ウクライナの激戦地に取り残された人々の避難生活を支えるため、「ロジスティシャン」として活動した日本人の越部真さん(27)。ロジスティシャンとは、必要なモノを必要な場所に届ける、『国境なき医師団』の物流担当者です。ウクライナ東部ハルキウの避難民への支援物流ルートを確立した越部さんに、必要とされていた物資などについて話を聞きました。

防弾チョッキやヘルメットも…送るのは医療物資だけではない

 越部真さんは、国境なき医師団のスタッフとして今年3月にウクライナに入り、物流を担う「サプライロジスティシャン」として活動しました。活動拠点はウクライナ中部の街・ビンニツィアにつくられた国境なき医師団の倉庫です。
i3.jpg
 (リポートする国境なき医師団・物流担当の越部真さん 5月)
 「防弾チョッキとかヘルメットとかは実際に北部とか南部の戦闘が激しい地域で活動するスタッフ向けに送っています。ほかにも非医療物資としては、そんなに多くはないんですけど、オムツとか石鹸とかそういった衛生用品も保管して現場の方に送っています」

 あらゆる支援物資の調達から倉庫の管理、輸送するトラックの選定も越部さんの仕事です。
i5.jpg
 越部さんにオンラインで話を聞きました。

 (国境なき医師団・物流担当 越部真さん)
 「(Q国境なき医師団の活動なので医療行為に必要なものばかりだと思っていたが?)もちろん医療物資、例えば、慢性疾患の患者さんがなかなか避難先から逃げられない状況が多かったので、高脂血症であるとか糖尿病のインスリンであるとか、そういったお薬を多く送っていたのは事実なんですけれども、一方で生活環境自体を改善していくような支援も実際にはあります」

地下鉄シェルターへの支援「多く求められていたのは大人用のオムツ」

 最も生活環境改善のための支援が急務だったのが、ハルキウの“地下鉄シェルター”だったといいます。

 (国境なき医師団・物流担当 越部真さん)
 「地下鉄は避難する場所ではないので、元々ない生活環境をそこ(地下鉄の駅)に構築するというところだったので、電子レンジ20台とか電気ケトル38個とか。タオルとか、現地でシャワーを仮設でつくったときのシャワーにかけるブラインドとか、本当にいろんなもの、生活環境を整えるものを最初に送りました」
i7.jpg
 必要とされる物資を届けたい。しかし、その量は越部さんの想像を大きく上回っていました。

 (国境なき医師団・物流担当 越部真さん)
 「オムツとかだと合計で5000パックとか。床用洗剤とかそういったものは500kgとか。(Q500kg!?)5リットル入るポリタンクみたいなのを500個みたいな。そのうち100個しか送れませんみたいなことがありました。できる限り物資をかきあつめて現場に送るんですけど、(必要な)物を送れなかったのはすごく悔しかったですし、今でも心残りではあります。(Q特に不足していた物資は?)多く求められていたのが“大人用のオムツ”。(Q子ども用じゃなくて大人用?)そうですね。子ども用も送ったんです、もちろん。ただ、量としては大人用のオムツがすごく多かったです。子どもたちはお母さんと一緒に逃げているケースが比較的多かったんです。なので現地に残っているのが慢性疾患のある高齢者の方とか、1人では動けないような方たちが(現地に)残っていたんですね。そういった方たちが日常的に使うオムツというのが一番求められていましたし、その人たちを後方に移送するにあたってもオムツが必要とされていたんですね」

ロシア支配地域へはアクセスできず「ジレンマ」

 任務の期間中、越部さんはある葛藤を抱えていたといいます。

 (国境なき医師団・物流担当 越部真さん)
 「僕らもロシアの支配地域にアクセスすることは不可能でした。その地域にも当然ながら助けを求める方たちがいらっしゃいましたので、より多くの物資の要望が届いていたんですけど、ジレンマで、僕らは安全が確保できないとなかなか到達できない」

 ハルキウが再び攻撃にさらされ、ロシアが占領地域を拡大する今、支援物資の輸送はさらに困難になっているとみられます。