ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から8か月以上が経ちました。生活を奪われて翻弄されるウクライナの人々。その中に「日本が誇る文化」を心の支えとしている少女たちがいました。
軍事侵攻から8か月以上…避難民が毎日祈ることは『早く戦争が終わってほしい』
「京都市国際交流会館」で民族衣装を身にまとい踊りを披露するのは、戦火を逃れて京都に避難しているウクライナ人たちです。「文化の日」の11月3日、ウクライナの文化をもっと知ってもらいたいと母国の踊りや歌を披露しました。
歌を披露したユリヤ・ボンダレンコさんはある思いを込めたといいます。
(ユリヤ・ボンダレンコさん)
「『明るい将来を約束してください』、そんなメッセージです。早く戦争が終わってほしいです。毎日このことについてお祈りしています」
黒煙があがるウクライナの首都・キーウ。ロシア軍は10月からウクライナ全土でエネルギー施設を標的にした攻撃を繰り返し、市民生活に大きな被害がでています。軍事侵攻から8か月以上が経った今でも終わりは見えていません。そんなウクライナ南部の最前線に今年8月、日本人ジャーナリストの玉本英子さんが取材に入りました。
繰り返されるロシア軍による攻撃。自宅にいるときにミサイル攻撃を受けたという4歳の男の子は次のように話しました。
(男の子)
「全部バラバラになった。これまでの暮らしは良かったのにバーンって」
爆発が心の傷として残っていました。
「日本のアニメ・マンガ」がウクライナで若者たちの心の支えに
突然の軍事侵攻で生活を奪われて翻弄される市民の中に、日本が誇る文化を心の支えとしている少女がいました。15歳のアリーサ・ゴンチャロワさんは今年3月、ロシア軍の包囲下にあるマリウポリから南部のオデーサに避難してきました。
アリーサさんが避難先に持ち出したのは日本のマンガとアニメグッズでした。服などは持たず、これだけを布のカバンにいれて避難してきました。
(アリーサ・ゴンチャロワさん)
「『呪術廻戦』。『ハイキュー!!』の研磨。『東京卍リベンジャーズ』のマイキー。私にとってとても大切なものだからです。とても混乱して、この先どうなるかわからなくて、とにかく気に入っているものを持って行きました」
脱出した時の光景は今でも目に焼き付いているといいます。
(アリーサ・ゴンチャロワさん)
「(マリウポリから脱出する時)兵士の遺体を見ました。今も悪夢にうなされます。爆発する夢を見ます。よく眠れません」
この日、アリーサさんはキーウに避難した親友とテレビ電話をしました。共に学び、家を行き来して夜まで語り合っていたことが遠い昔のことのようです。
(アリーサさんの親友)「早く会えるといいね」
(アリーサさん)「私もよ。それはいつになるんだろうね」
マリウポリではチェロを習っていたアリーサさん。祖父母やおばは今もロシア軍支配下のマリウポリで暮らしています。アリーサさんの母はこの戦争がわが子を変えてしまったと感じていました。
(アリーサさんの母)
「私たちと一緒にいた子どもたちがとても急に大人になってしまった。とても急速に。子ども時代を盗まれた、人生が半分になる、それは子どもたちにとっていいことではない」
娘を心配した母はオデーサに避難してすぐアニメショップ「ヨロコビ」を訪れました。ここでは「東京卍リベンジャーズ」や「SPY×FAMILY」など日本のマンガが人気で、10代の若者がコスプレをして来店することもあるといいます。
(アリーサ・ゴンチャロワさん)
「私にたくさんの喜び、新しい知り合い、友人をもたらしてくれた場所。それに出会えてとても幸せです」
来店する若者の中にはアリーサさんと同じように日本のマンガやアニメを心の支えとしている人がいました。17歳のダーシャ・ボンダレーヴァさんです。
(ダーシャ・ボンダレーヴァさん)
「(日本のアニメは)刺激的でおもしろい。人生の意味も教えてくれます。今も日本のアニメをよく見ています。気晴らしになるので」
ウクライナ軍の中佐だった父は7月末に戦死しました。
(ダーシャ・ボンダレーヴァさん)
「お父さんに『元気?』とメールしたら『元気だよ』と返事がきました。(その3時間後)お父さんは殺されました」
彼女の心の支えになっているのも日本のマンガやアニメ。大好きなキャラクターのコスプレをしてSNSなどに動画をのせることで気持ちを和らげています。
(ダーシャ・ボンダレーヴァさん)
「愛する人々が失われないように全て終わってほしい。明日のこともわからないんです。何が起きるのかとても心配です。敵の人たちにも戦争を経験してほしくない」
マリウポリからオデーサに避難したアリーサさん。ロックバンドを描いた日本の漫画をきっかけにギターを習いはじめました。
(アリーサ・ゴンチャロワさん)
「ここでギターを習い始めて立ち直ることができました。もっと上手になりたいです。ささやかなコンサートを開きたいです」