晩ごはんで3杯の白ご飯を食べるほど大のお米好きな9歳の男の子。その“お米愛”がきっかけで始めたのが米作りです。その奮闘する姿を取材しました。

白ご飯が大好き!9歳の新米農家『ゆうちゃん』

 神戸市西区にある大きな田んぼの中を歩く小さな男の子。おかっぱ頭が可愛らしい新宅佑輔君(9)です。みんなからは「ゆうちゃん」と呼ばれています。田んぼの土の状態を確認しているようです。
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 実はゆうちゃん、この田んぼで米づくりをする新米農家なんです。小学4年生の子どもがどうして米作りを始めたのでしょうか。
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 ゆうちゃんは地元・神戸市の小学校に通いながら週末は少年チームでラグビーをするわんぱくな男の子です。
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  (佑輔君)「ただいま~!」
 (お母さん)「おかえり~。お風呂はいって」
  (佑輔君)「いやだ」
 (お母さん)「あかん!」
  (佑輔君)「いや~!」
 (お母さん)「あかんドロドロやから。お風呂はいって~」
  (佑輔君)「いやで~す」
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 家でのゆうちゃんはいつもこの調子。そんなゆうちゃんが毎日楽しみにしていることがあります。それはお母さんがつくってくれるご飯。特に白ご飯が大好きなんです。

 (お母さん)「おいしい?」
  (佑輔君)「(うなずく)おかわり~!」
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 取材した日もペロリと完食。毎食3杯おかわりするのが日課です。

自由研究のテーマで“米作り”を選び農家に弟子入り

 米作りはそんなお米への愛がきっかけで始まりました。

 (新宅佑輔君)
 「ママが『今年で3年生になるから自由研究何する?』『好きなものはなに?』って聞かれたから『お米』って言ったら、自由研究でお米を作ることになりました。とにかくお米を作りたくて」
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 去年の自由研究のテーマで選んだ“米作り”ですが、都市部で生まれ育ったゆうちゃんにとって全てが初めてのこと。
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 そこで頼ったのが知り合いの農家・中井知広さん(59)でした。

 (農家 中井知広さん)
 「お米をいっぱい作ってるよと教えてあげて、私が作ったお米をあげたんです。それでお母さんに炊いてもらって食べたお米が『とってもおいしい』と言ってくれて。『自分で作りたい』とゆうちゃんが言い出して。そんな子どもができひんやろうなと思って断っていたんです。でも何回もお願いされて、ああもうそれやったら教えてあげるわと諦めてね」

 こうして、ゆうちゃんが中井さんに弟子入りする形で米作りが始まりました。

去年の収穫量は目標に届かず…今年は“自由研究ではない”米作り

 小さな新米農家のためにと自宅から車で30分ほど離れた場所にある休耕田を無償で借りることもできました。
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 地元の人たちの協力もあって、荒れ果てていた休耕田に稲穂が実り、いつしかそこは「ゆうちゃんの田んぼ」と呼ばれるようになりました。
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 しかし台風や長雨の影響で稲が倒れ、収穫できた米は45kgと、目標だった300kgを大きく下回りました。その悔しさを晴らすため、今年は自由研究ではなく本格的に米作りに取り組むことを決めました。

 (新宅佑輔君)
 「今年(の目標)は300kgとることです。僕もひとりではできないし、みんなの力がないとあんまりできません」

「代かき」に「肥料作り」…田植えに向けた準備始まる

 今年3月、師匠の中井さんと久しぶりの再会を果たしたゆうちゃん。この日から田植えに向けた準備「代かき」が始まりました。苗が育ちやすくなるように土を砕いて水田を平らにする作業です。新米農家、2年目の米作りが始まりました。
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 翌月からは天然の肥料「ぼかし」作り。魚の骨や米ぬかなどに池の水を入れて自然の力で発酵させる昔ながらのやり方です。
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 (佑輔君と一緒に作業するお母さん)
 「ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくり~」

 こぼしそうになりながらも水を入れてスコップで一生懸命かき混ぜます。
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 この日は師匠の中井さんのお父さんも様子を見にやってきました。

 (農家 中井知広さん)
 「(Q本当の家族のように見えます)似とる。似てると言われる」

 そしてこんな本音もぽろり。

   (中井さん)「いつまでかなと思う。(米作りを)大人になってもしてくれたら」
 (中井さんの父)「農学校に行ってくれへんかなあ」
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 朝から夕暮れまでの1日作業。ひと仕事終えたゆうちゃんに“頑張ったご褒美”と近所の人がアイスクリームを差し入れ。ゆうちゃんもご満悦です。

 (新宅佑輔君)
 「(Q仕事終わりのソフトクリームはどう?)おいしいわ~やっぱ」

地域にも“活気”を与えるゆうちゃんの存在

 そしていよいよ田植えの季節がやってきました。6月17日、田植えの前日、ゆうちゃんはある場所に向かっていました。ここに今年の“秘策”があるそうです。
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 (新宅佑輔君)
 「はい、とれた。(Qこれはなんて言うの?)カブトエビ」

 実は、去年雑草だらけになった反省を踏まえて、今年はカブトエビを使った農法を取り入れることにしたのです。田植え後にカブトエビを放ち、雑草が新芽のうちに食べてもらう無農薬農法の1つで、ゆうちゃんのためならと田んぼの所有者も“好きに使っていい”と言ってくれました。
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 カブトエビ取りで泥だらけになったゆうちゃん。突然走り出しました。

  (佑輔君)「(足が汚れたので)水道かしてください」
 (近所の人)「はいはい」
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  この地域に通いだして1年。もうすっかり溶け込んでいました。

 (近所の人)
 「ここら辺は小学生と言うたって人数が少ないからね。やっぱり見たら見ぬふりできひんからね。一生懸命してくれてるのにね」

 ゆうちゃんの存在は高齢者が多く暮らす地域に活気を与えていました。

2回目の田植え!師匠「手つきが違うでしょ」

 そして6月18日、迎えた田植え当日。

 (新宅佑輔君)
 「(Q田植えする気持ちは?)やりたいはよ!」
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 恵みの雨が降る中、地元の子どもたちと一緒に約1万本の苗を植えました。中井さんもこの日はみんなの師匠になって大忙しです。

 (農家 中井知広さん)
 「初めての子どもを教えるのはほんまに大変。お米はどうしてできるのかというのを少しでもわかってもらったら。大変だと」
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 ゆうちゃんにとって2回目の田植え。慣れた手つきで苗を植えていきます。

 (農家 中井知広さん)
 「(Qゆうちゃんは2回目の田植えですよね?)そうそうそう。やっぱりちょっと違うでしょ。手つきが違うでしょ」
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 そしてゆうちゃんが捕まえたカブトエビを田んぼに放流しました。

 (カブトエビを放流する佑輔君)
 「いっぱい卵産んでね~」

 卵をいっぱい産んで雑草を食べてくれることに期待します。

田植えを終えた気持ちは?

 1日がかりで米作りの第一関門となる田植えを終えた2人。今の気持ちを聞いてみると…。

 (Qようやく田植えを終えましたが?)
  (佑輔君)「やっぱ長い」
 (中井さん)「いや、今からやで。今から収量に関係することが。まだまだこれからスタート。もっと大変。覚悟しておきなさい」
  (佑輔君)「え~(中井さんに)ついていくついていく」

 秋にたくさんの稲穂が実ることを夢見て、自分だけでなく周りの人も幸せにするゆうちゃんの挑戦は続きます。