ロシアのウクライナ侵攻から8月23日で半年。泥沼化の様相を見せ始めている軍事侵攻は、この先どこへ向かおうとしているのか、軍事侵攻をつぶさに見つめ続けてきた大和大学の佐々木正明教授に伺いました。プーチン大統領の今後の狙いについては「エネルギー価格を高騰させ西側諸国を経済的に追い込んで、ウクライナ支援を弱めようとする思惑があるのでは」といいます。またプーチン大統領の側近である思想家の娘の爆殺事件については、ウクライナ犯行説を打ち立てたFSB(ロシア連邦保安庁)の動きが早く、プロパガンダの狙いがあるのではないかと指摘しています。いずれにせよ「今後モスクワで様々なことが起こりかねない。闇の始まりの兆しとなる事件では」と警戒心をあらわにしています。
(2022年8月23日MBSテレビ「よんチャンTV」より)

侵攻から半年「ロシアの電撃戦は誤算続きか」

この戦争はロシア側がオリンピックとパラリンピックの間で全て制圧しようと思っていたのが、ロシア軍の、プーチン政権の思惑だったんです。それが失敗に終わった。ウクライナは、キーウ近郊の橋を破壊して、ロシア軍の侵攻を阻みました。またロシアはハイブリッド戦といいまして、電脳(インターネット)空間でも様々なインフラを攻撃して地上軍の展開をしやすくしようと思ったんですけども、ウクライナ側がアメリカのIT企業だったり、そういったもので抑えた。それによって失敗したところから全てもう、プーチン大統領、ロシア側の誤算によって続いているというのがこの戦況だと思います。

ブチャなどの人権侵害、戦争犯罪 国際社会から非難を受けた

この戦争というのは、いつ終わるかどうかは見通せないんですけども、このブチャであった人権侵害もしくは戦争犯罪は必ず法廷で裁かれるはずです。そうするとこれを指示したのはプーチン大統領ということなので、「戦争犯罪の支持者」という名前がプーチン大統領して歴史に残ると私は思います。

―――そしてルハンシク州制圧、南部で反撃という形になりました。

ルハンシク州というのはロシア側の目標の一つであったんですけども、ここは制圧したということなんですが、実際ドネツク州からですね、前線がウクライナ側の方に広がっていないんですね。ここでもウクライナ側が奮闘している、抑えているということだと思いますのでやはりこれも目標というのが達成されていない、そして7月に入りまして、ハイマース(多連装高機動ロケット砲システム)が非常に効果的に、ヘルソン州南部でもロシアの弾薬庫を狙ったり、基地を狙ったりして、ウクライナ側の攻撃が成功している。ザポリージャ州の周辺とか、ゼレンスキー大統領の故郷、実はあの辺も実は危ないところなんですけども、このハイマースによって弾薬庫を狙っていますので、狙えない状況にもあります。つまりこのハイマースの脅威はゲームチェンジャーと言われまして、ここが戦況を変えているというふうにも言われております。

ナポレオン~ナチスドイツ時代と違う「新たな冬将軍」

ゼレンスキー大統領もヨーロッパ側に対して「冬までに戦争を終わらしたい」ということを言っている、この背景に私はその言葉を発した時点から、この冬将軍っていうのがあったのかなというふうに思っておりました。冬将軍によって補給線が耐えられず、諸説あるんですけども、このナポレオン軍もナチスドイツ軍も撤退した。今回冬将軍が訪れるのはウクライナ・ロシアではなくて、ヨーロッパの各家庭です。つまりインフレを引き起こして、エネルギーが高くなって、もしくはエネルギー高騰に伴う物価高が続いて、例えばイギリスとかでもエネルギー価格5倍になるというふうにも言われております。インフレも10%~12%とも言われております。それによって「ゼレンスキー疲れ」を引き起こして、ウクライナへ支援することを阻むような戦略を練るんじゃないか。それがこの冬、「新たな冬将軍到来」として起こるんではないかなというふうに考えております。

―――ロシア国内のお話ですけども、こんな事件がありました、プーチン大統領に近いとされる思想家の娘が爆殺されるという事件です。ロシアの思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリアさんです。ロシア郊外で行われたイベントから車で自宅に帰る途中、爆発がありダリアさんが死亡しました。この事件について、ロシアの連邦保安局は、事件はウクライナの情報機関による犯行だというふうに発表しています。実行犯は1979年生まれのウクライナ人の女で、娘とともに先月ロシアに入国し、事件後、エストニアに逃亡したと非常に具体的に伝えています。一方、プーチン政権を批判し、現在ウクライナにいるロシアの元下院議員によると、ロシア国内の反プーチン組織が事件に関与したんじゃないかと。正反対というか食い違っているということになるんですが、先生はこの事件に関しては?

はい、まずは事件の真相についてはわかりません。4つポイントを言います。ロシアでは暗殺テロ事件が元々多い、背景が全くわからないこれは偽旗作戦の場合もあります。2点目は、ウクライナ側がこのドゥーギン氏の娘、もしくはドゥーギン氏を狙ったとしても、戦争に大きな影響はないと思われます。3点目、まずウクライナ側の断定をするFSAの動きがとても早い。これはプロパガンダとして使っている。つまりウクライナ側に犯行があったということを広めることによって、ますますプーチン政権を支える人たちがその求心力が集まるということを狙っている。4点目はですね、これも恐ろしいんですけども、ダリヤさんが亡くなったことによって、今後モスクワでも様々なことが起こりかねない。そういったことの始まりというか、そういったことが起こりかねない兆しの事件ということだと思います。