兵庫県小野市と兵庫県加西市を結ぶ「北条鉄道」。経営は赤字続きで、2020年度の赤字額は2300万円でした。しかし、“人気者”がやってきて乗客が急増しているそうです。

地元住民にはかかせないミニ鉄道だが…これまでに何度も「廃線」の危機に

 兵庫県北播磨地域。田園風景が広がる中、電線のない線路をディーゼル車が駆け抜けていきます。
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 この北条鉄道は、兵庫県小野市の粟生駅から兵庫県加西市の北条町駅までの8駅、13.6kmをつなぐミニ鉄道です。加西市を走る鉄道はこの1本だけで、地元住民にとってはかかせない存在です。

 (高校生)
 「(Q北条鉄道を使わないといけない?)他の交通手段はないですね、車以外は」
 (乗客)
 「(Qいつも使っている?)使っていますよ。(Qこれがないとやっぱり困る?)ちょっと困りますわな」
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 しかし経営は赤字続き。旧国鉄の“お荷物路線”とも言われ、約40年前(1985年)に旧国鉄から第三セクターとして再出発した後も厳しい状況が続き、何度も廃線が取りざたされました。

旧国鉄車両『キハ40』が北条鉄道に仲間入り!

 そんな中、最近、大きな変化が起きているといいます。

 (埼玉から来た人)
 「北条鉄道は初めて乗ったんですけれども、音の響きとかディーゼルの起動する瞬間とかが感無量です」
 (京都から来た小学生)
 「このキハ40に乗るために来ました。気動車の音とかレトロさが好きです」
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 今年3月、北条鉄道に旧国鉄車両の『キハ40』がやってきたのです。クリーム色の車体に青色のラインがアクセントとして映えます。

「『なんでそれなん?』ってずっと言われ続けた」引退車両の購入に異論の声も

 ところで、なぜキハ40を導入することになったのでしょうか。北条鉄道の坂江大宗さんに聞きました。

 (北条鉄道 坂江大宗さん)
 「中古の車両がほしいというのがきっかけで、鉄道会社にいろいろ連絡を入れた。その中で、JR東日本さんから『秋田県を走っていたキハ40でよければお渡しできますよ』と回答をいただいた」

 新車であれば2億円ほどかかるところ、キハ40の購入費用は300万円程度。とはいえ、引退車両を購入することに社内でも異論の声がありました。それでも坂江さんは「勝機がある」と約1年、説得を続けたといいます。

 (北条鉄道 坂江大宗さん)
 「最終的には『うん』って言ってもらえましたけど、最後の最後まで疑問を持たれ続けたというか、『なんでそれなん?』ってずっと言われ続けたので。自分も鉄道が好きなほうなので、キハ40が北条鉄道を走ったら話題性が出てお客さんも集まるやろうなというのがありました」
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 坂江さんの予想は見事的中。導入資金をクラウドファンディングで募ったところ、わずか1か月で想定をはるかに超える1300万円あまりが集まる注目ぶりでした。

『路線図』『雪かき』などが当時のままで「ギャップがいい」

 ようやく購入することができたキハ40。秋田県から福井県までを船で運んだ後、トレーラーに乗せ、加西市へ。約3か月におよぶ長旅の末、ようやく北条鉄道に仲間入りしました。
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 車内にはかつて走っていたJR五能線の路線図が当時のまま残されています。
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 さらに、車外には北国の鉄道ならではの「雪かき」が備えられています。外装も内装もほとんど往年のまま。これがファンにはたまらないようです。

 (鉄道ファン)
 「そのままの状態でもってきたので、中に『JR東日本』とか表示が残っていたりするんです。そういうギャップがいいなあって」

運賃収入は過去最高に 駅では『キハグッズ』や『鉄印』を販売

 余生を送るどころかミニ鉄道の“救世主”となったキハ40。北条鉄道ではコロナ禍前を上回るほど利用者数が増加していて、キハ40を導入した2021年度の運賃収入は過去最高の8300万となりました。
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 “キハ効果”を狙って北条町駅にはグッズがずらり。
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 アクリルキーホルダーや設計図が描かれたマニアックなノートなど18種類のキハグッズが並びます。
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 また、一番の名物というのが、“キハ40の形の箱”に入ったドーナツで、6個入りで180円です。
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 さらに、乗車後に買える御朱印ならぬ『鉄印』も。デザインは4種類で、どれも大人気だそうです。

 (子ども)「全部買いたい」
  (父親)「全部買うん?それはちょっとやめて。どれがいい?」
 (子ども)「うーん…」

ボランティア駅長が駅舎を『駅ナカ婚活相談所』として活用

 コアな鉄道ファンの心をわしづかみにしたキハ40。しかし、北条鉄道は利用促進をキハ40だけに頼っているわけではありません。レトロな情緒あふれる駅舎を利用し、各駅に地元の米を使ったパン屋さんやギャラリーなどを開設。乗るだけではない楽しみ方でお客さんを呼び込む作戦です。
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 長駅には、凛々しい制服に身を包んだ男性の姿がありました。北条鉄道の社員と思いきや、ボランティア駅長の田中貴之さんです。

 (長駅のボランティア駅長 田中貴之さん)
 「制服の帽子はちょっとサイズが大きいですね。周りから駅長さんって見られるので、駅長の立ち振る舞いをしないといけないなというのはあります」
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 北条鉄道では無人駅の駅舎を有効活用できないかと、ボランティアで駅長をしてくれる人を募っているのです。駅長が駅舎をどう使うも自由。田中さんの活用方法は…。

 (長駅のボランティア駅長 田中貴之さん)
 「駅ナカという文字を使って『駅ナカ婚活相談所』」
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 婚活をサポートするNPO法人を運営している田中さん。これまでにここで出会った鉄道ファン同士がカップルになるなど4組がゴールインしたといいます。

 せっかくなので記者も体験してみることにしました。
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   (記者)「相手の年齢は自分と同い年から何歳くらいだろう…50歳でもいいか」
 (田中さん)「お仕事始められてから出会いはありました?」
   (記者)「ないですね」
 (田中さん)「仕事柄ないのか、プライベートもないですか?」
   (記者)「どっちもないですね」
 (田中さん)「そうなんですね。積極的に出歩いたりはされています?」
   (記者)「特にはしていないですね。出不精なので」
 (田中さん)「まずそういうところですよね、直さないといけないのは」
   (記者)「はい」

 大事なのは自分から動くこと。田中さんのアドバイスに熱が入ります。

 (田中さん)「相手の方が年上であろうがあまり物怖じしない。すごくいいところじゃないですか。ということは(記者の)結婚相手は20代~50代までいらっしゃるわけでしょ。ものすごい数の方と知り合えるチャンスがあるということじゃないですか」
   (記者)「前向きになりました。出会えそうな気がします」

 「駅ナカ婚活相談所」は初回相談無料で2時間制。2回目以降の相談・お見合いは別料金だということです(会員費3000円/月)。
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 あの手この手で沿線の活性化を図る北条鉄道。もう“お荷物”とは言わせません。

 (北条鉄道 坂江大宗さん)
 「ずっと乗りに来てくださる方も大切にしたいですし、でもやっぱりそれだけでは足りない部分もあるので、新しい乗客を呼び込むアイデアを今まさに皆で考えながらやっています」

 鉄道ファンも地元の人も巻き込んで…。北条鉄道の奮闘は新しいローカル線のあり方を示しているのかもしれません。