京都府では新型コロナウイルスの急拡大に伴いコロナ病床の使用率が高くなっています。7月5日時点では15.3%でしたが、約1か月後の8月4日時点では54.6%と大幅に上昇。また重症病床の使用率は7月5日時点で0%だったのが8月4日時点で27.5%となっています。そして病床のひっ迫が直撃するのが救急医療です。“すでに医療崩壊を起こしている”という声もある救急現場の今を取材しました。

「今は災害医療の状態」…『洗体室』でも発熱患者を診察

 8月上旬の宇治徳洲会病院(京都・宇治市)の救命救急センター。次々と患者が搬送されていました。1人の患者に対して2人の医療従事者が交互に心臓マッサージを行っている様子もみられます。救急医療の現場はかつてないほどひっ迫しています。
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 第7波の救急医療現場の状況を救急総合診療科の三木健児医師に聞きました。

 (宇治徳洲会病院・救急総合診療科 三木健児副部長)
 「第6波は非常にしんどかったんですけれども、その時期で搬送数は1日45件でした。それが第7波の今は1日60件まできています。非常に救急医療もひっ迫という状態じゃなくて、すでに崩壊というような状況にきているというふうに思います」
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 この病院では軽症から重症までのコロナ患者を受け入れていて、22あるコロナ病床は感染状況に応じて調整しています。搬送された患者が処置を受ける救急センターには発熱患者を受け入れる部屋が3つありますが…。
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 (宇治徳洲会病院・救急総合診療科 三木健児副部長)
 「3つが埋まれば本来であれば発熱患者さんは取れないんですけれども、もう今は災害医療の状態なので、洗体室(※患者の体を洗う部屋)を使用。診察スペースになってないんですけれども、第7波は発熱患者さん用の診察スペースとして使っています」

軽症の子どもら入院の病棟が一転…重症患者だけをみる病棟へ

 この3週間で状況は大きく変わりました。1階にあるコロナ病棟では、3週間前の7月中旬の取材時に入院していたのは小学生とその保護者だけでした。この時は病床に余裕があり、軽症の子どもでも入院ができていました。

 (患者を担当する小児科医 7月中旬)
 「もっと増えてきた中では、そういったお子さんも含めてですが、今と同じ基準で入院できるかというとそうでなくなってくる可能性はあると思いますね」
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 そして8月、同じ病棟は、重症の患者だけをみる病棟へと置き換わっていました。

 (宇治徳洲会病院・救急総合診療科 三木健児副部長)
 「今こちらのモニターで見ている患者さん3人が人工呼吸器装着の状態です。この病棟だけで11人の患者さんが入院されています。全部でここは12床なので、残り1床、間違いなく救急車で今からコロナの患者さんが入院することになってくる」

 その言葉の通り重症病床はこの日のうちに100%になりました。
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 しかし満床状態を続けるわけにはいきません。

 (宇治徳洲会病院・救急総合診療科 三木健児副部長)
 「今から人工透析をするんですけれども、透析を受けている患者さんの受け入れ先は全然ない。(Qご年配の方で透析治療に通っている方は大勢いる?)大勢おられます。(Qそういう方々がコロナに感染した場合に両方の治療を受けられる場所は?)なかなかないです」

 コロナになった人工透析の患者や妊婦はどこの病院でも受け入れができるわけではありません。この病院はこうした患者たちの“最後の砦”となっているのです。

搬送されてきた高齢患者『コロナ陽性・誤嚥性肺炎を併発』

 取材開始からわずか30分後、突如、現場に緊張が走ります。発熱の症状などで70代の男性が搬送されてきました。コロナの陽性が確認され、酸素飽和度も80%台のため、人工呼吸器を装着することになりました。

 (宇治徳洲会病院・救急総合診療科 三木健児副部長)
 「(Q今の状況は?)今の状態は呼吸不全の状態が高度で、新型コロナウイルス感染症でいうと重症に該当します」

 3人の医師らが呼吸器の管を入れていきます。
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 三木医師も不測の事態に備え防護服を着て準備します。

 (宇治徳洲会病院・救急総合診療科 三木健児副部長)
 「今、気管内挿管が終わりました。今はコロナの肺炎だけで人工呼吸器装着までいくという人は少ないです。(Qこちらの患者さんの場合は?)おそらく心不全が加わっている。それから嘔吐されたことによって誤嚥性肺炎を併発されている」

 男性はこの後、コロナ病棟へと運ばれました。

「熱中症」患者の増加が現場に“追い打ち”

 コロナ患者が増えて限界の状態が続く救急医療の現場。これに追い打ちをかけるのが「熱中症」の搬送です。6月下旬に搬送されてきた60代の男性。体温は40.7℃で昏睡状態、重症の熱中症でした。熱中症の治療では体温を下げるための処置が行われます。
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 この患者に行われた治療はカテーテルを使った治療方法です。太い血管の中に入れるカテーテルの周辺には風船のように膨らむスペースが付いています。そこに、冷やした生理食塩水を流し込んでいきます。カテーテル周辺の血液を冷やし、体の中の熱を下げていくというものです。
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 (宇治徳洲会病院・救急総合診療科 三木健児副部長)
 「搬送から約1時間で目標としている体温39℃未満に到達しています。入院2日後に意識を取り戻されて、人工呼吸器離脱。徒歩で退院されています」
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 ただ、こうした治療にも多くの医療従事者の手が必要になります。三木医師は熱中症の搬送が増え続ければ人手不足はさらに深刻になると訴えます。

 (宇治徳洲会病院・救急総合診療科 三木健児副部長)
 「コロナウイルス感染症が増えてきていますので、この予防というのは非常に難しいと思います。一方で、今増えてきている熱中症というのは環境要因を伴う疾病ですから、熱中症の予防に努めてもらえればですね、熱中症で救急搬送になるという患者さんは減ります。例えば脳卒中であったりとか心筋梗塞であったり、そうした重症の患者さんにしわ寄せが来ない。私たちも本来すべき救急医療が提供できますし、みなさん熱中症の予防に努めてほしいと切に願います」