7月8日、安倍晋三元総理が銃撃されて死亡した事件。逮捕された山上徹也容疑者は、警察の取り調べに対して母親が旧統一教会、現在の「世界平和統一家庭連合」に入会したことで破産したとして、「旧統一教会を恨んでいた」という趣旨の供述をしているということです。7月15日に放送のMBS『よんチャンTV』では、ジャーナリストで元信者の多田文明さんにこの宗教団体をめぐる「献金」や「勧誘」の実態について、話を聞きました。

---山上容疑者からはこれまで「旧統一教会を恨んでいた」という供述が出ているということですが、多田さんは今回の事件について元信者という立場でどんなことを思われますか?
「中にいて本当に献金活動っていうのは激しかったんですよ。集金ですね。結局そうした反動がいわゆる家族の崩壊に繋がり、今回のような事件を生み出してしまったとしたら、もう本当に許せないことだなと思いますね。いわゆる教え自体が“献金しないといけない”という教えになっているんですね。極端な話で言えば、私たち全員が堕落人間だと旧統一教会の人間は見ていますので。堕落人間というのは万物って物より下の立場だ、というふうに教えられるんですね。ですのでその万物は、特にお金ですね、神の側に捧げてそれで初めて神の子になれるんだよっていう教えがあるんです。これ万物復帰っていうんですけど。だから神の下に自分の財産を全部捧げないと神の子になれないって教えを信じて入っちゃっているので。ですので生活が困窮したとしても、とにかく献金が必要だと思えば出さざるを得ない」

旧統一教会の元信者である多田さんは『政治家が文鮮明氏と握手したりするビデオを散々信者見せられる』『統一教会の教えが政治家に受け入れられていると信者が思っている』としています。

---多田さんは、元信者として内部にいた立場で、安倍元総理と旧統一教会との関係というのはどのように見ていますか?
「私がいたころは安倍晋三さんではなかったんですね。だから今回の容疑者が岸さんの名前を出した時に『よく知ってるな』と思ったんですね。これ話を聞いているなと、お母さんを通じてですね。いわゆる私がいたころは元首相の岸さんがいて、そこに安倍晋太郎さんとか特にお父さんの名前ですね。あの辺の話をよく教会側から聞かされていまして。実際にそうした政治家が文鮮明氏と固い握手をして褒めてるビデオがあるんですね。それを見せられていますから信者の人たちは。中で教えられるのは、そうした政治家の人たちは全部、実は統一教会の教えを受け入れているんだと。だから文鮮明氏のためなら何でもするような人たちだと思ってしまうように教えられるんです。教えでは神様の言葉より上の人の言葉は全部信じて行動しないと地獄に行くというふうに教えられているんです。ですのでその言葉をもう全くそのまま受け入れてしまうんですね」

入信のきっかけはバレーボール大会

多田さんは1987年から1996年まで旧統一教会で活動していました。入信のきっかけは大学4年生の時に友達から誘われた『バレーボール大会』に行ったことだといいます。統一教会とは言わず正体を隠した勧誘だったということです。

---これはどういう経緯だったのですか?
「これ実は旧統一教会のやり口なんですけれども、統一教会だって言わないで誘って、ずっと誘って、そしてどんどんどんどんどんどん教え込んでいって、頭の中が統一教会の教義になったところで、ここは統一教会ですよ、と。そういう正体を隠して。いわゆる宗教の教えっていうのは人生を左右するので、本当は入る前に言わないといけないんですね。実際に行ったバレーボール大会、これは後で知ったんですけど、全員信者だったんですね。そういうところに行って、その後、勉強してみようよと行った先も全部統一教会。しかも聖書の勉強しようよって言って、ビデオ見ようねって言って、ビデオ見ていて聖書の勉強をしていたつもりが全部統一教会の教義だったんですよ」
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---でもどこかのタイミングで「旧統一教会ですよ」ということを言われるわけじゃないですか。じゃあ、何か自分が思っていたものと違ったとか、なぜそこを明かさなかったんだろうとか、そういう疑いの気持ちというのは芽生えないんですか?
「その辺は上手いんですね相手はね。確かに宗教に対して私ちょっと抵抗があったので、言われた瞬間に“ん?”と思ったんですよ。でもその後ですね、実は先に進んだ理由は、家系図を取られたんです。家系図を取られて、初めて自分の家系図を見て、そうすると母方がみんな女系なんですね。それを上手く“これは因縁だ”と。私は霊魂だとかをちょっと信じていたところがあるですね当時。そういう話をされて、『え、女系…悪霊がついてるんですか』『この先進んで勉強していかないと家族みんな不幸になるよ』と。ただ私の動機としては家族とか親族を幸せにしたいっていう思いが強かった。そこを利用された。当時は大学4年生だったんですよ。就職不安を抱えていたんです。そうしたら自己啓発しながら就職に有利になるよって言われて。それで行った先で世界情勢を勉強した方がいいよと、これから国際社会で就職にも役立つよと。そこで『世界で一番読まれている本は何だと思いますか』って聞かれたんですよ。『わかんないです』『聖書だよ』と。外国人は聖書を読んでいるから、聖書の勉強しなかったら国際情勢に通じない、なんて言われた」

信者だったころの活動実態 お金がない場合は?

