政治家と”統一教会”との関係は、中央だけでなく地方でも密接だった。1960年代「国際勝共連合」から90年代の合同結婚式「失われた30年」をへて現代までを、ジャーナリストの有田芳生さんが解説しました。

旧統一教会のアプローチは国会議員だけでなく「地方の首長」にまで広がる

ーー「宗教」と「政治」、「旧統一教会」と「政治家」の繋がり、色々な話が出てきました。例えば稗苗清吉富山県議は「向こうと阿吽の呼吸で会合もした」というふうに話しました。そして同じく富山県の新田八朗知事は「知事選で応援を受けた。ありがたいことではあった」と話しています。そして青山繫晴参議院議員は「問題は旧統一教会の支援が一般国民に知られていないこと。情報開示が徹底的に行われるべき」というふうに話しています。有田さん、実際にこういう応援をしますよというようなアプローチは旧統一教会からあるんですか?

「これは戦後の日本の政治史の中で、旧統一教会がどう関わっていたかということについて言えば、特に1980年代に統一教会が組織として信者を例えば『公設秘書』『私設秘書』として派遣するという、連綿とした流れがあったんですよね。しかし今回新たに明らかになったのは国会議員だけではなく地方の市長、県会議員、知事とかそういうところにまで全国に広がっていたということが明らかになってきたのが今回の大きな特徴です」

ーーこれは富山の話だけじゃなくて全国に広がっていく可能性はあるんですか?
「全国なんですよ。これまでメディアでもほとんど報じられなかったし、国会議員と統一教会の関係はごくわずかに報じられてはきたんですが、安倍晋三元総理銃撃事件にかかわって、統一教会はどこまで浸透してるんだろうかということで、メディアの方々がこうやって地方議会のレベルにまで調査されて明らかになってきました。富山と福井が特徴的なことではなくて、全国で日常的にこういう行動をやっていて、その協力を得ていた人たちが多いということなんですよね。1997年に名称変更をしようとして2015年に統一教会という名前から『世界平和統一家庭連合』と、『平和って言われたらいいよね』っていう印象を持ちますよね。あるいは家庭大事にしようって言ったら。そういうところで知らないうちに実態は統一教会の信者組織が浸透していったという、私の表現では『空白の30年』なんですよ。1992年に『国際合同結婚式』が行われて、有名な歌手、スポーツ選手が出ることによって芸能スキャンダルとして話題になったんだけど、実は『霊感商法の統一教会なんだ』ということはあの時代、多くの人が知ったんだけど、それから30年。ほとんどメディアも報じてこなかったから、その間に着々と色んなところに浸透したというのが今回の大事件を通じて明らかになったということです」

「マスコミ」「ボランティア」…旧統一教会が抱える企業は多数

ーー旧統一教会が抱える多数の企業団体があります。これを見ると本当に幅広いんだという印象を受けます。例えば、経済ですと『統一グループ』といいまして、建設会社、貿易会社、自動車関連会社など、マスコミは「世界日報」「ワシントンタイムズ」、そして文化、芸術、医療機関まで、さらにボランティアは『世界平和女性連合』とUPF(天宙平和連合)。安倍元総理がUPFにビデオメッセージを送っていたということが明らかになっています。そして学術分野では「世界平和教授アカデミー」そして政治のところに「国際勝共連合」とあります。これらは全てダミー団体だということなんですけども、『ダミー団体』とはどういう意味ですか?

