熊本県の「慈恵病院」は親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を2007年に開設しました。これまでに150人以上が預け入れられましたが、開設当初は、育児放棄を助長すると懸念する声もありました。去年12月には“予期せぬ妊娠をした女性が病院にだけ身元を明かして出産する”「内密出産」の1例目として西日本在住の10代女性が内密出産をしました。「こうのとりのゆりかご」に関することやその課題について、認定NPO法人「こうのとりのゆりかごin関西」の副理事長で医師の小林和さんに話を聞きました。

「内密出産」の始まりは「ドイツ」親の情報は『金庫の中に保管』

 ーー内密出産は、妊婦が病院の相談員1人だけに身元を明かして匿名で出産をするものですが、病院は母親の情報、例えば運転免許証などコピーを厳重に金庫で保管します。その情報は、子が一定の年齢に達した時点で、母親が同意のもと子に開示できる。これも熊本の慈恵病院の独自ルールでこうされているということですね。

 (認定NPO法人こうのとりのゆりかごin関西 小林和副理事長)
 「そもそも内密出産というのは、ドイツで始まっています。こうのとりのゆりかごがドイツでいっぱいできたんですけど、そのゆりかご設置に反対する方々がいらっしゃるんですね。その反対する方々の第1の理由は、赤ちゃんが成長したときに自分の出自、どこに自分はどういう環境でどういう人のもとで生まれてきたのかを知る権利です、これを『出自の権利』といいます。『出自の知る権利をどうするのだ』というのが反対派の大方の意見なんですね。そのことに応える形でできたのが内密出産法です。ドイツで内密出産して、子どもが成長したときに、出生した拠り所はどこなのかを知りたいと思った時に、情報を開示して示しましょうと。そうしたら親にたどることができるような証拠を金庫の中に、保存・保管しておく。これを内密出産法といいます」

母親に関する情報の保管場所が課題「民間でなく国や自治体が管理を」

 ーー生まれた子の戸籍は市町村長の権限で作成することができると、2月24日の国会答弁で古川法務大臣が話しました。そして、出自を知る権利をめぐり、慈恵病院では内密出産した母親の情報を厳重に金庫で保管しています。しかし病院が管理しているということになりますので、熊本市は、母親の身元の情報を管理する公的機関の設置を要望しているということです。小林先生によりますと、慈恵病院での保管が難しい場合、こうのとりのゆりかごin関西で保管、引き継ぐことになっているということです。しかし、民間ではなくて国が管理すべきではないでしょうかというのが先生のご意見です。

 (認定NPO法人こうのとりのゆりかごin関西 小林和副理事長)
 「戸籍に次ぐような大事な情報なんですよね、生まれた子どもにとって。その情報を民間が保管するというよりは、戸籍は国が管理するように、この情報は同等に国が管理するべきものだと思っています」

「ゆりかご設置」の基準が厳しい日本…アメリカでは警察など手渡し国が育てる「法律」も

 ーー厚生労働省によりますと、2019年度の検証で、虐待での死亡事例が56例ありました。生後1か月未満で亡くなった子どもの加害者は実の親・母親が30人で最多となっています。実母が抱える問題として、予期しない妊娠、計画していない妊娠が20人(35.1%)で一番多かったということなんです。慈恵病院のような「ゆりかご」について、小林先生は『産婦人科の経営が大変な中、活動は大変なので国や自治体に設置してほしい』との意見をお持ちになっています。

 (認定NPO法人こうのとりのゆりかごin関西 小林和副理事長)
 「赤ちゃんを保護するゆりかごを設置するのに、国の基準が非常に厳しいんです。そのために第2のゆりかごはできないんですね。かなりの余裕がないとできないです。しかし、今は産婦人科にしても少子化ですからこの世の中、経済も苦しい中で、社会的な弱者、弱い人に手を差し伸べる余裕がないんですね。アメリカは『赤ちゃん安全保護法』というのがありまして、育てられないときに、その母親が警察や消防署に行って手渡しをすればその赤ちゃんを国が育てるんです。その法律が全州にあります。日本の法律もそういうふうにすれば、ゆりかごはいろんなところにできるんです。すると、育てられない赤ちゃんをゴミ箱に捨てたり、ロッカーに入れなくても、消防署に行って『私(育てることが)できないからお願いします』と言えばいいんですよ。法律を整えること、これが非常に大変大切なことだと考えています」