偏差値70を超える超進学校・白陵高校(兵庫・高砂市)。この学校の野球部員が野球と同時に打ち込んできたのは「分析ソフト」の開発です。一体どんなソフトなのか?開発した高校生を取材しました。
超進学校の野球部員が開発した「分析ソフト」とは?
兵庫県高砂市にある白陵高校は毎年東大や京大をはじめとする超難関大学の合格者を出す県内屈指の進学校です。
教室で「国公立大学への進学を目指している人は?」と質問すると多くの手が挙がりました。3年生の田中博土さんもその1人。学年トップクラスの成績で、京都大学を目指しています。
そんな田中さんは野球部に所属。ある分析ソフトを開発して全国の野球部から注目されているんです。
白陵高校野球部は部員22人。田中さんはこのチームでキャプテンを務めています。
選手らが練習する傍ら、田中さんはパソコンで何かを確認しているようです。
(田中博土さん)
「ピッチャーとか打者の球種とか打球方向とかを分析するソフトです」
データを集計して選手の長所・短所がわかる!
田中さんが開発したのは分析ソフト「Analys(アナリス)」。今年夏までの7試合分のデータが集計されています。
打席ごとに投手が投げてきたコースを8つに分け、それがストレートなのか変化球なのかどんな球種だったかを記録します。そして打者がどの球に反応して、打球がどこに飛んだかなどを分析。そこから選手の長所や短所がわかるというものです。
(田中博土さん)
「スコアブックをとるんですけど、結局そのスコアブックとって部室に置いて帰っていたので、それだったら結局とる意味がないなと。数値で出るので、感覚でやっていたところがこっちで裏付けがあるので、練習の時に計画が立てやすくなります」
『選手が自覚していなかった強み』も発見
このソフトによって練習にも変化がありました。分析結果を基に選手の長所を伸ばす練習ができるようになりました。
監督と選手がデータを確認しながらバッティング練習をしています。
(岡野清和監督)「志摩さんは外の高め。オッケー、ナイスバッティング。そのコース安心感ある?打てる安心感ある?」
(志摩さん)「今までなかったですけど、(データが)出てやってみたら、意外と打てるなと」
(岡野清和監督)「そら、そこヒット打ってるねんもん実際」
(志摩さん)「(外角高めが強いことは)初めて知りました。自分でイメージなかったので」
(岡野清和監督)「なるほど。オッケー、いいね」
ソフトを駆使した“ID野球”で今年の春には嬉しい成果がありました。3月の県大会「春季兵庫大会」で4年ぶりに公式戦で勝利することができたのです。
「プログラミングを情報の先生に教えてもらうところから…」2年かけて完成
選手に自信を与えた分析ソフトですが、開発には思いのほか苦労があったと話します。
(田中博土さん)
「最初は僕は何もプログラミングの知識はなかったので、情報の先生に教えてもらうところからだったんですけど。(先生と)住んでいる市が一緒だったので駅前のマクドナルドに集合して、修正してやって、というのをやりながら夏休みには(プログラミングの式を)なんとなく読めるくらいにはなった」
情報科の先生にも手助けしてもらいながら、放課後や休日をソフト製作に費やすこと2年、今年3月にようやく完成しました。
その様子を間近で見ていた母親は次のように話しました。
(田中さんの母・宏子さん)
「新しいものを作るかつ『これや』って決めたらそれをずーっとやるのは小さいころからですね。休み時間の10分が勝負やとか言いながら、楽しみながらやっているからすごくいいなと思って見ていました」
試合後『対戦相手の監督』にソフトを売り込み…SNSでも無償提供を呼びかけ
6月12日、夏の大会直前の練習試合がありました。
(野球部員)
「明日はMonday。2試合目も絶対勝ちマンデー」
この日、田中さんは3番打者で出場し、ヒットを放つ活躍。
そのころバックネット裏では、野球部マネージャーの須藤未来さんがパソコンにデータを入力していました。
慣れた手つきで1球ごとに入力。こうした積み重ねがチームを強くすると信じています。
試合が終わると、選手たちが引き揚げる中、田中さんがパソコン片手に戻ってきました。向かった先は対戦した網干高校の肥塚哲也監督のところです。一体どうしたのでしょうか。
(肥塚監督にソフトを見せる田中さん)
「データをどうせとるんやったら意味のあるものをとりたいというのが僕の中にあって、それで情報の先生に協力してもらって僕が作ったんですけど」
“開発したソフトを網干高校にも活用してほしい”と田中さん自ら売り込んでいました。
(肥塚監督)「すごいなぁ」
(田中さん)「結構考えたんで。高校生活かけてやってたんで」
(網干高野球部 肥塚哲也監督)
「すごい衝撃ですね。それをまた(無償で)提供してくれるっていうのが。今の高校生は目に見えたものに対してはすごく興味とか感心を持ってくれるんで、そういう意味ではすごいなありがたいなと思いました」
早速交渉は成立したようです。
最近はほかの学校でも活用してもらいたいと考え、SNSでも無償提供を呼びかけています。今では30チームほどが使いたいと名乗り出てくれたといいます。
高校生活最後の大会を終え「協力してもらえる人がいてはじめてできた」
そして、高校生活最後の大会が始まりました。球場に向かうバスの中では…。
(田中博土さん)
「明日倫理のテストなんでテスト勉強しています。覚えないといけないので叩き込みます」
「第104回全国高校野球選手権・兵庫大会」。初戦の相手は県内屈指の強豪校・市立尼崎です。1回表から3ランホームランを浴びるなど一方的な展開になります。
それでも諦めない白陵は4回裏、2番バッターの忽那賢太さん(2年)がセンター前ヒット。分析ソフトで得意とわかったストレートを狙った結果でした。
9回裏、2アウト。この日、3打席連続3振だった田中さんの第4打席。両親も見守る中…意地の一打を放ちました。
しかし残念ながら17対0で初戦敗退。それでも田中さんに悔いはありません。
(田中博土さん)
「もし僕が強豪校にいたらたぶんこんなことはやらせてもらっていなかったので。白陵っていう学校にいて、情報の先生とかさまざまな協力してもらえる人がいたのではじめてできたことやと思っているので。周りの環境があってのことなのでそこに感謝したいですね。(Q次の勝負は?)大学入試です。頑張ります」