少しずつコロナ前の忙しさが戻りつつある航空業界。今回、取材班は「ピーチ・アビエーション」にコロナ禍に入社した3年目の男性スタッフの1日に密着。そこにはトラブル対応に追われながらも、いきいきと働く姿がありました。

活気戻りつつある航空業界…「ピーチ」スタッフの1日に密着

 午前5時すぎ。まだ薄暗い関西空港第2ターミナルの駐車場には、すでに多くの車が止まっていました。

 (熊田大晃さん)
 「おはようございます。午前5時40分。(Qいつもこの時間に出勤?)そうですね、朝早い日はいつもこの時間に出勤しています」

 ピーチ・アビエーション入社3年目の熊田大晃さん(27)。利用客のチェックインや搭乗までをサポートする、いわゆる「地上職」を担当しています。
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 出勤後、まずはこの日の便の予約状況を確認します。

 (熊田大晃さん)
 「予約数が他の日よりも多い1日になっているので、特に朝の時間帯、これからの6時台7時台がすごくロビーが混雑すると思います」

 満席の便も多く忙しい1日になりそうな予感。午前6時、出発ロビーに向かいます。ところが…。

 (熊田大晃さん)
 「6時台でまだ人が思ったより空港に来られていないので。ということは6時台後半に人が集中する。ギリギリに来られるお客さまが今日は少し多い日かなと、少し怖いかなと」
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 チェックインはQRコードなどを利用して自分で行うため、IT機器に不慣れな人は戸惑うこともあります。熊田さんはトラブルに備えて機械の近くで待機します。

 (熊田さん)「おはようございます、何かお困りのことは?」
    (客)「今ね、(家族が)見送りに来てくれると言って、『チェックインせずに待っていて』と言うから」
 (熊田さん)「確実に乗られるようであれば、先にチェックインしてから待っていただいた方がギリギリまでご家族の方とお話できると思うので。お手伝いさせていただきます」
    (客)「持ち込みはこれだけ」
 (熊田さん)「これがチケットになるので完了です」
    (客)「簡単。ありがとう」

入社直前にコロナ禍に…一時期は「国際線全便運休」「国内線は1日5便のみ」

 入社3年目。今やっと慌ただしい日々を過ごしています。

 (熊田大晃さん)
 「入社が2020年の4月なんですけど、これが(出発便で)全て埋まっているというのが当時の自分からすると考えられない」

 『インバウンド需要に応えられる仕事がしたい』とピーチに就職した熊田さん。しかし入社直前にコロナ禍になり悲惨な状況が続きました。

 (熊田大晃さん)
 「まず国際線がピーチ全便運休。続いて入社したタイミングで国内線も一気に1日5便まで規模を減らさざるを得なかったという状況で。この先、航空需要が無くなってしまうのではないかと、休みの日も全然眠れない日もありましたし、会社に入って良かったのかな…と」
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 それから徐々に国内線が再開・増便した路線もあり、コロナ前ほどではないものの利用客の数は戻ってきているといいます。今年8月には1年4か月ぶりに国際線も再開。外国人旅行客も少しずつ増え、空港内にもかつての活気が戻りつつありました。

“乗り遅れてしまった人の対応”なども増加

 それと共にトラブル対応も増えています。

    (客)「お願いします。通して。行かなきゃならない」
 (熊田さん)「どこまで?」
    (客)「東京」
 (熊田さん)「飛行機のドアが閉まってしまって、もう一度開けると他のお客さまが遅れてしまうので…」
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 ピーチではチェックインの時間を1秒でも超えると飛行機に乗ることはできません。時間に厳しくするのには理由があります。ピーチはコストを抑えるため最小限の機体で運行していて、『目的地に到着した飛行機が再びお客さんを乗せて戻ってくる』という方法をとっています。このため出発の遅れは1日の全ての便に影響してしまうのです。
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    (客)「ギリギリになっちゃって、(QRコードを)かざしたら『締め切りました』と表示されたんですけど…」
 (熊田さん)「締め切りになってしまうと手続きができなくなってしまうんですよ。申し訳ないです」