「宗教としての旧統一教会なんですが、裏面として先ほどお話が出ましたように、『共産主義に勝つ』というスローガンで『国際勝共連合』が1963年に韓国で、そして引き継いで日本でも結成されるんですが、その時は70年安保を巡って左右の対立が激しいときで、やはり日本を左翼化させてはいけないという勢力が『国際勝共連合』と一緒になって行動してきたという歴史なんですよね。『統一教会』だけだったら『国際合同結婚式』をやるところだなという理解でなかなか接近しにくいかもわからないんだけれども、政治イデオロギーで『共産主義に勝つ』『左翼に勝たなければならないんだ』というところで、多くの保守政治家たちが一緒に行動するようになったんです。世界の統一教会と違う日本の特徴はダミー団体という言い方が失礼だとすれば、『フロント団体』ですよね。『統一教会』という宗教組織があって、そこから色んな名前の組織を作っていって、例えば『世界平和女性連合』であれば、ボランティア団体やれば有名な歌手がこられたり、有名な女性評論家がこられて、いや今度こんな素敵な集会があるんですよと言ったら、そこに勉強のために行ってみようかという人たちがいらっしゃるわけですよ。だけど、それがきっかけで、この人は信者にできるかなとビデオセンターに行きませんかという形で統一教会の信仰に接近させていく。だから世界平和女性連合でいえば、集会の司会をやった有名なタレントさんが、統一教会にかなり接近をせざるを得ないような状況のもとで、それに気がついて、最終的には合同結婚式に出ることなく、今は批判的な立場でいらっしゃいますけどね。とにかく『家庭が大事』、『平和が大事』だってのは反対する人いないですよね。だけど、『統一教会』と言ったら霊感商法、政治の世界では『国際勝共連合』など、この30年で名前を変えて、日本社会に浸透してきたということが今回分かりました。信者の皆さんものすごく優しいんですよ、今も昔も。例えば大学のレベルで言えば『原理研究会(CARP)』これは今でも全国各地で活動をされていて、危ないぞと言って、例えば大阪大学などでは、新入生のガイダンスでも、こういう組織に注意しなさいと。それは新入生ガイダンスだけじゃなくて、特に夏休みには時間ができるので学生さんたちに色々なアプローチをするので、阪大では授業でも教えてるんですよ、『こういうの危ないよ』って。ある学生が、自分が誘われてるのと一緒だなとで先生に相談して、先生がとにかく隔離をして、先生の方からそのサークルやめますよと通告をして、離れることができた。その時には、携帯電話の番号や下宿先も変えたりしたということです。とにかく優しい人たちだから、そういう集会に行ってさぼったりすると、アパートの前にケーキなんか置いてくれてですね、『また一緒に勉強しましょう』と言う。人間はやはりあの『マインドコントロール』って一般的に言いますけど、人間心理を使った手法ですから、人に優しくされたらそれにお返ししようと思いますよね。そういうことで、ズルズル深みにはまっていくので、これは全国各地の大学でも今努力されていますから、もう少しそれを社会的レベルで何らかの方法を取らなければいけないんだということが今回の事件から、確実な教訓にしなければいけないと思ってるんです」

政治家のメリットは『ビラ配り』など選挙応援 女性信者を『公設秘書』などにする動きも

ーー我々本当に社会全体でこういうことが今起こってるよということを共有することが大切なのかもしれません。「国際勝共連合」は1950年代に韓国と日本で設立されました。旧統一教会と関係を持つことでの政治家側のメリットについて有田さんに伺いますと、『公約のビラ配り』や『電話での選挙運動』『票の分配』など、選挙の応援を無償で行ってくれる、これがポイントなんですね?
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「例えば1990年には国際勝共連合の思想新聞という新聞に『勝共推進議員』、共産主義に勝つことを推進する議員という日本の国会議員105人の名簿が出てるんですよ。その後は150人ぐらいに増えるんですけれども、その組織に関わると例えば統一教会に約束するのは、統一教会の教えを勉強するために韓国のセミナーに行くとかですね。そういう文章にサインをして、協力するという約束すればビラ配り、電話をかけること、票の分配とか、そして寝食を忘れた選挙運動をやってくれるんでね、政治家からすれば人を雇うとものすごくお金がかかる。1980年代には京都市の右京区にあった「嵯峨亭」という統一教会が買った旅館があるんです。そこで全国から女性信者を集めて『秘書養成講座』というのもやったんです。秘書養成講座では名刺の渡し方、お辞儀の仕方、スピーチの仕方、英会話ができたらいいねとか、女性で身長156cm以上が基準なんだけれども、そういう信者さんたちが秘書養成講座で訓練されて、公設秘書、私設秘書に入っていったというのは、1980~90年代なんです。その流れは今も変わりないと思います」

旧統一教会と政治家との関係…検証しないと「安倍さん浮かばれない」

ーー国会で、野党の中には、対策委員会を設けようというところも出てきていますけど、やはりここまで来ると国会で、ちゃんと旧統一教会についての公聴会的なもの、もしくは特別委員会を開いた方がもう少し明らかになっていく部分も大きくなると思うんですが、そういうような動きは国会の中ではあるんでしょうか?

「最初に共産党がチームを立ち上げて、来週月曜日(7月25日)には立憲民主党がチームを立ち上げるということで、他でそういう組織的な動きは今のところありませんけれども、1995年に地下鉄サリン事件が起きた際に、オウム真理教がクローズアップされましたが、事件は日本で起きてるんだけれども、一番真剣に議会で検討したのはアメリカだったんですよ、公聴会を開いて。だから今度は一国の元総理大臣が暗殺されるという、とんでもない、戦後日本の歴史の中でも50年、100年にわたりずっと記録される大事件なのだから、その背景はやはり国会などできちんと検証していかなければ、いずれ5年、10年と時間が経っていくので、あの時にこういうことができたねということを国会や地方レベル、メディアも含めてきちんとやならないと、安倍さんは浮かばれないですよね」

『霊感商法は日本だけ』日本から韓国へ過去に『9年で約4900億円の送金』

ーー旧統一教会が1980年代以降に社会問題になったのは、献金そして特にこの『霊感商法』ということです。きっかけになったのはこの『旧統一教会』文鮮明(ムン・ソンミョン)氏の1975年の『送金命令』ということなんです。この『送金命令』はどういうことなのかというと、日本から韓国に実際に10年間で約2000億円という額が送金されたということです。有田さんによりますと、なぜ日本がこの経済部隊になってしまったのか、日本が韓国に従属するという教えが一つある。そしてもう一つ気になるのが『霊感商法は日本だけ』ということですが、どういうことでしょうか?

