8月10日に岸田改造内閣が発足しました。発足前日に「前倒しの狙い」や「旧統一教会問題」などについて政治ジャーナリストの後藤謙次さんが解説しました。岸田総理が側近に語ったという「重要なのは削ること」その真意とは。

留任は?河野太郎氏の入閣は?

―――改造前の岸田内閣から何人か留任するだろうという話も伝わってきました。例えば外務大臣の林さん、財務大臣の鈴木さんはほぼ留任、国土交通大臣の公明党・斎藤さんも留任。そして松野官房長官も留任。いっぽう閣僚候補者の中に河野太郎さんが入ってきました。可能性はありそうですか?

(後藤謙次さん)
 大いにあると思います。河野さんは麻生派で、麻生太郎さんはまだ、「河野さんは少し雑巾がけした方がいいんじゃないか」と言っているらしいのですが、岸田さんがやはり河野さんの突破力、発信力を買っているという点では、麻生派の中では一本釣りをされてしまうんじゃないかと。一方で河野さんは、菅義偉前総理大臣とも近い関係にありますので、菅さんの対策でもあるという意味では、入閣は非常に有力なんじゃないでしょうか?

―――河野さんは菅政権でワクチン担当大臣で注目されましたけども、ポストで言いますとどのあたりが可能性があるんでしょうか?

(後藤謙次さん)
 一時期、今回の人事でも経産大臣説が流れたんですが、経産省内に戦慄が走ったなんて話もありました。やはり突破力が求められているポストということだと思いますね。防衛大臣も外務大臣も経験をされているということになって、そういう発信力があって、しかも国民に直接訴える、入閣するとすればそういうポストを岸田総理は考えているのではないでしょうか?

―――当初、改造は9月上旬とも言われていたのが、約1ヶ月早まりました。後藤さんに言わせれば、私は”前倒しの岸田”と呼んでいる。これはどういうことですか?

 岸田さんは、去年の10月の衆議院選挙で予想より1週間早く選挙に踏み切ったんですね。これでみんな驚いて「野党は乱れると、そして勝利を収めると」。総理大臣の大きな権限というのは、解散権と人事権なんですね。もう解散権を使ってしまったので、次の大きな人事権行使が、今回だったと思うんです。当初は安倍元総理が亡くなられて四十九日が終わってからということだったんですが、旧統一教会問題が急浮上した。

 それからやっぱり二之湯国家公安委員長がですね、参議院選挙に立候補せずに民間人になってしまったと。しかも、今回の安倍さんの事件の捜査の責任者であり、9月27日の国葬の警備の責任者である。そういうプランニングを二之湯さんに任せていいのかと。そして先週以来、大規模な水害が発生しています。二之湯さんは防災担当大臣でもあるんですね。ここをいつまでも民間人閣僚に任せてるわけにいかないと。これが先週からバタバタと8月10日改造という流れになった大きな要因だと思います。

―――岸田さんはなんと、参院選(7月10日)終わりのタイミングで「8月10日を空けておこう」と話したそうですね。

 岸田さんの最側近に聞いた話ですと「そこは多分の予備日の意識だったと思うんですが、結果としてドンピシャになった」そういうふうに言っていましたね。いろんな人の話の中で引っかかるものは必ず記録してると思うんですね。その中で8月10日というのも残しておこうと。とにかく民間人閣僚というのはやっぱりここに来て非常に大きかったですね。過去に1例あるんですけども、やはりこれだけの緊急事態の中で、しかも、二之湯さん自身がですね、旧統一教会関係団体で実行委員長まで務めたということになるとですね、もうこれは持たないという判断があったんだと思います。

―――旧統一教会との関係について岸田総理は、それぞれ点検見直しを指示し、自己申告するんだということで、後藤さんがこの流れで思い出されるのは『リクルート事件』ということですけれど?

 リクルート事件というのは、リクルート社およびリクルート関連会社から多くの自民党国会議員、野党も一部いたんですが、広く薄く献金をもらったんですね。広く薄いってことは、あまり深くない人もいたんですが、みんなで渡れば怖くないということで、リクルート社側からの献金をもらったと、それが致命傷になって次から次と「辞任ドミノ」が発生した。

 今回の旧統一教会も、個別具体事象として非常に緩い、薄いってことがあるんですね。ただ広い議員に対して、旧統一教会側が便宜供与していたということになるとですね、改造が行われる初めての記者会見って必ずあるんですね。『リクルート事件』のときは、まさに(閣僚に)「あなたはリクルート社からお金をもらっていましたか、株券もらっていましたか」と、こういう質問が飛び出して、「いや、もらってないからここに座っている」と言った法務大臣がわずか3日で辞任に追い込まれたんですね、長谷川さんですね。その意味では今回の内閣改造、おそらく内閣記者会の会見でですね、旧統一教会との関係を全員が聞かれるはずなんですね。岸田さんは副大臣も含めて(点検)と言ってますから、かなり広範に便宜供与を受けた人がいるということになればですね、早めにそのことを自己申告によって排除する、そういう狙いが岸田さんにあったんじゃないかと思います。例えばコロナの問題もある、物価の問題もある。だけど直ちにいま手をつけて結果を出せるのは、旧統一教会問題なんですね。となれば改造しかないという選択をしたんじゃないかと思います。

岸田総理『今回の改造で重要なのは削ること』

―――そしてもう一つ、岸田総理は側近に語っていたということなんですけども、『今回の改造で重要なのは削ること』これはどういう意味なんでしょうか?

 つまりリスクをいかにコントロールするか。抜擢人事をすればですね、結局そこには当然リスクがあるわけですが、「削る」つまり怪しいと言う人間はどんどん排除していこうと、一番大きかったのはこの旧統一教会問題だと思うんですね。おそらく岸田さんはそういう思いもあって、今回は安全第一でいこうと。抜擢よりも無難な人選と、それが今回の人事の特徴じゃないかと思います。

―――第4派閥の長である岸田総理を支えてきたのは支持率、リスクに敏感になっているという側面もあるということですね?

 それは大いにあると思うんです。国民世論との握手というのが石田さんの最大の武器だったわけですね。小泉さんが勝って竹下派、橋本派を敵に回したときも、世論と握手することによって政権を安定させた。岸田さんもまさにそういう状況にあるんだと思います。その意味で世論が一番懸念をしている旧統一教会問題に対して、自分は厳しく対処するという姿勢を示すということが必要だったと思います。


―――この人の処遇も注目されています。高市早苗さんです。保守層から支持が厚い高市さんを入閣させるという判断があるのかどうか?

 私は大いにあると思います。これまでの自民党の伝統的な人事手法に、『党三役をやった人は、外れた後は閣僚で処遇する』っていうのがあるんですが、菅内閣が成立したときに岸田さんは2期も政調会長をやったにもかかわらず、外されたんですね。無役になった。その悔しい思いが去年の総裁選のリベンジに繋がってるんです。そういう意味では岸田さんは自分はそういうことはやらないんだと、高市さんは閣僚で処遇するという方向に私は傾いてるんじゃないかというふうに思います。

―――後藤さんが、組閣で一番注目しているポイントは?

 やはり安倍派の処遇だと思うんですね、安倍さんの流動化を防ぐと。そのためには政府は松野官房長官、党側は萩生田政調会長、この2本柱をおさえた上で、挙党態勢ということで、ここには名前出てませんが、森山裕選対委員長を起用する。つまり、挙党態勢、安倍派流動化防止、そして統一教会排除という性格になるんじゃないかと思います。
(8月9日 よんチャンTVより)