国民の間で大きく意見が割れている「安倍晋三元総理の国葬」。こうした状況に、立命館大学政策科学部の上久保誠人教授は「いかにも政治家・安倍晋三を象徴する展開」と分析します。そして、今後、感情論抜きで国葬の議論を始めるために、例えば“総理大臣経験者は全員国葬をする”など「基準作り」が必要ではないかという見解を示しています。(2022年9月26日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

―――安倍晋三元総理の国葬は、なぜこんなに賛否が分かれているのか、今後、国葬はどうしていくべきなのか、立命館大学政策科学部の上久保誠人教授に伺ってまいります。


国葬を巡る議論は、いかにも「政治家・安倍晋三を象徴する展開」だと思っています。というのは、安倍元総理はいわゆる味方、お友達とも呼ばれましたけれども、そういう方を非常に優遇して、その方々はとても安倍さんを慕って、「こんないい人はいない」「本当に良くしてくれた」「業績も本当に素晴らしい」と言うんです。岸田総理が元々どう思っていたかわかりませんけれども、国葬をやってくれという声はあったんだと思います。だからこそ国葬をする。

一方で安倍さんは非常に敵に厳しいといいますか、「民主党政権は悪夢である」と言ったり、演説会場で反対派が来たときに「こんな人たちに負けるわけにいかない」と言ったり、あと野党を支持する団体に対して非常に厳しい言葉を国会で投げ、それに訂正を求められても「私にも言論の自由はある」と。こういう方々にとっては憎しみに近い感じ、憎悪というか・・・。こういう方々は、国葬なんかとんでもないと。これが本質であろう、最後まで安倍政治は安倍政治であったという感じではないかと思いますね。

―――確かに一般の有権者も安倍さんを応援したい人は熱烈で、反対する人は反対ですね。

インターネット政治がこの時代に広がったわけですけれども、もう完全に評価は真っ二つという感じですよね。
実は、中間の人は多いんと思うんですけれど、そういう人たちは基本的にネットで声を上げないので、反対賛成の人はひょっとしたら少数かもしれませんけど、ものすごく大きな声を上げている感じじゃないかなと思います。

―――取材で一般の方に話を聞いても、「国葬のプロセスは反対なんだけど、安倍さんを弔いたい気持ちがある」。そんな人もいました。

多いと思いますし、そういう方は実はあまり声を大きく上げないんですよね。私の周囲の大学生なんかも実は中道的で、マイルドな考え方が多いんですけどそういう方は静かなので、どうしてもこういう騒ぎになる。

―――岸田総理が説明をした国葬実施の理由は、大きく分けて4つありました。①史上最長8年8ヶ月の総理大臣の重責を担った ②震災からの復興や経済再生 ③国際社会からの高い評価 ④民主主義の根幹である選挙中の銃撃に哀悼の意が寄せられている。この点については?

一言でいうとどれも弱いですよね。①は佐藤栄作元総理がそれまで一番長かったんですけど、ノーベル平和賞取って沖縄返還をやってるのに国葬をやっていないです。②は政策は評価がまだわかれています。震災復興は道半ばで、アベノミクスは賛否がわかれているし、アベノミクスの負の遺産が今円安に出ている可能性もある。③外交は高い評価を受け、非常に慕われましたが、北朝鮮・北方領土などでの確たる成果はなく、③④についてはわかるんですけれども、国葬というには弱い。哀悼の意を示してもらえるのは、別に国葬でなくてもいいですよね。この4つの理由は説得力がなかったということが、国会審議の後で、国葬の反対が広がったということかなと思います。

―――中野雅至教授は、これらの4つの理由や国葬の現状をどう見ていますか?

(中野雅至教授)
基本的に基準がないので、上久保先生がおっしゃっているように、どうしようもないんだと思います。岸田さんの計算ミスやと思うんです。『民主主義の根幹』って次の日に新聞も書きましたけど実際は旧統一教会問題で、完全ミスリードで、そこから多分判断を間違っていった。ただ僕が思うのは、いま反対していますが、これを強行させた世論が問題なんですよ。だってアベノミクス以来、安倍さんはいろんな強行なことやってきたけど、選挙ではことごとく圧勝です。その土壌があってこその強行ですから、そこを踏まえた方がいいと思うんです。世論では、強行を言っても大丈夫、忘れちゃうみたいな形もあるから強行してるわけで、そこを踏まえた方が僕はいいと思います。

(上久保誠人教授)
弔問外交として国葬をやるっていうのは僕はちょっと納得できないっていうか、やっぱり亡くなられた方に失礼になると思います。今回は弔問外交にならなくて良かったんじゃないでしょうか

―――そんな中、感情論抜きで議論を始めるために先生によると例えば今後、「全員国葬する、国葬しない、一旦どちらか決めて基準作りが必要ではないか。」と。

閣議決定で国葬を決めたんですけど、そもそも法的根拠はあるんでしょう、でも閣議決定の中身がやっぱり問題視されていて、それは結局、政治家の評価は難しいということなんですよね。でも基準がないと揉める。だから今後何らかの基準を決めたらいいんだけれども、そうするときにですね、「もう国葬はやらない。あるいは国葬するんだったら規模はものすごく小さくてもいいから総理経験者は全員国葬するとか、そういうシンプルな基準を設けるしかないのかなと。結局、政治家の評価ってのは非常に難しいし、できない。あと感情的に対立がすごいので、もう与野党どっちの政治家であっても、総理をやったならば、一定のリスペクトという意味で全員国葬でもいいんじゃないかなと、今の感情的な対立を見ると、そういうことも考えてしまいます。

―――ここは議論の余地がありそうですけれど、何かやっぱり基準が必要なのではないかということですね。