日々長時間労働になっているという学校の先生の1日に密着しました。一方で、長時間労働を経て、教頭や校長といった管理職の責任を問うべく裁判で争うという選択をした教員がいます。6月28日にその判決が言い渡されました。

学年主任も務める中学校教員の1日

大阪市生野区の「大阪市立東生野中学校」で、3年生の担任で学年主任も務めている石原健太郎先生(35)。登校はほぼ毎朝、午前7時。真っ先に廊下の窓を開けて換気をします。
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午前7時半に男子バスケットボール部の朝練を見守った後、午前8時20分には職員室の前で生徒たちを出迎えます。石原先生の長い1日が始まりました。

午前9時、1時間目は学校の外へ。担当授業がないこの時間を利用して生徒への個別対応です。

(東生野中学校 石原健太郎先生)
「今、自分のクラスで学校に来られていない生徒がいますので、今から教材を届けに行ってきます」

午前9時半、学校に戻ってきました。

(石原健太郎先生)
「ちょっと時間かかりました。生徒のことで話をすることがあって」
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休む間もなく午前9時50分からの2時間目は3年生の数学の授業。途中、生徒が問題を解いている間に、宿題のノートを点検します。

(石原健太郎先生)
「空いている時間で提出物を見て今日中に返したいなと」

午前10時50分。取材した日は教育実習生の授業をチェックする役も務めました。

「休むのが逆に違和感があるくらいの感覚」

午後0時40分、気が付けば給食の時間。アレルギーがある生徒が誤って食べないか1つ1つ確認するなど気は抜けません。生徒の様子を見ながら自分も給食をかきこみます。

午後1時、生徒たちはお昼休みでも、先生は休めません。宿題のノート点検の続きを進めます。
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(石原健太郎先生)
「(Qホッと一息つく時間は?)全然ないです。休むというのが逆に違和感があるくらいの、そんな感覚で今は仕事をしています」
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午後1時25分からの5時間目は1年生の数学です。眠くなりそうな午後の授業。1年生にはコミュニケーションも大切にします。

(授業で生徒たちに話す石原先生)
「あと3分!3分で授業終わりや!燃えてきた~!!」

午後2時半。6時間目は3年生の進路相談の時間でした。生徒に真剣に向き合います。

午後3時半、1日の最後のホームルームです。

放課後も大忙し『再テスト』『部活動』『保護者へ電話』

それが終わると午後4時、放課後は再テストを受ける生徒の面倒を見ます。
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同時に男子バスケ部の部活がスタート。多忙な石原先生のサポートをするのは部活動指導員の篠原大貴さん(23)。実は石原先生の元教え子です。約10年ぶりに会い、一緒に仕事ができることは教員のやりがいに繋がると話します。
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(石原健太郎先生)
「卒業した後ね、5年後10年後に立派に育ってくれているというのを見られると、本当にこの仕事していて良かったなと思うので。彼(篠原さん)みたいに『教師目指しています』って来てくれたりとか」

午後6時15分、部活は終わり、仕事はまだまだ残っています。保護者に電話をして学校を休んだ生徒らの様子を聞き取りました。

(石原健太郎先生)
「(長い時は)1日トータルで3時間くらい電話対応していたりとかで、そういった時は本当に大変」

長時間働いても「給特法」で残業代支給されず

取材した日の勤務時間は午前7時~午後8時で残業時間は約4時間半。さらに1軒、家庭訪問に行くといいます。授業以外で1人1人の要望に合わせた対応が求められ、勤務が長くなるといいます。

(石原健太郎先生)
「(Q仕事を自宅に持ち帰る?)今もうカバンの中に入れています。本来であれば家庭訪問がなければもう少しやって帰ろうかなと思っていたんですけど、どうしても1軒、行きたいところがありますので」
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実は長時間働いても『給特法』という法律によって公立学校の先生には残業代が払われないといいます。給特法とは1971年に定められた公立学校教員の給与に関する法律です。月額給与の4%が上乗せされる代わりに残業代や休日勤務手当が支給されません。そこには「教員の仕事は専門的で、教員の自発性によって現場が運営されるべき」という考えが根底にあります。

裁判で大阪府と争う教員『時間外労働が月120時間超で適応障害に』

こうした現状に一石を投じた教員がいます。大阪府立高校に勤める西本武史先生(34)です。西本先生は裁判で職場である大阪府と争っています。

西本先生は2017年、クラス担任とラグビー部の顧問に加えて、海外留学の案内役も務めていました。当時、時間外労働は1か月で120時間を超え、適応障害と診断されて、計約3か月半、休職しました。

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(大阪府立高校 西本武史先生)
「例えば夜に終電で帰って電車を待っている時に、ふらふらっと飛び込んでしまいたくなることもありましたし。あの時は本当に“ただただ楽になりたい”“今飛び込めば全て楽になれる”というふうな心境でした」

西本先生は自分の体調をメールなどで教頭や校長に何度も伝えていたといいます。
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【西本先生が校長に送ったメールの内容】
『適正な労務管理をしてください』
『精神も崩壊寸前です』

(西本武史先生)
「しなければいけない仕事、学校長から言われた仕事を一生懸命やる中で体を壊したら、それは使用者に責任があるんじゃないですかと」

今も同じ高校で教壇に立つ西本先生。仕事を自宅に持ち帰る日がほとんどだといいます。

(西本武史先生)
「教員って生徒の成長が見たくて教師になっている人間が多いので、生徒の成長のために“やってしまう生き物”だと思うんですよね」

だからこそ上司はきちんと勤務時間を管理して勤務内容を是正してほしいと訴えます。

これに対して今年1月、証人として出廷した当時の教頭は次のように話しました。

(元教頭が述べた内容)
「教員は自分で計画を立ててやっていく自発性があります」

そして大阪府側は「給特法では時間外勤務のほとんどが自主的・自発的だから、勤務時間の把握や管理職の安全配慮義務には限界がある」として訴えを退けるよう求めました。

職場を訴えた先生の完全勝訴

そして今年6月28日、3年にわたる裁判に判決が出ました。大阪地裁は「管理職が“体大事にしてや”などと漫然と声かけなどをするのみで抜本的な業務負担軽減策を講じなかった安全配慮義務違反がある」として、請求通り大阪府に約230万円の賠償を命じました。西本先生の完全勝訴です。

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(西本武史先生 6月28日の記者会見)
「折れずにやってきて良かったなと思っています。今の学校現場って時間外に行わざるを得ない膨大な業務があって、好きでやっているというよりは余儀なくされているというのが現状なんですね。もちろん嫌々やっているわけではないです。子どもたちの成長を願って、一生懸命、必死にやっているわけなんですけれども、でもそれは“自主性・自発性・創造性”の一言で片付けていいものなのだろうかと。今回の判決はその責任というところを裁判官が裁判所が正面から認定してくれたというふうに思っています」