ウクライナ南部ではロシア軍による支配の既成事実化が進んでいます。南部地域はいまどうなっているのか。ウクライナ侵攻直後から現地に入り取材を続ける元朝日新聞記者でフリージャーナリストの村山祐介さんからの報告です。
支配地域から出る際に迫られるロシア兵からの“過酷な選択肢”
6月、ロシアが占領するウクライナ南部などで始まったのは地元住民へのロシアのパスポートの交付です。支配の既成事実化を強めるロシア。そんな支配地域からわずか30kmのところに位置するザポリージャは、南部の支配地域から避難してきた人たちが最初にたどりつく街だといいます。
(リポートする村山祐介さん)
「ここでまず逃れてきた人は登録をして、古着とか靴とか生活に必要なものを受け取って、当面の滞在先について紹介を受けたりすることになっています」
村山さんは、ロシア軍が支配するベルジャンシクから11歳の次男を連れてバスで避難してきた女性に話を聞きました。
(ロシア軍支配地域から避難した女性)
「(ロシア軍)支配下にあるベルシャンシクには子どもの未来がないと思ったからです。学校も幼稚園も閉鎖されています。インターネットもつながらず、オンライン授業すらできません。支援物資はまったく手に入りませんでした。ロシア軍がすべて奪っていたからです」
支配地域を出るのは簡単ではありません。ロシア軍の検問を通過しないといけないのです。
(ロシア軍支配地域から避難した女性)
「(検問で)ロシア兵は『選択肢をやる』と言いました。『金を払うか暑苦しいバスの中で3日間過ごすかだ』と。子どもたちを救うためすべてのお金をロシア兵に渡しました。子どもを連れてきた親たち、お母さんたちは心から英雄だと思います。最前線をかいくぐって子どもを救った英雄です。どうしてこんなことになってしまったの」
『守らなければ』…オデーサで行われる“一般市民向けの訓練”
村山さんは黒海に面するウクライナ第三の都市・オデーサも取材。
(リポートする村山祐介さん)
「奥に見えるのがコンテナの港で、完全に止まった状態になっています。通常であれば輸出入をする船が点々と見える状況なんですけれども、まったく船の姿がない状態になっています」
オデーサは国際貿易の要であるとともに、世界中から多くの観光客が訪れる屈指のリゾート地です。しかし…。
(リポートする村山祐介さん)
「普段は観光客でにぎわっているんですけれども、いまは誰もいない状態になっています。というのも、海からロシア軍が上陸するのを防ぐためにウクライナ軍がこのエリアに地雷を敷設しているためなんです」
観光名所である「オペラバレエ劇場」も建物の周りに土嚢が積まれるなど、街の中は“臨戦態勢”といった雰囲気です。
そんなオデーサの街で行われていたのが、「武器の使い方」や「ケガをしたときの応急措置」について学ぶ一般市民向けの訓練です。
(訓練の責任者)
「1分間ぐらいの短時間のうちに銃の分解や組み立てができねばなりません。戦場では1秒1秒が貴重ですから」
この訓練はウクライナ軍の協力のもとボランティア団体が運営しています。今年3月に開始し、「自分たちの街は自分たちで守る」という思いを持った約4000人の市民らが参加しました。
(訓練の参加者)
「みんなができるようになった方がいいと思います。誰かの命を救えるようになるのがとても大切です。次のミサイルがどこに落ちるかわかりませんから」
「みんなと同じように、特にロケット弾の着弾が怖いです。でも、ここは私たちの国で、家です。守らなければなりません」
ウクライナ国民のひとりひとりがロシアの脅威と向き合っていました。