりさん)
 「日本代表で、ちょうど今年の7月に3回目のワールドカップに出場して、ありがたいことに目指していた5位を獲得することができました」
k19.jpg
 午後5時になると、他の社員が働いている中、河手選手は早めに退勤。アスリート社員は週5日・フルタイムでの勤務となりますが、競技の練習時間に合わせて出勤時間をずらすなど、競技優先の働き方ができるのです。

 会社から河手選手が向かったのは、都内の体育館。カバディ日本代表の強化指定選手たちは週に3日ほどここで練習を行っています。

 (河手佑天選手)
 「やっぱりけがが非常に多いスポーツなので、代表メンバーのほとんどの人が何かしらのけがはしていると思いますし、(けがで)手術をしている人も中にはいます。(Q河手選手自身は?)自分も左の膝を1回手術しました。半月板という膝軟骨みたいなものを切除する手術をしています」

遠征時に自己負担が発生『収支でいうとマイナスしかない競技ですね』

 大学1年生の時にカバディの授業があり、それをきっかけに本格的に競技を始めた河手選手。競技生活7年、けがを抱えながらもカバディを続ける理由を聞きました。

 (河手佑天選手)
 「正直、大学4年間でやり切れていれば、別にそこですぱっと終わって社会人になって仕事をして…という感じも想定はしていました。大学4年間の中で自分も国際大会とかいろいろ行かせていただいたんですけど、あんまり個人としての活躍もできなかったですし、不完全燃焼感というか」
k29.jpg
 大学卒業後も競技を続ける選択をした河手選手。体づくりのため、プロテインは朝昼晩とトレーニング後で1日4回。食事は多い日には1日5回と、生活費はどうしてもかさみます。給料も決して多いわけではなく、節約のため極力自炊をして外食はほとんどしません。

 (河手佑天選手)
 「(この料理には)鶏肉とかオクラとかカレー粉とかが入っています。脂質が少なくてタンパク質が豊富です。(Q大体これで1食いくらですか?)1食いくらくらいですかね?100~200円くらいだと思います」
@@@@.jpg
 こうした生活もすべてカバディのため。節約で浮いたお金は日本代表の活動に充てています。

 (河手佑天選手)
 「遠征に行くとなると、まとまって数万円とかお金が必要になりますし、そう考えると収支のプラスマイナスでいうとマイナスしかない競技ではありますね、カバディは」

 日本代表に大きなスポンサーが不在で協会の会費収入も少ないため、選手の自己負担が発生してしまうのです。

仕事をやめてインドのプロリーグに挑戦した日本人

 一方、カバディで生活する唯一の方法、インドのプロリーグに挑戦した日本人がいます。阿部哲朗選手(24)です。去年、母校での非常勤講師の仕事をやめてインドに渡りました。

 (阿部哲朗選手)
 「突然、協会から『プロリーグがコロナで中止になっていたものが再開する』という連絡がありまして、声をかけていただいてチャンスだと思ったので仕事を退職していくことを決めました」
k37.jpg
 阿部選手は1シーズン3か月、約120万円でプロチームから声がかかり契約したといいます。去年11月に単身インドに渡り、シーズン前のプロチームの練習に参加。しかし…。

 (阿部哲朗選手)
 「トレーニングキャンプの最終日に膝をけがしてしまった。膝の靭帯が切れた状態でプレーするというのはちょっと難しくて、最終的に試合に出ることはかないませんでした」

 インドのプロリーグは決して甘くはなく、プロで活躍してカバディだけで生活している日本人選手は今のところいません。

『知名度を上げるには代表チームが結果を出すことが一番』

 金銭的に厳しいマイナースポーツ・カバディの未来について、河手選手は次のように話します。

 (河手佑天選手)
 「カバディってなかなか一般的に知られていないので発信力というのも弱いですし、(スポンサー)企業側にあんまりメリットがないから続かないというのが今の現状ですね。例えば、オリンピックで金メダルとか取れば一気に広がるじゃないですか?知名度とか。代表チームが結果を出すというのが一番なんです」

 経済的に不安定なカバディ日本代表の選手たち。きょうも選手たちは飛躍を信じて牙を研ぎ続けています。