多田さん自身は献金はほぼしてないと言います。ただし絵画・着物など数十万円のものをローンで購入したそうです。さらに献金の代わりに勧誘活動もするようになったということです。

---つまり運営側に回っていくような流れになっていったんですか?
「そうですね。お金がある人は旧統一教会の中で全部出させます。私のようなお金がない学生とかですと、逆にお金のある人を連れてくるように上から指示されて、連れてくる。なるべくお金を持ってる人を連れてきなさいねっていうふうには言われています。例えば献金たくさんした人で、今後統一教会にとって有益だなと思う人は上がっていきます。ところが使い捨てなんですね。この人は全然役に立たんと思ったらお金だけ取ってあとはポイです」

勧誘活動は、姓名判断と称してセミナー会場に誘い出すなどして、アンケート用紙に個人情報を答えてもらうように誘導して、収入・預貯金額を見て信者にする優先度を決める、というのが多田さんの見立てです。

献金にノルマは?

今回の事件後、旧統一教会、世界平和統一家庭連合の田中富広会長は記者会見で、献金については「月例献金」「礼拝献金」「無記名献金」などがあるけれども、ノルマという扱いはしていないと言っています。これに対して多田さんによりますと何かしらの名目で献金を要求されるということです。「祝福献金」「感謝献金」「先祖解怨献金」、色々ありますが“ノルマはあった”と、ここは大きく食い違っています。

「他の元信者の人たちも全員証言していますけれどノルマはありますね。ここにはないですけれども、例えば私が印象に残っているのは『パンダ献金しろ』っていうのが上から韓国の方から来るんですね。これなんだと思ったら、中国に文鮮明氏を中心とした自動車工場を作るからお金が今必要なんだと。それでみんな一人一人いったいいくらできるんだといって申告させて。全体の金額は決まっているんですね。じゃあ一人一人いくらできるんだって決意表明させるんですね。持っている人は言わないといけない。上からの命令は従わないといけないですね。隠し事はしてはいけないので。そういうような献金というのはしばしば色んな形でありました」

退会は容易ではない?

月の初めには決断式と呼ばれるものがあり、上層部から献金の厳しいノルマが言い渡され、各支部で献金の金額目標を立て決意表明をして、統一教会の歌を歌い士気を高めるということです。

では何か気づいた時・おかしいなと思った時に“辞める”ということは難しいのでしょうか。これについては、入信時に刷り込まれる「退会したら病気か事故が起きる」、退会後に病気をすると「辞めたのがいけなかった」となるということがあるといいます。

---こういう思考回路になってしまう?
「そうですね、フラッシュバックっていう言い方をするんですけど、いわゆる事前に離れた時の対策を打ってるんですね。辞めたら君は病気か事故で死ぬよ、大体死んでるんだよ、みたいな話を上の人から聞かされて信じますから。そう信じてるんです。お金がすごくて辞める方もいっぱいいるんですけど、辞めた時に自分が病気になった、事故にあっちゃった、あるいは親族が事故にあっちゃったっていうのを見た時に、やっぱり自分が統一教会を辞めたからなんだ…って思って戻られる方がものすごく多い」

多田さんの退会きっかけは『家族全員の涙』

---多田さんは実際に辞めて何か不幸なことが起きましたか?
「何も起きていないです。だから私がジャーナリストとしてテレビに出ることが、統一教会の皆さんを安心して辞めさせることになるかなと思って、テレビに出ていました」

そんな多田さん自身の退会のきっかけは『家族全員の涙』だといいます。

「やっぱり家族がどれだけ辞めるにあたっては重要かっていうことですね。実は私は10年ぐらいいたんですけど、その間ずっと家族は本当に心を痛めていました。もうすごくいい子だったんです私。本当に自分で言うのもなんですけど、いい子だったのが、どうして入っちゃったんだと。そして人様に違法行為して霊感商法をしたりしている、もう本当に親族はみんないつも泣いていました。会議しながら、なんでなっちゃったんだ、何とか取り戻せないのかっていうのを10年間やって。それで話し合いをする時に、家族も泣いていましたけれども、私以上に統一教会のことを勉強していたんですよ。それで何がおかしいかを知ってるんです。だから10年もずっとこういう心配をしてくれたっていうのにすごく感動して。その時に思ったのが、統一教会というのは教えを信じればみんな幸せになって天国に行けるって教えられたんです、でも現実は違ったんです。家族みんな不幸になっていたっていうことにすごく気付いて。だから統一教会の理想と実際の現実、今回もそうですね、家庭崩壊、お金を多分あげれば幸せになれる因縁が切れるって、たぶん母親は教えられたと思うんですけれども、実際は不幸な感じになっている。私の場合はそれが辞めるきっかけになった」

今回、旧統一教会の実態を元信者である多田さんに語っていただきましたが、それと山上容疑者の行為とは別の話で、許されるものではありません。