百貨店の“特別な顧客”を担当する部署『外商』。▼売り場内の付き添い案内▼特別な部屋に通して買い物してもらう▼特別なイベントに招待▼商品を持って自宅で商談…など、お得意様へ特別なおもてなしをします。外商はベテラン社員が担当するものというイメージですが、大丸心斎橋店で30年ぶりに新卒で配属された『3年目の若手外商マン』に密着しました。
1億円超のジュエリーなど並ぶ…“特別な客”だけが入れる非日常空間
6月上旬の朝9時。大阪市中央区のホテルニューオータニ大阪であるイベントの準備が進んでいました。
ズラリと並ぶのは1億円超えのピンクサファイアのジュエリーや…。
2870万円の高級輸入車アストンマーティンDB11。この非日常の空間に入れるのは「外商顧客」と呼ばれる百貨店の特別な客だけ。
大丸心斎橋店の外商員・久場璃輝さん(26)。新卒の社員として30年ぶりに外商に配属された3年目の若手です。
(大丸心斎橋店 外商員 久場璃輝さん)
「こちらが会場です。百貨店の中で買っていただくのもすごく楽しいんですけれども、ホテル(催事)に来ていただいて非日常感がある中でお買い物を楽しんでいただくのも、大きい楽しみなのかなと思います」
(大丸心斎橋店・外商員 久場璃輝さん)
「ふだん店頭には並ばないようなハイジュエリーでして、カンヌ映画祭で女優さんがつけていた作品になっております。価格は大体…数千万円」
期待の外商マン、その仕事ぶりに密着しました。
(会場アナウンス)
「第2営業・久場さん、第2営業・久場さん、受付までお越しください」
(大丸心斎橋店・外商員 久場璃輝さん)
「すみません、ちょっとお客様が来られたので、失礼します」
「入ってすぐ言われたのが『普通の方と0が2つ違う』」
大丸松坂屋百貨店の「お得意様ゴールドカード」。購入歴や年収などの条件を総合的に満たす選ばれた人が外商サービスを利用できます。百貨店業界はオンラインショッピングの台頭もあって先細りが課題です。そんな中、富裕層中心のお得意様に対する特別なおもてなし『外商』には改めて重きが置かれているそうです。
外商員が働くフロアにお邪魔すると「知識・信頼・人間関係」が武器のベテランぞろいの職場でした。
ダントツで若い久場さんには“新たな風を吹かせてほしい”と期待が寄せられています。商売の仕方も、個人の経験論だけではなく顧客の購入履歴などのデータを分析し、客観的な視点で商談計画を立てています。
(大丸心斎橋店・外商員 久場璃輝さん)
「入ってすぐ言われたのが『普通の方と0が2つ違うよ』と。『僕らが1万円使う感覚でお客様は100万円使う』と。金額の大きさには驚きましたね。でもかねてからやりたい仕事だったので、周りに助けてもらいながら頑張ろうと思って」
商品の提案だけではなく「アフターケア」も
3年目の若手・久場さんの武器はフットワークの軽さです。取材した日は車で顧客の自宅へ向かいました。
(久場さん)「こんにちは。大丸外商の久場でございます」
(顧客)「どうぞ~」
(久場さん)「失礼いたします」
ただ商品の提案に来た…というわけではないようです。
(顧客)「これと居間の分なんですけれども」
(久場さん)「はい、かしこまりました。お預かりさせていただきます」
以前、大丸で購入してもらった2枚のペルシャ絨毯を回収。専用のクリーニングに出すのです。
アフターケアも外商の大切な仕事。祖父の代から外商を使っているというこちらの顧客は、久場さんの誠実さを信頼しているようです。
(顧客)「頑張ってくれているよ。良くしてもらっていると思います。わからないことはちゃんと聞いてくれるので。『これは何でしょう』ってね」
(久場さん)「わからないことだらけですけれどね。本当にまだまだ…」
(顧客)「なんか付き合えば付き合うほどかわいらしい人ですし、孫的な感覚ですね」
「夫の誕生日プレゼント」探す顧客に選んだ商品…顧客の反応は?
その3日後、家族ぐるみの付き合いをしている顧客が来店することになりました。以前「夫の誕生日プレゼントを探している」と相談を受け、時間をかけて探し集めた商品を「外商専用の応接室」に準備しました。
(大丸心斎橋店・外商員 久場璃輝さん)
「今日お見せする商品がこちらになっております。こちらはピンブローチでございまして、あまり悪目立ちしすぎるものは嫌で、でもダイヤが入っているようなちょっときらびやかなものがお好きということで、そういったお好みになるべく近いものを集めさせていただいております」
顧客「久場さんは人の話をちゃんと聞いている」
いよいよ顧客がやってきました。久場さんが選んだピンブローチは、お眼鏡にかなうのでしょうか…?
(顧客)「パッと見た感じ…たぶんもう久場さんわかってるでしょ?」
(久場さん)「僕はたぶんこれかな…って」
(顧客)「やっぱり。そう、バッチリこれ。これまた可愛いねえ。やっぱりもう趣味わかってくれてるよね」
サファイアとダイヤモンドのピンブローチが顧客の目に留まりました。実際に久場さんのジャケットに着けてイメージを確認してもらいます。
(顧客)「これは何(のモチーフ)になるの?」
(久場さん)「蜂ですね」
(顧客)「じゃあいいかもね」
(久場さん)「これもラッキーモチーフで」
(顧客)「蜂もそうなの?知らなかった。(夫が)とにかく縁起をやっぱり担ぐのよね、仕事していると。じゃあそれで、一応」
いろいろな外商員と付き合いがあるこの顧客も、久場さんの“聞く力”は強みだと話します。
(顧客)
「(久場さんは)人の話をちゃんと聞いている。(商品を)提案するときだけじゃなくて、雑談の中にその家のいろんなことが隠されている、そこをちゃんとピックアップしているところに、私は『この人は伸びるなあ』と」
「お客様が僕を頼ってきてくれることがうれしい」
外商マンとしてお得意様に接することについて久場さんはどんな思いを抱いているのでしょうか。
(大丸心斎橋店・外商員 久場璃輝さん)
「やっぱり面白いなと思います。大きな商談をいただけた時もそうですし、金額にかかわらず、お客様が僕を頼ってきてくださることがまずうれしいですね」
今、外商も少しずつ変わり始めています。取材した日の勉強会ではBanksy(バンクシー)の「NoBallGames(税込み3190万円)」などの現代アートを学びました。
単価が高く、若い富裕層にも人気で、外商でも新たな取り組みとして扱われています。
“180万円の現代アート作品”を成約
そして6月18日のアート催事の日。
(大丸心斎橋店 お得意様営業部 小河貴行マネジャー)
「会期中の動員組数が500組、(売上)1億6000万の目標を掲げて挑んでおりますけれども、初日からお客様の来場は非常に順調です。今日・明日2日間、よろしくお願いします」
会場には若い顧客の姿も目立ちました。様々な現代アートを並べ、それぞれの作品の良さを伝えながら販売するのは、久場さんにとっても新鮮な経験です。
久場さん、初めて高額な現代アート作品の成約に至りました。
Mr.Brainwash(ミスターブレインウォッシュ)の「BalloonGirl」約180万円の作品です。
一流の外商を目指し、久場さんの修業の日々は続きます。