3組に1組がむかえると言われている「離婚」。そこで課題となっているのが別居中の親と子どもの『面会交流』についてです。2018年の子育て世帯全国調査のデータによりますと、離婚をした母子家庭で「父親との面会交流を実施していない」と答えた割合は57.3%と、高い数値になっていることがわかりました。そんな中で今回、面会交流のサポートを行うNPO団体を取材しました。

自らの経験から「面会交流」を支援するシングルマザー

 大阪市内の貸しスタジオ。父親と2人の子どもが楽しそうに遊んでいます。その近くには5人の男女が何かを記録しながら様子を見守っています。
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 そのうちの一人、築城由佳さん(44)。NPO法人「ハッピーシェアリング」の代表理事をしています。

 (NPO法人「ハッピーシェアリング」代表理事 築城由佳さん)
 「子どもたちが楽しんでくれれば、それだけでやっぱりやっていて良かったなと思いますね。みんなこの時間を楽しみにして来てくれているので」

 ここで行われていたのは『面会交流』。離婚などによって離れて暮らすことになった親子が、定期的に会って決められた時間を一緒に過ごすというものです。築城さんは自らの実体験からこの面会交流を支援する活動をしています。

最初は嫌でしかたなかった面会交流…きっかけは娘の「楽しかった」という言葉

 築城さん自身もシングルマザーで現在は小学生の娘と2人で暮らしています。

 (娘と食事をする築城さん)
 「あ、ごめん。葉っぱ入れとったわ。ローリエっていって、これ入れておくとお肉の臭みが取れんねん。もう一個入っていない?入っていたら教えて」
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 築城さんは8年前に離婚。離婚調停で、別居する元夫と娘の定期的な面会交流が取り決められました。しかし当初は「嫌でしかたなかった」といいます。

 (築城由佳さん)
 「私が子どもを育てるのになんで会わせなきゃいけないんだろう。ひとりで全部やる。誰にも頼らない。ましてやパパの方に『助けて』なんか絶対言わないと思っていましたね」
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 離婚から2年後に社会保険労務士の事務所を立ち上げた築城さん。仕事が軌道に乗ってくると、元夫を責める気持ちも薄れてきました。すると面会交流に積極的ではなかった娘が…。

 (築城由佳さん)
 「自分が変わることで、子どもも『また行きたい』『楽しかった』とポジティブな言葉を聞けるようになって、そこで気付いたんですよね。自分の気持ち次第で、自分の子どもへの関わり方次第で、こうも変わってしまうんだと」
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 平成28年度全国ひとり親世帯等調査によりますと、母子家庭のうち24%しか養育費が支払われていないということです。築城さんの場合、定期的に面会交流を行っていることもあってか、元夫からの支払いが途切れたことはないといいます。

 (築城由佳さん)
 「養育費は継続されながらも、それ以上の子どもにとっては経験というお金に変えられないことを与えていただいているというのはすごくありがたいなと思います。海に行ったり、川遊びしたり、キャンプしたりとか、運動とか」

 自身の経験から「同じ環境の人たちの役に立てるのではないか」と思うようになり、3年前に面会交流の支援などをするNPO法人を立ち上げました。

面会交流後の父親「子どもと会うことで生まれる感情も絶対ある」

 11月13日。築城さんの隣を歩くのは、夫と別居中の母親とその子ども2人。向かっているのは別居する父親との面会交流の会場でした。

 子どもたちを送り届けた後、母親はその場を離れました。
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 (築城由佳さん)
 「この後、パパのお迎えに行くんですけど」

 築城さんは父親を迎えに近くの駅へ。両親が顔を合わせないようにする工夫です。
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 (子どもと面会する父親)
 「(子どもを抱き寄せながら)ははははは、久しぶりやな!おぉ、なに持ってきてくれたん?」

 30代の父親。妻とは離婚の話し合いをしていて、別居から数年が経ちます。子どもたちと会うのは2か月ぶりです。

 【スマホを見ながら話す2人】
 (子ども)「これいつ食べたん?」
  (父親)「お仕事でな、こんな感じで頑張った時があってん。こんなんしてな、大きい会場でな」
 (子ども)「これ何歳なん?」
  (父親)「最近や。これはおばあちゃんや、お前らの」
 (子ども)「これパパのおばあちゃんなん?」
  (父親)「そうやで」

 息子たちにこの時間を満喫してもらいたいと、父親はこの日、独楽(コマ)を持参してきていました。

  (父親)「まず見とき。行くぞ、すごいやろー!」
 (子ども)「(独楽を蹴る)」
  (父親)「おいおい。すごいやろー、めちゃくちゃ強いやろ」
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 これは「見守り型支援」で、スタッフが団体内で共有するため交流内容を記録します。

 (築城由佳さん)
 「素直に感情を出せているかとか、兄弟とかだと小さい子だと一緒に遊んでいなかったりするので、寂しい様子はないかとかね。子どもが言ってほしくないことを言ってしまう親もいるかもしれないので、そういうところは注意させてもらっています」
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 この日の面会交流は2時間。終わるころには父親は汗だくです。

 (別居している父親)
 「やっぱり楽しかったですねー、子どもたちと会えて。第三者が場を設定してくれないと会えないという人もいると思うので。会うことで生まれる感情とかも絶対あると思うので」

 次に子どもたちに会えるのはしばらく先です。

 (子ども)「ばいばいー」
  (父親)「ばいばい、じゃあな」

 帰る時も築城さんが最寄りの駅まで父親を見送りました。

離婚を未然に防ぐため“男性の育児参加の必要性”を訴える活動も

 築城さんの活動はこれだけではありません。離婚を未然に防ぐためにも、女性の立場から男性の育児参加の必要性を訴えています。

 (築城由佳さん)
 「一番夫婦の悪化が起きているのは産後なんですよね。妊娠は1人ではしませんから、出産も1人ではできません。やっぱり2人で作ったお子さん、そして2人で育てていく」
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 実際に離婚を踏みとどまった人もいます。こちらの男性は以前、妻との離婚を考えていましたが、築城さんの講演を聞いたのをきっかけに子どもの事を第一に考えるようになり、妻との関係が徐々に修復したといいます。

 (離婚を踏みとどまった男性)
 「どちらが子どもをみることになったとしても、親がいない瞬間がどうしても長くなると思うので。そういった時に寂しい思いをさせるのがつらいなと思いました」
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 築城さんがこれまでに関わった親子は約500組。「たとえ離婚したとしても、DVや虐待などの場合を除いて、子どもの成長には父親と母親の双方が必要」と考えています。

 (築城由佳さん)
 「(離婚が)子どもにとって良い選択なのであれば、それは仕方がないこと。だけど争うことは子どもにとって幸せではないことだと思います。お父さんお母さんが共に責任を持って子どもを養育していくのが当たり前なんだよという社会になればと思っています」