「そうなんです。統一教会の教えの中で、韓国がアダム国家、日本がエバ国家、つまり韓国では教団に尽くさなければいけないという教えが徹底して信者たちに教えられて、そういう流れの中で1975年に文鮮明教祖が日本の統一教会の組織に送金命令を出して、10年間に約2000億円を送ったという。これは、統一教会の元最高幹部が雑誌への取材で具体的に明らかにした事実なんです。もっとびっくりするのは、1999年から2008年までの9年間に実は2000億円どころか、約4900億円送金したというのは統一教会の内部文書に出ていて、2011年に週刊誌の記者が明らかにしたことなんです。そういうお金がどこから行っているかというと、霊感商法とか、今回の山上徹也容疑者の母親のように、『献金、献金、献金』で1億円出したとかそういうお金です。さらに言えば今、来年の5月3日までに、日本の信者たちには183万円の献金が求められているんですよ。それは新しい施設を作っているんだけれども、その施設のお金だということで、183万円は文鮮明教祖がもし生きてらっしゃったら、来年に103歳になる。韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁が来年で80歳になられる。その両方の年齢を足して、献金の額になってるということです。とにかく、『お金、お金』なんです。だからそこで多くの信者さんたちも苦労されていると同時に、霊感商法は一般の人たちを不幸に巻き込むわけで、これまでの国会での警察庁の答弁によって、霊感商法は各種の悪質商法の中でも、『最も悪質な商法だ』という答弁があるんですよね。どこで線引きをするのかというと、やはり色んな宗教があって当然なんですが、『霊感商法』という被害を生むようなことじゃ駄目でしょうと。何人もの統一教会の信者さんたちは逮捕されているから、ですね。だから官庁の中でも、宗教法人法はこのままでいいのと、公序良俗に反することやっているのは宗教法人格を与えていていいのかというような議論にもなっているんですね。ですから、この機会にそういうところまで議論、国会などでやっていかなければいけないというふうに思っております」

元ナンバー2「日本の統一教会は経済部隊」

ーー先日も元ナンバー2の郭錠煥(カク・ジョンファン)氏が日本の統一教会は経済部隊だと話していましたけども、そもそもなぜ日本が狙われるんでしょうか?

「世界に統一教会があるんですが、韓国と日本の組織が大きな比重を占めていて、霊感商法をやっているのは日本だけで、霊感商法を信者さんたちがやれば多くの人たちが犠牲となって、お金を2000万、3000万、1億円と出したんですよね。だからそういう歴史的な統一教会と日本との関係で、そして構造の中で経済活動をやるのが日本だという位置づけになってしまったんです。それが1970年以降、今に至っているので今回の事件の背景になるような『悲惨な献金』というものが、それ信者だから、献金するのは許されるのじゃないかと思われる方もいらっしゃるかもわかりませんけれども、『献金をしなければ地獄に落ちるよ』『あなたの不幸は先祖にたどって人を殺した因縁があるんだよ』『その因縁を断ち切らなければあなたの家族、あなたは幸せになりませんよ』という言い方をされて、やはりお金を出してしまうんですよ。そこが心の支配の怖いところだと思っています」

親が信仰を持った『信仰二世』矛盾抱え過ごす苦悩にどうケアを?

ーーこれが何十年も続いてるわけですから、そろそろこの流れを何とか食い止めないといけないですね?

「やはりこういうことが行われてきたことを国会議員が知らないといけないと思いますし、今回の事件を通じて、これだけのことはちゃんと仕組みとして作ったよねということを、いくつかやっていかなきゃいけないと思います。もう一つ一番大事なのは、『信仰二世』です。お父さんお母さんが信仰を持った人で、子どもたちは自動的に信者にならざるをえなくて、例えば統一教会の場合、祝福二世と言って、『合同結婚式』に参加して、そのもとで生まれたお子さんは恋愛もやっちゃいけないんです。だからすごく矛盾を抱えている人たちが何十年、この社会にいらっしゃるわけで、そういう人たちの悩みを日本社会としてどうケアしていけるのかということを国会、地方レベルでもちゃんとした仕組みを作っていかなければいけないというふうに思っております」