8月16日に京の夜を彩った『五山送り火』。その舞台裏に密着しました。
3年ぶりの全面点火となった「五山送り火」
京の夏空を彩る「大」の文字。8月16日午後8時すぎ、先祖の霊を送り出す伝統行事「五山送り火」が行われました。3年ぶりの全面点火とあり、多くの人が炎に見入りました。
(送り火を見に来た人)
「感動しました、本当に」
「これを見ると夏を感じるので、久々に夏を体感できてとてもよかったです」
その様子を見つめる男性。五山の1つ「鳥居形」の保存会の会長・荒毛谷潤さん(57)です。
(鳥居形松明保存会 荒毛谷潤会長)
「うれしいです。ほっとしていますね」
ここに至る道のりは簡単ではありませんでした。
8月7日、保存会のメンバーとともに点火に向けて山道の整備を進めていた荒毛谷さん。全面点火をうれしく思う反面、不安を抱えていました。
(鳥居形松明保存会 荒毛谷潤会長)
「(最後の全面点火から)2年空いているじゃないですか。だから(保存会を)やめた人とかもいるんで。そういう意味では(役割などに)大幅な変更がありますね。やっぱり10人前後減っているので」
五山送り火は過去2年間、規模を縮小して実施。鳥居形も本来108ある火床のうち点火は2か所に留まっていました。
この間に会のメンバーが減った上、“鳥居形ならでは”という点火方法が実施できていませんでした。
(鳥居形松明保存会 荒毛谷潤会長)
「火をつけて、火をつけたものを持って走って、108のそれぞれの火床に突き立てていくという。傾斜のある崖を走るので、夜真っ暗じゃないですか。それに関しては難しいと思いますね」
他の山ではあらかじめ設置された火床に火を灯しますが、鳥居形では火のついた松明を運びます。そのため急斜面を駆け上がらなければならない人も。
(保存会のメンバー)
「しんどいですね。他の火のつき方とここだけ遅れるわけにはいかないので、足を引っ張らないように」
2年のブランクを抱えながらもできる準備をこなします。
(鳥居形松明保存会 荒毛谷潤会長)
「何百年も継承されてきた行事なので、それを僕の代で絶やすことはできないなと」
そして待ちに待った当日。ところが点火1時間前にまさかの激しい雷雨が降りました。慌てて種火となる「親火」を消さぬようシートで覆います。
(京都市の職員)「点火が遅れるかも」
(荒毛谷さん)「なるほど、わかりました」
(京都市の職員)「親火が消えかかっているところもあるみたいです」
(荒毛谷さん)「ほんとに」
暗雲が垂れ込めた現場でしたが、点火時刻直前になって急に雨が止みます。荒毛谷さんの太鼓を合図に、メンバーたちが松明に火をつけ、火床に向かって一斉に走り出します。必死に坂を駆け上がり点火するメンバーたち。
無事全てに火がつき、3年ぶりに完全な姿の鳥居形が夜空に浮かび上がりました。
(鳥居形松明保存会 荒毛谷潤会長)
「(火を)全部つけると気分が違いますね。何よりふもとでご覧になっている方に『全部ついてうれしいな』って思っていただけることが我々にとっては1番幸せなことですね。チームのみんなが落ち着いて(雨にも)対応してくれたというのが大きかったと思います。(Q来年も引き継いでいきたい?)もちろんです」