コロナ禍でいまも苦しみ続けているエンタメ業界やライブハウス。そんな中、神戸市にあるライブハウスが逆境に立ち向かう“非密のプロジェクト”に挑戦。「ライブ×キャンプ」でコロナ後も愛される“新しい音楽の楽しみ方”をつくりあげる様子を取材しました。
“コロナ前とはほど遠い状況”危機感抱いたライブハウス経営者
京都府京丹後市。大阪から車で2時間半、丹後半島の山奥に、閉鎖されたスキー場のゲレンデが広がっています。
今年4月、ここで“あるプロジェクト”が始まろうとしていました。プロジェクトの責任者でもある南出渉さん(47)は、神戸でライブハウス『神戸VARIT.』を経営しています。
(神戸VARIT. 南出渉さん)
「ここで野外でライブができるような。屋根のないライブハウスなんですけど、そういうのをつくることを考えています」
南出さんのライブハウス「神戸VARIT.」は、地元のアマチュアバンドや大学軽音学部の学生らに愛され、ここから巣立ってデビューしたグループもある人気ライブハウスです。
おととし2月、国内で新型コロナウイルスの感染が始まった頃、大阪の複数のライブハウスでクラスター(感染者集団)が発生しました。当時は、「ライブハウスは悪」などと心ない声がSNS上で飛び交っていました。
生演奏を楽しむ空間はまさに“3密”。南出さんのライブハウス「神戸VARIT.」も休業を余儀なくされました。コロナ禍も2年以上がたち、飲食店などで活気が戻っている中で、「神戸VARIT.」はいまだに観客を半分程度に減らすなど、コロナ前とはほど遠い状況です。
(神戸VARIT. 南出渉さん)
「観客が300人入ればドリンクを飲んでいただけるお客さんが300人いるが、マックスでも100人だと200人分の売り上げの違いが1日で出るわけですし。100人埋まらないことも多々あったので、売り上げにだいぶ響きますね」
南出さんは、学会などに音響機材を持ち出して配信の仕事を請け負ったり音楽以外の仕事で何とか持ちこたえたりしていますが、こうした状況に危機感を感じていました。
「音楽をやっていいキャンプ場」計画 招待された大学生たちも期待
(神戸VARIT. 南出渉さん)
「コロナというのがこんな2年以上、これだけ打撃を与えるかとは思っていなかったのは確かなんですけれども、『逆境でも新しいことはできるやん』というのは感じていた」
「コロナ禍でもライブができる空間をつくりたい」。そんな想いから“音楽ライブができるキャンプ場”をつくるプロジェクトを始めました。
(神戸VARIT. 南出渉さん)
「キャンプ場に行ったときに『音楽演奏禁止』とか書かれていたので、『あ、そうなんやな』という。『音楽は午後8時以降禁止です』みたいな感じだったので。(つくるのは)音を鳴らしてはいけないというルールがない、音楽をやってもいいというキャンプ場ですよという」
施設をつくる上で大きなハードルとなったのが“気兼ねなく音が出せる”こと。そこで南出さんは、周囲に民家がない京丹後市のスキー場跡地に目を付けたのです。
完成は2か月後の6月。南出さんは、ライブハウスに通ってくれていた学生らをオープン前に招待する計画も立てていました。
(神戸VARIT. 南出渉さん)
「(コロナ禍で)大学生が卒業ライブもできずに卒業していって、思い出作りができなかったのをふびんに思ったのがきっかけだった。ずっとそれがひっかかっていたんですよ」
神戸大学の軽音学部「ROCK」。コロナ禍で2年続けて大学祭が中止になるなどしてライブの機会は激減。今回、プレオープンの野外ライブに招待されました。
(神戸大学・軽音楽部「ROCK」 岡本季奈部長)
「(コロナ禍で)イベントが中止になったと聞いた時も落ち込むばっかりで、『またか』みたいな。あるかわからへんライブに向けて練習するだけだった」
(神戸大学・軽音楽部「ROCK」 井口莉奈さん)
「私はずっと軽音がしたくて、大学に入ってやっと始められたのに(コロナで)ちゃんとライブができないことが多かったんですけど、やっとライブが、しかも野外でできることがすごく楽しみ」
「ライブ×キャンプ」“非密”の計画に地元の人たちも協力
今年4月、京丹後のキャンプ場予定地では急ピッチで工事が行われていました。
(話し合う地元の人)
「水はここに来るようにしたらええ、こういうふうに。あっちの水もこっちの水もとにかくここに集めないと」
南出さんの計画に賛同し、地元の人たちも徐々に力を貸してくれるようになりました。
(地元の工事業者 吉岡洋一さん)
「この京丹後市・京都府北部の活性化にもなるので、非常に僕も応援したい気持ちで、ぜひ協力させていただきますということで」
(神戸VARIT. 南出渉さん)
「いろんな職人さんたちに僕のわがままとか、『こうしたいです』と伝えたら造成から内装から外装から全部(助けてくれた)。ほんまにありがたいとしか言いようがないですね」
(ライブステージをつくる南出さん)
「ネオンサイン、10万円。ここから…“69”cm。おー、“ロック”やな」
施設の名前は「京丹後BEATCAMP」に決まりました。
イベントには約200人が参加『不安やったけど間違っていなかったなと』
そして、5月29日。大学生らを招待したライブイベントが始まります。
(あいさつする南出さん)
「ようこそ『京丹後BEATCAMP』へ。大学生のみんなに一番最初に使ってほしいなと思ってつくりました。ようこそ!いえーい!」
イベントには神戸大学や関西学院大学など4つの大学の6団体・約200人が参加しました。
(神戸VARIT. 南出渉さん)
「ええ感じですね。よかった、楽しそうで」
そして、神戸大学・軽音学部「ROCK」の番です。コロナ禍が始まってから入学したメンバー全員にとって、これまでの大学生活で最も大きな舞台になりました。
(神戸大学・軽音楽部「ROCK」 岡本季奈部長)
「めっちゃ気持ちよかった、最高。(景色の)先がどこまでもあるから」
(神戸VARIT. 南出渉さん)
「不安やったんですけど、きょうのイベントを見てみてみたら、間違っていなかったなと思います。僕らのライブハウスだけの事業じゃなくて、いろんなライブハウスの人にも使ってほしいなとか、そういう存在を目指している。そこをもうちょっと試行錯誤して、いろんな広げ方をしていかないとあかんかなと思っています」
山奥に誕生した、まさに“非密”のライブハウス。新しい音楽の楽しみ方としてコロナ後も愛される存在を目指します。