安倍元総理が銃撃され死亡した事件からまもなく1か月が経とうとしています。そんな中、安倍元総理の演説の警護と事件の捜査を担当した『奈良西警察署』をめぐり、別の事件が起きています。奈良西警察署に所属する男性巡査長が「実弾紛失事件」をめぐり異例の訴えを起こしました。2つの出来事に関連はあるのでしょうか。

窃盗の疑いをかけられた巡査長が奈良県を提訴

 訴えを起こしたのは奈良西警察署の男性巡査長(20代)です。訴状によりますと、奈良県警は今年1月、「奈良西署で保管の実弾5発を紛失した」と発表。窃盗容疑で男性巡査長に取り調べを行い、自宅の家宅捜索も行いました。

 しかし今年7月、県警は一転して「紛失ではなく定期的な実弾の交換作業で誤って奈良西署に5発少なく配っていた」と公表。嫌疑は晴れたとはいえ、捜査の過程で男性巡査長は警察から「お前しかおらん」「いろんな罪を掘り下げて何度でも逮捕する」などと自白を強要されたといいます。
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 巡査長はその後、うつ病を発症。休職を余儀なくされたとして、慰謝料など約710万円を求めて県警を所管する奈良県を提訴しました。

 (原告代理人 松田真紀弁護士)
 「そもそも紛失があったかどうかもわかっていないにもかかわらず、なくなっているということを前提に、虚偽を前提に彼に対する取り調べを続けた。自白を誘導していると。自白強要ではなく、本件は“自白創作”という言葉がぴったりじゃないかと思う」

 奈良県警は「訴状が送達されれば、確認の上、引き続き丁寧かつ誠実に対応してまいります」とコメントしています。

タイミングが重なった2つの出来事

 一方で、実は奈良県警にとって、この男性巡査長に関する件の処理と、安倍元総理銃撃事件がタイミング的に重なっていたのです。奈良西警察署の実弾紛失が誤りだったと公表したのが7月15日。しかし当初は7月8日に発表予定だったといいます。

 実は奈良県警内部では7月8日にこの件の説明や公表をするために準備を進めていました。安倍元総理銃撃事件が起きたその日です。前日の7月7日の夕方に、急きょ自民党から安倍元総理が大和西大寺駅前で遊説を行うという連絡が入り、警備計画を練り準備をしなければいけない状況になります。

 男性巡査長との一件と並行して対応する形になりましたが、事件翌日である7月9日の会見で県警のトップは次のように述べました。

 (奈良県警 鬼塚友章本部長 7月9日)
 「遊説は前日に急に入ったこともあり、私自身が(警備体制の)計画書に目を通し承認したのが、その当日午前中であります」

 警備の準備や計画の決裁に十分な時間を割くことができていたのかという疑問が浮かびますが、この点について8月5日、改めて県警幹部に問うと明確に否定しました。

 (奈良県警幹部)
 「不祥事事案の対応と、警備計画は担当部署が異なる。不祥事事案が警備に影響したということは全くない」

 銃撃事件の対応を検証している警察庁は、8月5日に行った中間報告で「過去の警護警備での経験の蓄積を安易に踏襲し、立案過程で十分な検討がなされなかったのではないか」と指摘しました。