長年永田町の栄枯盛衰を見つめてきた政治ジャーナリスト後藤謙次氏の解説。世論を二分している「安倍元総理の国葬」については世論を読み違えた岸田総理の大誤算だといいます。そして世論の反発を考慮して、総理が国葬を取りやめる可能性について聞かれると「マイナス200%ない」「政権の存亡にかかわる」と論じました。
(2022年8月31日MBSテレビ「よんチャンTV」より)

―――安倍晋三元総理大臣の国葬について、8月31日に岸田文雄総理大臣が会見しました。どうして今日だったのか。後藤さんによりますと「これまで国葬が政権にプラスになる」と考えていたのではないかということで、3つ挙げていただいていますね。

岸田総理としては、「①自分の決断は国民の大歓迎を受けて、国葬によって逆に政権に勢いがつく」と思っていたんですが、旧統一教会問題が拡大するにつれて国葬に対する批判が強まってきた。しかも10日間のコロナ療養中に、岸田総理はリモートの形で様々な発信をしたんですが、きちっと説明がなかった。この説明不足に対する厳しい論調も増えてきた。岸田総理は「検討します」が口癖で永田町では「検討使」なんてことも言われちゃってるわけですが、自分は「検討使」じゃない、ちゃんとここで国民に説明をする。そのためには、コロナ療養明けの8月31日しかなかったんですね。この日を越えてしまいますと「何をグズグズしている」という批判があるわけでこれ以上悪くならないために、今日あえて記者会見をしたのでは。

さらに野党側は、憲法53条に基づく臨時国会の召集を要求していますから、これはなかなか物理的に難しいんで、そのために閉会中審査に自分も出ますと。野党側の国対委員長会議の前にですね、自らその発信をして、野党側のボールを奪ったという面では、いかにここをしのぐかということに全力投球した会見だったと思います。

―――他にも「②安倍派へのアピール」「③弔問外交で安倍外交遺産を継承」といったことも考えられているということなんですね。

今回の安倍さんの死は非常に衝撃的でした。自民党では97人勢力を持っていて、その勢力の背後に、岩盤支持層と呼ばれる国民がいるわけです。その離反を招かないためにも、私はこれだけ安倍さんを尊敬し、さらに死にあたっても、多くのエネルギーを注いで弔いをしたいと、そういう思いを伝えたいのだと思いますね。さらに、安倍さんが地球儀を俯瞰する外交で、様々な国のリーダーたちと交わりを結んできたその外交遺産を、自分が弔問外交という形で受け継ぎたいと。そういう思惑がありましたけども、今残ってるのはその3番目の理由だけ、そんな感じがします。

「マイナス200%ない」国葬撤回=退陣に行き着いても…

マイナス200%しても(国葬の)撤回はしないと思いますね。これだけ政治問題化をして、岸田総理は重ねてやると言ったからには、撤回はイコール、総理退陣まで行き着いてもおかしくない、それだけの政治問題化しちゃったわけです。岸田さんの最初の読み違いが今日に至っているんだと思います。安倍さんが亡くなられて、14日に国葬表明、22日には閣議決定していますがそのときは、旧統一教会問題はここまで大きくなってなかったわけですね。つまり旧統一教会問題の拡大に比例するように、国葬反対が増えてきている。

そして元々、安倍総理の政治手法は、白黒、敵味方を峻別して、その摩擦熱で政策を推進していこうというもの。多くの反対派も存在したわけですね。それが旧統一教会問題に従って、ラインが徐々に反対の方に移っているというのが今の状況だと思います。

―――国葬にお金がどれくらいかかるのか、参考として中曽根元総理の葬儀に関する情報です。2020年10月に、内閣・自民党の合同葬という形で執り行われました。参列者が600人、場所がグランドプリンスホテル新高輪で約1億9000万円かかりました。後藤謙次さんも合同葬に参列されたと聞きましたが?

しました。ホテルですからどんなに大きくても武道館でやるのと同等ではないと思うんです。中曽根さんのモデルに従って予算もはじき出したといいますが、祭壇自体も、私小渕総理の合同葬も出たことがあるんですが、かなり大がかりで、とてもその額で収まるのかなという疑念はそのときから持っていました。やっぱり今回、国葬に対する批判が出て、しかも「税金を使う」っていう文言がしょっちゅう飛び交っていたので、小さく見せようと、ある種の思惑が裏目に出たような気がします。

結局、費用は30億円?37億円?

―――式檀などは同程度の予定ですが、参列者が最大6000人で中曽根さんの10倍になります。送迎バス、配布するしおり、警備員、金属探知機、海外要人の人数に見合った同時通訳、場外での一般献花など、およそ2億5000万円ということです。今指摘されているのは、これだけではなく警備費、要人の接遇費もあって、結局いくらになるんですかと。岸田総理は、具体的な数字については要人の数などが確定してからでないと示すことができませんと話していますし、松野官房長官は「国葬儀後に精査した上でお示しをする」と話しました。野党合同ヒアリングでは「37億円とか、そういう数字も出てきていますよ」といいます。

―――後藤さんによりますと、「国葬を巡る状況は海外もウォッチしていて、かける金額が少ないとなると、海外から自分たちのリーダーの警備は大丈夫か、そんな声も上がるんじゃないか」と。

自民党では8月初旬から、大体30億円ぐらいじゃないかという話が出回ってまして、かなりの幹部もそのことを明言していましたから。2憶5000万円の見積もりは、多分小さく見せようと、そういう思いが働いたような気がしています。岸田さんは会見の中で、従来ある省庁の予算の中でやると言いました。警察庁予算、あるいは外務省予算、先ほど言った防衛省予算、この中から出てくるんだと思いますけども、なかなか明確になるということは言えないと思いますが、やはり国会の追及の中では、概算は示さなければならないかもしれません。