7月8日に奈良県奈良市の近鉄「大和西大寺駅」付近で、安倍晋三元総理大臣が銃撃され、搬送先の病院で死亡が確認されました。複数の目撃証言などをもとに銃撃の瞬間を再現したものでは、山上容疑者は演説する安倍元総理に近づくよう車道の真ん中へと進んでいく中、この時点で制止する警察官はおらず、一発目を発射したあと、さらに至近距離から二発目を発射したと見られます。こうした状況を元警視庁特殊部隊(SAT)隊員の伊藤鋼一さんが警備上の問題点を指摘しました。

車や建物なく…360度開いた状態『交通は規制した方がよかった』

ーーー気になる警備体制という部分なんですが、今回、背後から発砲されました。警備体制に果たして問題はなかったのか。伊藤さんによりますと、「警備しづらい場所で演説がそもそも行われた。この規模なら警察官50人、機動隊20人は必要」ということですが?
「今回の警備なんですが、背後に道路があって、それもロータリーになっている。そういう場所で(演説を)やるのであれば短い時間ですよね。おそらく安倍元総理が演説されるっというのはおそらく20~30分だと思うんですね。私が思うのは、交通は規制した方が良かったのではないかと」

ーーー確かに伊藤さんがおっしゃる通り、大きな車やビルがあるとかではなくて、360度開いている状況なわけですよね?
「そうですね。ですから、人の流れ・車の流れを規制するというのはやっぱり大前提。それともう1つは、見せる警備。警察官を要所要所に配置して見せる警備をやる。それともう1つは、警察車両パトカーを1台、もしくは2台を必ず配置する。そういう見せる警備はやっぱり必要だと思いますね」

選挙ゆえの警備の難しさ…交通規制は逆効果になることも

ーーーある意味「抑止力」になる見せる警備ですね。そして、私服警官のような見せない警備の2つが必要だったということですね。豊田さんは選挙演説中の出来事ということで何か思われることはありますか?
(豊田真由子元衆議院議員)
「私も(過去に)選挙演説をやって安倍総理にも来ていただいて、その時は県警の方が数十名で聴衆も4000人くらいいたので。そういう中で自分は安倍総理と一緒に選挙カーに立ってやった。ただ、選挙ってやっぱりすごく特殊なので、先ほど交通規制の話が出ましたけれども、絶対に交通規制はしないんです。なんでかと言うと、それ(交通規制)って地元の方とか道を通る方に嫌がられますよね、迷惑がかかりますよね。そうするとマイナスですよね。逆効果だから絶対に地元の方に迷惑をかけずにやるっていうことなんです。あと、やっぱりSPが私のときもいらっしゃいましたけど、あんまり目立たないようにして欲しいということがあって。というのは、やっぱ親しみやすさ、身近に感じてもらって票を入れてもらうために来ているので、とにかく近くに行って、それこそ何千人の中に演説が終わった後に総理と入っていってみんなと握手をするというのは、それが良いか悪いかは別として、それが日本の選挙なんですよ。だけど、その現状でこういうことが起こってしまうならば、じゃあ次はどうするということは考えないといけないと思います」

ーーー選挙ならではの特殊な事情というのもあるようです。ただ一方で、交通規制はしないにしろ、果たして人の数はこれで足りていたのでしょうか?
「警視庁であればですね、必ず銃器というのは想定します。それともう1つは、やっぱり狙撃をされるというおそれもありますので、高所にも必ず警察官を配置します。人の流れを見るだけではなくて、窓やいろんな屋上などの周囲をすごく警戒するんですね。ですから、それくらい警備を万全にするんですけれども、行き過ぎた警備かもはわかりませんけれども、やっぱりさまざまな人に行き過ぎていると思われてもそれは人を守るためですから私は仕方がないことだと思うんですね」

『1発目の発砲があった時に覆いかぶさるようにして防衛すべき』

ーーーCGに基づいた映像だと、警護をしていた人は安倍元総理と同じ方向を向いているんですね。なので、もう少し背後に警備は必要だったと思いますか?
「警護員は大きく分けて3つあるんですね。おそらくちょっと点在をしてるので(映像では)見えないんでしょうけれどもいることはいるんですよ。あとはコミュニケーション能力が足りていない。要は、不審な物を見たら必ず無線で報告をして、近くにいる警戒員が確保する、排除する。そういった行動があってもよかったのではないかと。安倍元総理の周りに立っている4人については致し方がないと思うんですよ。背後でもっと警戒をしている、周囲を警戒している警護の人もいるんですね、本当は」

ーーーいまCGに出ている緑色の4人だけではないと?
「本当に普通の方がそう思われる以上に警察官であれば不思議。私も不思議と思います。1歩、歩道から出た瞬間にやっぱり確保するべきですね。異常な音、例えば車のバックホームですとか、誰かが大きな音を鳴らしたということであればですね、必ず安倍元総理を覆いかぶさるようにして防衛するということは必ずいるんですね。今回、残念なことに直近にいる方、警視庁のSPもいるんですけれども、奈良県警の直近の方もそういう行動を起こしていない。ちょっと残念ですよね」

『前段警備の段階で不審者を確認できなかったことが本当に残念』

ーーー山上容疑者のこの日の動きも見ていきましょう。まず事件前日、安倍元総理の遊説先の岡山県にも行っていたことがわかっています。当日は銃撃の1時間半前に現場の最寄り駅に到着していますね?
「私が見えない警備と言っているんですけれども、前段警備は必ず本来はやるんですね。なぜやるかというと、安倍元総理というのは本当に絶大なる人気のある方ですよ、そうすると多くの聴衆が来るわけですね。そうすると、もしかしたら無差別的な犯罪や直接的な行動を起こす人もいるかもわからない。そういう前段警備の中で、いろんなところに爆弾がないかとかをやるわけですね。ですから、不審な行動をしている人がいるのであれば、所持品などを確認するため必ず職務質問するんですね。ですから、今回はそういうものがなかったんだと私は判断しているんですけれども。残念なことですよね、本当に。それで安倍元総理が入ってきた瞬間からはもうピリピリして警備はやらなきゃいけないんですよ。そうしたら、そういうちょっと違和感を感じる、ちょっとウロウロしているなと思ったら無線でやっぱり報告しなければいけないんですね。『そういうのがいるからちょっと注視しろ』と。本来であれば掌握している幹部がいるんですね。それが今回、警察署長というのは現場にいなくても、誰かがその幹部がいて『ちょっとあいつを職務質問しろ』というふうに指示しているんですよ。いろいろ分担に分かれていますので、警護員や警視庁のSPだってやることはできるんですね。その代わり、直近にいる人はやっちゃいけないんですよ。あくまでも対象者を守る、身を挺してでも守るという大きな使命がありますので、それはやってはいけない。でも周りにいる人はやるべきですね」