大阪・新世界のシンボル「通天閣」の真下にある立ち食いうどん店。つやのある麺にネギととろろ昆布をのせたシンプルなかけうどんは1杯170円です。6人も入ればいっぱいになる店内は客の姿でひっきりなしです。創業53年、先代から受け継いだ味と価格を守り続ける下町のうどん屋さんに密着しました。

安くておいしい!愛され続ける老舗「三吉うどん」

 午前5時30分、まだ人気のない静かな新世界。「三吉うどん」2代目店主・岸野友和さんの1日が始まっていました。開店まで3時間半、黙々と仕込みを続けます。
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 うどんに欠かせないダシはカツオ・サバ・アジなど6種類のブレンドで、先代の父のころと変わらないカツオ節店から仕入れています。時間をかけてダシを取り、特製醤油と合わせて火にかけると完成です。

 そして準備を終えると店の外へ。両親が残してくれたという大きな看板が営業の目印です。
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 午前9時、開店。妻のみどりさんと2人で店を切り盛りします。早速、常連客の姿がありました。
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 (常連客)
 「(Q何年ぐらいここに通われているんですか?)もうだいぶなるなぁ。ここは安くておいしい。これが本来のおうどん、おそばやろうな」
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 三吉うどんの魅力は味と価格。かけうどんは170円、玉子・きつね・天ぷらがのった1番高いデラックスでも370円です。
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 先代の父が亡くなりサラリーマンだった岸野さんが跡を継いだのは21年前。その時から価格はほとんど変わっていません。

 (三吉うどん・2代目店主 岸野友和さん)
 「消費税が上がった段階で一応10円の値上げをさせてもらって。もう20年くらいは上げていないかな」
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 次に訪れた4人組の常連客は近くの串カツ店のスタッフです。

 (串カツ店 店長)
 「仕事前にちょっと気合を入れておこうかなって。(Q今年の店の賑わいはどうですか?)まぁ人的には少ないですけど、でも売り上げは上がっていますね。(Qここ最近ずっとしんどかったですもんね?)いやほんまそうですね、そういうのが続いていましたから」

 岸野さんもコロナ禍でお客さんが減っても通い続けてくれる常連客のために店を開け続けてきました。
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 そして個性的な風貌のこちらの男性は…。

 (常連客)
 「(Q普段は何されているんですか?)これですがな、これですがな~。人力車です」

 新世界の魅力を伝えながら人力車を引いて今年で10年。三吉うどんの常連中の常連です。

  (常連客)「(Qここへはどれくらい来られているんですか?)まぁ週8で来ていますね」
 (岸野さん)「1日2回来る。食べにはこうへんけど、たまに水飲みに」
  (常連客)「(Qきょうも暑いですけどどうですか?)いや、暑い時にこういう熱いもん食うとかんとね」

 猛暑でも冷やしメニューはありません。これも先代からの変わらないスタイルです。

大きく様変わりした街の雰囲気…訪れる客層にも変化が

 店は昭和の雰囲気のまま。その一方で街は平成~令和と大きく様変わりしました。

 (三吉うどん・2代目店主 岸野友和さん)
 「こういう宿泊施設なんかもね、ホテルも新しくできて。昔はちょっと治安も悪いと言われていましたけど、そういう昔のイメージとか知らない方とかがメインで来られているから。うちは立ち食いうどん屋ですけど、家族連れの方とか若いカップルの方とかも結構来られるようになってね」
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 こちらの女性3人組は愛知県から来たといいます。

 (愛知から来た客)「(Q今日はどうして?)まぁ遊びに。先週も来たんですよ、3日で休み取って。先週も来て、今週も来て」

 2週連続での来店。関西風の味にはまったようで、ダシまできれいに飲み干し完食です。

 (三吉うどん・2代目店主 岸野友和さん)
 「うちも女性3人って珍しいんで。今でこそ観光地になりましたけど、昔はおっちゃんの街やったんで」
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 店の近くでも大きな変化がありました。すぐ隣の通天閣では、今年5月に全長約60mの巨大な滑り台「タワースライダー」がお目見えし、人気スポットになっています。店の真上のスライダー。これにはさすがに岸野さんも最初は戸惑ったそうです。

 (三吉うどん・2代目店主 岸野友和さん)
 「悲鳴が聞こえてくるんですよ。やっぱりこの辺ね、多少治安の悪い所が…、今はほとんどないですけど。その悲鳴で『またなんかあったんか』とか最初は本当にびっくりして。『あ、そっかスライダーや』って」

先代の父と…「しぐさとか形より味が一緒って言われるほうがうれしい」

 街の変化だけでなく、ここ2~3年で大きいのは新型コロナウイルスによる変化。これまで常連客の顔を見て“阿吽の呼吸”でうどんを出してきた岸野さんですが…。

 (三吉うどん・2代目店主 岸野友和さん)
 「皆さんマスクされて来られるんで、常連さんとか来てもすぐにわからない時もあるんですよ。やっぱりちょっと戸惑うというか」

 三吉うどんを継いで21年。最近、常連客から先代である父に似てきたと言われることが増えてきたそうです。

 (三吉うどん・2代目店主 岸野友和さん)
 「どうなんですかねぇ。まぁまぁ似て…そうですね。照れくさいですね。しぐさとか形より味が一緒って言われるほうがうれしいですね。やっぱり僕にとっては」

先代の父の言葉『立って食べてもらうのにお金はそんな取られへん』

 値上げをせずに味を守り続ける。そこにこだわるのは先代の“ある言葉”があったからだといいます。

 (三吉うどん・2代目店主 岸野友和さん)
 「うち立ち食いうどんなんで、『立ってもの食べてもらうのにお金はそんな取られへん』っていうのを(先代の父に)言われたんで。それは1番(心に)残っていて。やっぱり変えないというのが1番良いと思っているんで。味もそうですけど、やっぱりそういうのを守りながらね。それがお客さんにというか常連さんに伝われば良いかなと思って」

 変わるものと変わらないものが入り混じる新世界。1日でも長くお客さんに来てもらうため、岸野さんは先代から受け継いだものをこれからも守り続けます。