今年6月18日で“大阪府北部地震”の発生から4年です。そんな中、気になるのが京都で起きている「群発地震」です。どういうメカニズムでこの場所に集中しているのでしょうか。取材を進めていくと、地震と「水」が深いところでつながっている可能性がわかりました。

「群発地震」が目立つ京都府 今年6月中旬までの約3か月で震度1以上観測が24回

 2018年6月18日に発生した大阪府北部地震。最大震度は6弱で、被害は家屋5万8000棟あまりに上りました。通勤ラッシュ時の交通機関がストップする、都心部ゆえの災害でした。
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 今年、群発地震が目立つのが京都府です。気象庁「震度データベース検索」によりますと、今年3月以降、6月15日までに府内で震度1以上を観測した地震は24回。そのうち15回は、揺れの中心が亀岡市に集中し、震度4も2回観測されました。

 (亀岡市民)
 「ドーンという音があって、グラグラという感じがけっこう頻繁に起こります」
 (京都市民)
 「実家が亀岡で、古い家ですから心配ですね」

「短期間で同じところに集中して起こるのは珍しい」

 一体、何が起こっているのでしょうか。MBSの大吉洋平アナウンサーが話を伺ったのは、京都大学・地震予知研究センターの飯尾能久教授です。

 (大吉アナ)「京都南部の群発地震の特徴として言えることはありますか?」
 (飯尾教授)「京都から大阪にかけてマグニチュード4や5の地震は数年に1回くらいは起こるんですね。短期間で同じところに集中して起こっているというところが非常に珍しいですね」

京都南部で起こっている地震は地下の「水」が関係?

 飯尾教授らは、今年の京都の群発地震など近畿の内陸部で起こる地震は、地下の「水」が関係するという研究を発表しています。研究によりますと、フィリピン海プレートに含まれて地下深くまで運ばれた水が徐々に上にしみ出します。
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 その結果、水を多く含むやわらかい層が地中にでき、この層が大きく歪む時、活断層に力が伝わって地震が起きるのではないかという考えです。
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 実際の測定データを重ねてみます。断面図で示した地下25km付近にある赤いエリアが水を含む層で、その真上にある無数の赤い点が1つ1つの地震の震源だというのです。

 (飯尾教授)「水があるところが局地的にやわらかくなっているんですね」
 (大吉アナ)「やわらかくなっていることは、僕らにとってどう考えたらいいんですか?」
 (飯尾教授)「やわらかいところがありますと、遠くから押された時に、そこだけが歪むんですね。歪みますと、しわ寄せが上に行っちゃうんですね」

 飯尾教授は、今年京都府南部で地震が相次いでいることと南海トラフ巨大地震は直接関係ないとしています。

有馬温泉『金泉』の源泉は海水より塩分濃度が高い!?

 一方、プレートが地中に運んだ水は私たちの身近なところにも現れています。日本最古の温泉として知られる有馬温泉。有馬には金泉・銀泉の2種類のお湯があり、金泉は赤褐色で鉄分と塩分などを含む泉質が特徴です。
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 プレートが運んできた水と有馬温泉にどのような関係があるのでしょうか。火山やマグマの専門家である神戸大学・海洋底探査センターの巽好幸客員教授に話を聞きました。
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 また、今回特別に有馬温泉の「天神泉源」で、源泉が湧き上がるところを見せていただきました。
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 (大吉洋平アナウンサー)
 「有馬温泉の元みたいなところですよね…出てきた!勢いよく。先生、1つ気になったのが、有馬の金泉って味噌汁みたいな赤褐色じゃないですか。これいま見たら透明?」
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 湧きあがったばかりのお湯を汲んで詳しく見てみます。

 (大吉アナ)「先生、バケツの底が見えるくらい透明ですね」
  (巽教授)「透明ですね。まだ全然金泉ではないですね」
 (大吉アナ)「不思議ですよね」
  (巽教授)「空気に触れると鉄が酸化してあの色になる」

 天神泉源は98℃のあつあつのお湯。汲んでから30分ほど経つとお湯は黒くなりました。
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 3時間経つと酸化して有馬特有の赤褐色に。見慣れた金泉です。

 さらに、パイプに付着した白いものは、塩分だといいます。
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 金泉を塩分計で測ってみると4.8%でした。それに対して、大阪湾で採取した海水は…。
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 (大吉洋平アナウンサー)
 「2.3%。海水の塩分濃度が2.3%。有馬温泉の源泉の方がよっぽど塩分濃度が高いということですね」

海水が数百万年かけて運ばれ有馬温泉に…「世界で珍しいプレート直結温泉」

 なぜ、山の中でこんなに塩分濃度が高いお湯が湧くのでしょうか。謎を解く鍵は日本列島の下に沈み込むフィリピン海プレートができた年代だといいます。

  (巽教授)「この辺を境にして、西側と東側で年代が全然違うんですよ」
 (大吉アナ)「どれくらい違うんですか?」
  (巽教授)「ここがね、5000万年前より古いんですよ。こちらは2500万年前より新しい。地球上で一番新しいプレートの1つなんですよ」
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 巽教授によりますと、フィリピン海プレートの東側は2500万年前以降にできた新しいもので温度が高く、日本列島に向かって年間4cm~5cmずつ沈みこんでいます。特に近畿地方の下は1500万年前ごろにできた非常に若くて熱々のプレートだそうです。
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  (巽教授)「プレートってもともと海の中でできるので、ちょうどスポンジに水をいっぱい含ませたような感じでこの辺までやってくるんですね。近畿地方の下って非常にプレートが熱いので、ぎゅっと縮まって、数100℃のものが先にしぼり出されてしまうんです。それがちょうど60~70kmくらいの深さで、ちょうど有馬温泉の下くらいなんですね」
 (大吉アナ)「何年くらい前の水が出てきているということなんですか?」
  (巽教授)「ここまでくるのにだいたい数百万年かかるんです。98℃の温度があってこれだけ濃い色をしている。プレートから海水を濃集したものが直結しているわけですからね。我々よく言うのは、有馬って世界で珍しいプレート直結温泉だと。非常に珍しい温泉」
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 プレートとともに数百万年かけて運ばれてきた海水はその後、数千~1万年かけて地表まで上昇し、有馬温泉となっているのです。

京都での群発地震について「プレートから水がしぼり出されてきている可能性はある」

 (大吉アナ)「ここ最近の京都南部での群発地震というのは、このプレートの影響はありますか?」
  (巽教授)「まだ完全にはよくわかっていないんですけど、1つの可能性としては、地震って水が関係していることが多いんですよね。その水が有馬温泉の下のようにフィリピン海プレートからまだ熱いので水がしぼり出されてきている可能性はあると思います」

 日本に温泉・地震・活断層が多いのは、フィリピン海プレートの影響を受けている証し。巽教授は“恵み”と“試練”を同時に与えられていると話します。
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  (巽教授)「日本列島って地震とか火山とか多いじゃないですか。試練に対してきちんと諦めないで備えることが大事だと思うんですよ」
 (大吉アナ)「数百万年前の海水だと思うと、温泉で体だけじゃなく先生がくださった知識の泉で脳まで温まったような、そんな1日でした」
  (巽教授)「のぼせんようにしてください」