「主文、被告人を懲役1年6か月に処する。その刑の執行を3年間猶予する」女はまっすぐ裁判官を見つめていた。そして、言い渡しの後、小さい声で「はい」と答えた。判決によると、28歳の女は今年6月に大阪・日本橋の駐車場にあるコインロッカーに、自身が出産した赤ちゃんの遺体をポリ袋に入れたうえ、紙袋に詰めて遺棄した。

売春をして生計…『望まぬ妊娠』相談できず…紙袋に入れ持ち歩いた日々

裁判の中で、女の壮絶な人生が明らかになった。売春をしながら生計を立て、ホテルを転々としていたところ、客に妊娠させられたと気づき、誰にも相談できないまま赤ちゃんを早産。遺体をポリ袋や紙袋に入れて約2か月の間、持ち歩いたという。

これまでの裁判で検察側は懲役1年6か月を求刑。一方、弁護側は「望まない妊娠をさせられたことを考慮すべき」だとして執行猶予付きの判決を求めた。

裁判官「遺棄に酌むべき事情は乏しい」

そして9月26日、大阪地裁は執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。初公判の時と同じ服装で法廷に姿を現した女。裁判官に促されるまま証言席に座っていた。そして、裁判官は判決理由について次のように述べた。

 (裁判官)
 「コインロッカーが遺体の置き場所として相当でないことは明らかであり、遺体に対して敬う感情を大きく害するものである。妊娠や出産の経緯を踏まえても、本件に至るまでの2か月弱もの間、遺体をビニール袋に入れたままホテルの部屋に置いたり、コインロッカーに入れたりすることを漫然と繰り返すなど、遺棄に酌むべき事情は乏しい」

「社会での立ち直りの機会を設けるのが相当」

犯罪行為を厳しく指摘した一方で、次のようにも話した。

 (裁判官)
 「被告人は後悔の気持ちを述べ、二度と本件のような事態が起きないよう、生活を立て直す意欲を示し、反省がみられる。母親が同居して被告人を監督する意思を示していることなど、被告人に酌むべき事情がある。今回は社会での立ち直りの機会を設けることが相当」

判決理由を語る裁判官の様子を、まっすぐ見つめて聞いていた女。説明を終えた裁判官は女に対し、「説明は理解できましたか」と尋ねると、小さいながらもはっきりとした口調で「はい」と答えた。

そして最後に、裁判官は女に次のように諭して法廷を後にした。

 (裁判官)
 「気を付けて帰ってください。自分の体を大切にしてやってください」

売春を生業にして、『望まない妊娠』をした女。小さな亡骸の尊厳を傷つけた罪に対し、裁判所は、社会の中で更生をしながら『生きなおす』道を示した。裁判官の「自分の体を大切に」という言葉は女の心に刻まれたのだろうか。