 こちらの2人も乗り遅れてしまったようです。目的地に向かう次の便が出るのは10時間後。すると…

 (熊田さん)「ANAであれば恐らくチケットがあると思います。時間の融通が利くのは新幹線。12時過ぎには東京に着けるかなと」
    (客)「ありがとうございます」

 (乗り遅れた人)
 「(搭乗手続きの)対応してくれるかなと思ったので、やっぱり無理か…と思いました。(兵庫から)始発で行ったんですけど始発でもギリギリだったんだなと。仕方がない。(熊田さんは)めっちゃ親身になってくれて一緒に悲しんでくれたなと思いました」

 2人は別の航空会社で東京に向かいました。
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 (熊田大晃さん)
 「もちろんピーチに乗ってもらうことがメインではあるんですけれども、お客さまが旅先で過ごしていただくことが優先なので。帰りや今後にピーチをご利用いただけるように先を見通して」

「旅くじ」などの新たな旅行需要で“業界の停滞期”を乗り越える

 やっと戻ってきたコロナ前の日常。航空業界が停滞したこの2年、ピーチでは新たな取り組みも始めました。その1つが『旅くじ』です。1回5000円で引ける旅くじのカプセルの中には行き先とそこまでの航空券が購入できるピーチポイントなどが入っています。SNSなどで話題となりこれまでに2万6000個以上を販売するヒット商品になりました。
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 (『旅くじ』を企画したピーチ・アビエーション経営企画室の小笹俊太郎さん)
 「本当にスタッフも含めて下を向いてしまうような時期が長かったのですけれども、こんな時だからこそ新しいことにいろいろチャレンジして気持ちを上向きにしていくのが大事ではないかなということで。10年前に航空業界に風穴を開けた存在として、我々としても常にユニークな発想をしながら皆さんのテンションを上げていくようなお手伝いができたらいいなと」
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 これまでチェックインの機械を段ボール製にしたり、デパートだった場所をオフィスとして再活用したりするなど、徹底したコスト削減で格安を打ち出し人気を博してきたピーチ。コロナ禍を経て始めたのが空港のない街である京都府京丹後市と提携して新たな旅行需要を生み出す取り組みです。

 (ピーチ・アビエーション経営企画室 小笹俊太郎さん)
 「海外の方にたくさんもう一度日本に来ていただく。大都市だけではなくて、今後は例えば空港からさらに遠いディープなローカルの場所とか、そういう所にも注目していただけるような施策もできたらいいなと思っています」

搭乗に間に合うよう客の荷物を持ってダッシュ!

 午前8時。地上スタッフの熊田さんの姿は搭乗ゲートエリアにありました。最小限のスタッフで運用するため、仕事内容は多岐にわたります。
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 (スタッフ)「新千歳3名です。新千歳の行き方いらっしゃいませんか」
 (熊田さん)「ちょっとあっちに行ってきます」

 搭乗時刻になってもまだ乗っていないお客さんが…。

    (客)「新千歳です」
 (熊田さん)「荷物持ちます。これ持つので」

 熊田さんもお客さんの荷物を持ってダッシュ!

 (熊田さん)「3名これからゲート向かわれます」
    (客)「すみません、ありがとうございます」
 (熊田さん)「大丈夫です。この先ゆっくりで大丈夫ですので」
    (客)「申し訳ないです」
 (熊田さん)「急いでいただきありがとうございます」

 飛行機は無事、定刻通りに出発しました。

 (熊田大晃さん)
 「(Q結構な運動量ですね?)運動量ですね。入ってから痩せた気がします」
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 1日の仕事を終えて事務所に戻るとへとへとです。でも熊田さん、どこかうれしそう。

 (熊田大晃さん)
 「今日みたいな出会いもありますし、また新しい発見とか気づきがあって。日々いい意味で単調ではないというか、ドキドキしながら生活できるのは勉強にもなりますし、やりがいもあります」

 入社3年目で初めて実感できた航空会社でのやりがい。少しずつコロナ前の日常が戻り始めています。