森友学園を巡る公文書改ざん問題で、改ざんを命じられ自ら命を絶った赤木俊夫さん(当時54)の妻・雅子さんが当時の理財局長・佐川宣寿氏に慰謝料などを求めて裁判を起こしています。「真実を知りたい」その一心で闘い続けてきた裁判が11月25日に判決を迎えます。判決を前に雅子さんのが今の思いを語りました。

 (赤木雅子さん 2022年11月)
 「夫がなんで死ななきゃいけなかったのか知りたかったですね。死ぬようなことをなんでしなきゃいけなかったのか。死なないで解決する方法はなかったのか知りたいです。この2年以上かけて頑張ってきたので、ありのままの結果を(俊夫さんに)伝えたいと思います」

 寝室に飾られた俊夫さんの写真の前に立つ赤木雅子さん。最近では「おはよう」「かえってきたよ」と語りかけるといいます。提訴した2年8か月前から思いは変わらないといいます。

 財務省近畿財務局に務めていた赤木俊夫さん(当時54)は、学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐる公文書の改ざんを上司に命じられたことを苦に、2018年3月、自宅で自ら命を絶ちました。俊夫さんが残した手記には当時の悲痛な思いが記されていました。
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 (俊夫さんの手記より)
 「今回の問題はすべて理財局が行いました。指示もとは佐川元理財局長と思います」
 「最後は下部がしっぽを切られる…なんて世の中だ」

「私や妻が関与していれば総理大臣も国会議員も辞める」安倍元総理の発言が発端に

 俊夫さんが悩み苦しむきっかけとなった公文書改ざん問題。その発端とされるのは、安倍晋三元総理の発言でした。

 (安倍晋三元総理 2017年2月17日)
 「私や妻が関与していたということになれば、これはもうまさに間違いなく総理大臣も国会議員も辞めるということははっきりと申し上げておきたい」

 国と学園側との事前の価格交渉を伺わせる記述や国会議員の名前、安倍元総理の妻・昭恵氏の名前が消されたり、学園側に便宜を図ったように受け取れる文言が削除されたりするなど、財務省の決裁文書14件で改ざんが行われていました。

国や佐川氏を相手に提訴『赤木ファイル』で明らかになった”局長の指示“やり取り

 財務省が公表した調査報告書では、当時の佐川宣寿理財局長が、決裁文書を「外に出すべきではない」と反応し、近畿財務局に改ざんを指示したとされています。しかし、誰がどんな言葉で指示・実行させたのかは明らかになっていませんでした。

 「夫はなぜ自ら命を絶たなければならなかったのか」雅子さんは国と佐川元理財局長を相手取り、損害賠償を求めて2020年3月に訴えを起こしました。
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 まず裁判では生前、俊夫さんから雅子さんが残していたと聞かされていた「改ざんの経緯を記したとされる文書」いわゆる“赤木ファイル”の開示を求めました。当初、国は「存在するかどうかも明らかにする必要はない」としていましたが、1年以上経って国側は突如“赤木ファイル”の存在を認め、裁判所へ提出しました。518ページに及ぶファイルの中に綴じられたメールで、佐川氏からの指示と分かる内容や、俊夫さんが改ざんの指示にあらがう言葉が残されていました。
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 ▼財務省本省から近畿財務局に送られたメールの文言(赤木ファイルより)
 「局長からの指示により調書につきましては、現在までの国会答弁を踏まえた上で作成するよう直接指示がありましたので、改めて、調書を修正後、局長説明を行う予定です」
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 ▼赤木俊夫さんから財務省本省へ送ったメール(赤木ファイルより)
 「既に意思決定した調書を修正することに疑問が残る」
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 赤木ファイルの内容を見た赤木雅子さんは当時の思いを、次のように話しました。

 (赤木雅子さん 2022年11月)
 「夫がどんな仕事してたかっていうのはなかなか知ることができなかったんですけど、財務省本省の人たちに向かって『こんなことするべきじゃない』というメールを出してたことを知り、夫は頑張っていたんだなと感じました。また、そんな苦しんでたんだなというのを知ることができたので(ファイルが開示されて)良かったと思っています」

急転…『請求を受け入れ』国が幕引き 雅子さん「ふざけんな!」

 改ざんの具体的なやり取りは明らかになったものの、雅子さんは、ファイルに残された内容をより明らかにすべく、裁判を進めていました。しかし、去年12月に事態が急転します。国側が突然請求を受け入れ、賠償金全額を支払うと明らかにしたのです。これにより、公文書改ざんと俊夫さんが自ら命を絶った因果関係は明らかにされないまま、国に対する裁判が終わってしまいました。直後の会見で雅子さんは怒りを露わにしました。

 (赤木雅子さん 2021年12月)
 「ふざけんな!と思います。お金を払えば済む問題じゃない。こんな形で終わってしまったことが悔しくてしょうがない。私は夫がなぜ死んだのか、なぜ死ななければいけなかったのかを知りたい」
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 請求の受け入れから11か月が経ち当時の思いを改めて次のように振り返ります。

 (赤木雅子さん 2022年11月)
 「あのとき(認諾)は頭が真っ白になっちゃったんですけど、よく考えると国は全力で隠したいんだなというのがわかりました。何を隠してるんだろうというのはすごく知りたくなります。ショックですね。それも非公開の協議の場でしたので、何が起きたのか一般の人には見ることができない。公開されない中でああいうことをして、認諾した瞬間に出ていくんですよね。本当に忘れられない光景でした」

望みをかけた「佐川氏への『尋問』」認められず…悔しさ滲ませる

 唯一残された佐川氏への裁判。2022年5月に雅子さん側は、佐川氏本人や部下などの『尋問』を求めましたが、裁判長は「採用しなくとも判断は可能で不必要」として却下され、尋問が認められませんでした。当時感じた悔しさを雅子さんは次のように振り返ります。

 (赤木雅子さん 2022年11月)
 「やっぱり佐川さんの話が聞きたかった。とても残念です。夫の命をかけてやったこと、こうやって手記を残して命を落としてまで伝えたかったのに…。佐川さんに出てきてもらって、誰から改ざんという言葉があったかなかったのか、昭恵さんの名前や自分の名前を消せとか、もしかしたら安倍総理が言ったかもしれない。誰がそれを言ったのかを知りたい。法廷で語れないのだったら私や夫に直接会って手を合わせて話してほしい」

 提訴から2年8か月が経過した財務省の公文書改ざんをめぐる訴訟。「真実を知りたい」と追い続けた雅子さんの思いは法廷に届くのでしょうか。判決は25日午後に言い渡されます。