韓国・ソウルで10月29日に発生した群集事故では150人以上の死亡が確認されています。事故は繁華街・梨泰院(イテウォン)の路地で大勢の人が折り重なるようにして倒れたもので、韓国の消防は“死者の多くが圧死だった”との見方を示しているということです。当時現場では何が起きたのか。都市防災の専門家で「群集事故」に詳しい東京大学大学院の廣井悠教授は、事故発生の要因として「立地」「警備」「心理」の3つが考えられると指摘しています。
(2022年10月31日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

―――日本人2人を含む150人超が死亡したソウル・梨泰院の群集事故。日本人観光客にも人気のエリアで、飲食店、バーやクラブなどがある賑やかな通り(世界飲食文化通り)と地下鉄の梨泰院駅を繋ぐ路地が事故現場です。道幅が約3m、奥行き約40mの細い下り坂で、何が起きていたのでしょう。

―――可能性①「群集が前の方向に倒れた」。これは1㎡当たり3~5人の空間で発生、誰かがつまずくなどのきっかけで前方向に倒れ込んだというケースです。

厳密には1㎡3~5人から発生しうるってことで、それ以上高い密度でも、このような現象は発生します。メカニズムとしては、基本的にある程度人の流れがあるところで、何らかの原因でどなたかが倒れて、その後から人が止まれずに前の方にどんどん転倒が波及するタイプです。群集事故としては最も多いタイプで、そういう可能性が一つあるかなと思います。

―――可能性②「群集雪崩が発生」。群衆の真ん中にいる人が倒れますと、倒れた人を中心に周囲の人たちがどんどんと巻き込まれて倒れていくという現象です。

1㎡当たり10~12人がいる場合に発生し、気絶したり倒れた人を起点に、転倒が前の方ではなく、円形もしくは楕円状に広がるという点と、あと極めて高い密度です。1㎡10人以上で発生します。

―――梨泰院の映像では10~12人にはなっている可能性がありますか。

そうですね、事故が発生したときにどれぐらいの密度だったのかわからないのと、①の現象も、1㎡10人でも起こりうるので、どちらが起きたかちょっとわからないんですけれども、1㎡って電話ボックスの面積ですからそこに10人いるという状況を考えると極めて密度が高い。2001年の明石の歩道橋の事故は群衆雪崩タイプだと言われています。

―――こちらは360度に広がって人巻き込むというのも恐ろしいですね。

きっかけとしては、胸部とかに非常に強い圧力を受けて、気絶したりとか、気を失ったりして倒れ込んで、そこを起点に四方八方に人が折り重なるといったタイプです。

―――可能性③「立ったまま押しつぶされた」。韓国の「朝鮮日報」によりますと一部の報道機関では、消防当局の話として「犠牲者たちは下敷きになって圧死したのではなく、立っている状態で押しつぶされて圧死した」と報道されています。これを一宮市立市民病院の山口均救命救急センター長に聞きますと「圧迫されたことによる窒息は、上から下からではなくて水平方向でも起こりうる」「胸の厚みが半分ぐらいになるほど押しつぶされると、肺が膨らまず息ができなくなってしまう」こういったことが考えられるということです。

―――実は野嶋紗己子アナウンサーは満員電車で危険な目に遭ったことがあるそうですね。

(野嶋アナ)
大学生のときに通勤ラッシュで押しつぶされる経験があり、息ができなくなって目の前が真っ暗になって倒れてしまい救急車で運ばれました。私の身長は154センチですが、周りの人たちがカバンを持つ高さが私の顔辺りです。そのため息ができる空間を確保できずいつの間にか意識が遠くなっていくという経験でした。


―――群集事故の発生要因を廣井教授に三つにまとめてもらいました。
その① 狭い坂道という立地で前の状況がわからないまま人がどんどん流入したのではないか
その② 警備態勢です。警備の体制は十分だったかどうか、検証する必要がありそうです。
その③ 心理的な要因、人々がパニック状態になった可能性もあるのではないか。現地を知っている人によりますとと、お酒を飲んでる人や踊っている人など非常に賑やかな状態だったのが、一気にパニック状態になったんじゃないかということです。

1回過密空間が発生してしまうと、そこから脱出するのは極めて難しくなりますので、そういう状況を発生させないことがまず一番重要です。発生してしまったら誘導員や警備員の指示にちゃんと従うことと、落ち着くことですよね。そもそも人が集まってしまうとちょっと興奮状態になりやすく、我先に移動しようとかそういう人が多くなるんですが、落ち着くということがとても重要なんじゃないかなと思います。