近畿地方もいよいよ梅雨入りとなりそうですが、近年、注目が高まっているのが『線状降水帯』という現象です。その予測研究の最前線を取材しました。

現在の技術では的中率が4分の1…予測が簡単ではない『線状降水帯』

 今年もやって来た雨の季節。四国地方は6月13日に梅雨入り。近畿地方も6月14日にも梅雨入りする可能性があります。
s2.jpg
 毎年のように豪雨災害が日本列島を襲う中、キーワードとなっているのが『線状降水帯』です。文字通り雨を降らせる積乱雲が線状に連なった状態のことで、その規模は長さ50~300km、幅は20~50kmに及びます。
s3.jpg
 発生するメカニズムは多様ですが、ひとつに挙げられているのが「バックビルディング現象」です。暖かく湿った空気が流れ込んでできた積乱雲が上空の風に流されていきます。すると、同じ場所で再び積乱雲が発生し、また風下へ。大量生産された積乱雲がベルトコンベアのように流されていき降水帯を形成。長時間にわたる大雨をもたらすのです。

 気象庁は去年、線状降水帯が発生したことを伝える情報の提供を開始。そして今年6月に入り、予測情報の提供もスタートしました。線状降水帯が“発生するおそれが高い”と判断した場合、半日~6時間前に発表。災害への警戒を呼びかけることになったのです。

 しかし、現在の技術では、的中率は4分の1。線状降水帯の予測は決して簡単ではないのが実情です。

阪大らが共同開発した「フェーズドアレイ気象レーダ」

 しかし今後の精度向上のカギを握るかもしれない装置が大阪大学にあるといいます。大阪大学大学院工学研究科・電気電子情報通信工学専攻の和田有希助教(30)を訪ねると、取材班を建物の屋上まで案内してくれました。
s8.jpg
 かわいらしい形をした白いドーム。
s9.jpg
 記者が中に入ってみると巨大な装置が現れました。

 (大阪大学大学院工学研究科 和田有希助教)
 「この中に実は128本のアンテナが入っていまして、そこから電波を発射して雨粒を感知するというレーダーです」
s11.jpg
 阪大が東芝や情報通信研究機構と共同開発した「フェーズドアレイ気象レーダ」。国内に5台しかありません。

 (大阪大学大学院工学研究科 和田有希助教)
 「従来の気象レーダは、細いビーム(電波)を用いてグルっと観測するということで、1回転で2次元的なスキャンをするんですけれども。『フェーズドアレイ気象レーダ』は複数のビーム(電波)を同時に発射することで、たった1回で3次元的、高さ方向にも観測ができる」

100本以上の電波を一気に出して観測

 従来のパラボラ型の気象レーダは、1つのアンテナを1回1回、角度を変えながら回転させることで、立体的な観測を行います。
s14.jpg
 これに対して、フェーズドアレイ気象レーダは、100本以上の電波を一気に出すため、1回転するだけで立体的な観測が可能に。半径60km・高さ15kmの範囲をすき間なく捉えることができるのです。積乱雲を観測する時間が大幅に短縮されたことで、ゲリラ豪雨を早期に検知することも可能になりました。
s15.jpg
 さらにフェーズドアレイ気象レーダは、線状降水帯の姿もしっかり捉えることができます。

 (大阪大学大学院工学研究科 和田有希助教)
 「西から東に向かって連なった積乱雲が徐々に移動しながら、上から下にどんどん降水コア(雨滴の巨大な塊)も落ちていきながら、雨の降る領域が動いていっている。それが30秒ごとに映像がアニメーションとして得られているというのがまさにフェーズドアレイ気象レーダならでは」

過去の豪雨についてフェーズドアレイを設置したとすると…予測精度が大幅に改善

 そして今、フェーズドアレイをネットワーク化すれば、線状降水帯の予測精度の向上につなげられるのではないかという見方も出てきています。実際、理化学研究所が2020年7月の豪雨について、フェーズドアレイを九州全土に設置したと仮定してスーパーコンピュータ「富岳」でシミュレーションしたところ、2時間先の線状降水帯の予測精度が大幅に改善したのです。

 通常の気象レーダとの周波数の違いやコスト面など実用化に向けて課題はまだまだありますが、豪雨予測のニーズが増す中、最先端の気象レーダへの期待は高まるばかりです。
s17.jpg
 (大阪大学大学院工学研究科 和田有希助教)
 「日本のフェーズドアレイ気象レーダの性能は圧倒的です。激甚災害が防げるのであれば、こうした(最先端の)気象レーダを用いて防げるのであれば、ぜひ貢献していきたいと思っています」