中国の支援が、のどから手が出るほど欲しいロシア。長年、中ロ関係を見てきた大和大学の佐々木正明教授は、首脳会談で「『一つの中国』はっきりと述べたのは初めてではないか」とプーチン大統領の「配慮や忖度」を感じたという。一方で中国について「弱いロシアにショックを受け、頼りにならないと考えたのではないか」とも分析。不協和音の気配が醸し出された首脳会談、挟まれる日本は。そして佐々木教授は、プーチン大統領は「秋、確実に一手を打ってくる」と今後の展望を語った。
(2022年9月16日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

―――ウクライナの攻勢を受けて、ロシアではテレビの放送内容に変化があるということです。佐々木正明先生によりますと、政権支持の国営テレビでは「前線への兵器の補給が圧倒的に少ない。何をやってるんだ」とか「達成目標から遠ざかっているのは明らかだ」などと専門家たちが公言し、中には「敗北を示唆するものまで出現している」と。これは一体?

ロシアのメディアは国営、プロパガンダばかりを流していますので、ここはやはり違う意図があると見た方がいいと思います。これはですね、まずい状況を国民に植え付ける。兵力不足・武器不足の状況にありますので、このようにひどい状況だよ、反転攻勢でロシアが撤退していることを示唆することによって、一般のロシア人たちがこれはまずい状況なんだと。

今、別れ道に来ているかなと思います。一つはやはり戦時体制に入る。戦争継続を重視するような予算編成をする。例えばそこで切られるのは教育費や高齢者福祉施設の予算だったりというようなことをやる、そして大量増員するような戒厳令を敷いたり、そのような「地ならし」に使っているんではないかと私は考えています。

―――ということは、計算された放送ということになるわけですか?

もちろん専門家たちは状況を知っているんですね。真実を喋っている。それをこれまではシャットアウトしていたわけで、そうするとやはりロシア側の意図が隠されていると思った方が良いと、私は思います。

――中ロ首脳会談でプーチン大統領は「ウクライナ危機における中国のバランスが取れた姿勢を高く評価する」と述べ、習近平国家主席は、「我々はロシアとともに変動する世界を発展へと導く主導的な役割を果たす用意がある」と話したそうです。佐々木先生によりますと、「のどから手が出るほど支援が欲しいロシアは『一つの中国』の原則を支持。ここまではっきり台湾問題の発言をしたことは初めてではないか」踏み込んだ発言があったということですか?

はい。忖度したということです。中国では10月に共産党大会、大事な人事があります。プーチン大統領にしてみれば、援軍が欲しい、経済的苦境になりかねないので、中国側、例えば半導体が手に入らなかったりとか、エネルギーをもっと買ってくれということを言いたいんだけれども、中国側に配慮を示した一つにこの台湾問題というのがあった。

私ずっと長く中露を見てきたんですけれども、冒頭のメディアにオープンにされたところで言ったのは、私記憶にないんですよ。もちろん2人で話し合うときや、外交文書を交わすときに「一つの中国」を確認し合うことはあるんでしょうが、それがクローズアップされるというのはこれは忖度していると。「バランスが取れた姿勢」という言葉も、これは習近平国家主席がですね、話し合いによる解決を求めているということですので、この発言も習近平国家主席に配慮をしていることになると私は思います。

―――習近平国家主席ですけども、佐々木先生によると「反米連合を築きたい中国だが、今回の侵攻で弱いロシアにショックを受け頼りにならないと考えているんじゃないか」ということですか?

2月に2人は会って、6月に電話会談もしています。2月の段階で「蜜月を強調」はあるんですけれども、今回のものに関しては、裏にある不協和音の匂いを非常に感じます。例えば「ロシアとともに変動する世界を発展へと導く主導的な役割を果たす用意がある」本当はプーチン大統領は、もう少し前のめりになってウクライナへを軍事支援するようなことをやって欲しいんですが、ここまでにとどまっている。

そして反米連合ということでは、少し言い方がきついんですが、ロシアはまだ味方なんですよね、使えるというふうに思っている。台湾有事があった際も、もしロシアとウクライナが戦っていれば、アメリカの目線をそらすことができる、ということでは一致できるんだけども、ここまでバランスを失ったロシア、そして弱いロシアを見せつけられて、習近平国家主席の「心やいかに」というふうに私は感じます。

―――中国は、軍事的な支援はもうできないという感じですね?

ウクライナの戦地でイランのドローンが見つかったという報道があるんですよ。もし中国語の武器などがあれば、制裁を破って、ロシアに支援しているということになりますので、なかなか表立ってはできない。ただこの2人もメディアにオープンのところではないところで話し合っていますので、本当は何を話し合ってるかはわからないです。

―――ロシアは日本に対して「窓を閉じつつある」ということなんですけれども、これは?

安倍元総理とプーチン大統領の関係がありました。なぜ安倍さんがプーチン大統領との関係を良好にしようと思ったかというと、もちろん北方領土問題もあるんですけども、ロシア側が、対中依存度を深めたくないんです。シベリア極東開発で中国に思うようにするのはやはりよろしくない、バランサーとしての日本ってのは必要だと思います。

ところが今回、日本も非友好国になりましたので、「窓を閉じつつある」というのは、まず平和条約交渉、これ停止しております。漁業交渉、ビザなし自由枠組みも閉じつつある。サハリン2もポイントになるんですが、ここまで閉じていくと、やはりその中国べったりにならざるを得ない、これはロシアにとっては良くない状況なんですけれども、ウクライナ侵攻でもう選択肢がなくなっているんだと思います。

―――今後のロシア、5つの可能性を先生に挙げていただきました。①国家総動員令②西側諸国のゼレンスキー疲れを誘う③友好国との協力を強化④ザポリージャ原発を「人質」⑤大量破壊兵器・戦術核の使用の選択肢。10月から11月はぬかるむ季節で、進軍速度は両軍ともに遅くなる、だが「プーチン大統領は秋、確実に一手を打ってくる」ということですが?

②(西側諸国のゼレンスキー疲れを誘う)は、既にもう狙っていますね。私、以前に冬将軍と言いましたが、凍えあがらせるのはヨーロッパの各家庭です。つまりエネルギー供給を停止して、ウクライナの支援を滞らせる、その国の政府に対してウクライナを支援すると、自分たちの光熱費も上がるし、冬寒くなるかもしれないということを狙っている可能性がある。すでに確実だと思います。

そして③(友好国との協力を強化)は、CIS=旧ソ連諸国、そしてベトナムとかミャンマー、アルゼンチンやブラジル。ロシアの協力国を増やしてエネルギーを安く売りますよ、武器を安く売りますよ、原発もやりますよとやって、支援の継続を長期化させる。つまり支援をいただくことによって、戦争継続のための資金を得ていく、これも外交としてやっていくんではないかなと思います。

そして④(ザポリージャ原発を「人質」)危険な賭けをすることによって時間稼ぎをする。サイバー攻撃があったり、不確実性の高いものを使う可能性もあります。①(国家総動員令)と⑤(大量破壊兵器・戦術核の使用の選択肢)は少し怖い、キナ臭い状況だと思います。