コロナ禍で多くのクラスターが発生した高齢者施設。去年10月末に日本ホスピス緩和ケア協会が緩和ケア病棟を対象に行った調査では、99%の病院が『面会制限』を行ったと回答しています。そんな中、人数や時間の制限無く面会できる高齢者施設が大阪にあります。その施設でコロナ禍の看取りの現場を取材しました。

約50日ぶりに顔を合わせた親子

 今年3月、大阪市東住吉区の高齢者施設「えびす堂ナーシングホーム」に、パーキンソン病を患い要介護4と認定された北口ヒロ子さん(78)がやってきました。以前いた病院は新型コロナウイルスの感染対策で面会は禁止。取材した日、親子が顔を合わせたのは約50日ぶりでした。
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 【ヒロ子さんに話しかける様子】
 (ヒロ子さんの次男の妻 北口英子さん)
 「英子わかる?わからんもう?忘れた?」
 (ヒロ子さんの長男 北口設雄さん)
 「部屋きれいやろ」
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 (ヒロ子さんの長男 北口設雄さん)
 「他にも2つくらい病院を転々としているんですけれども、どこも面会はできない状態で。(Q顔が見られると違う?)全然違いますね」

コロナ禍でも面会できる高齢者施設『時間・人数制限無し』

 「えびす堂ナーシングホーム」は、看護師と介護士が24時間常駐している住宅型有料老人ホームで、末期がんやALSといった難病を患うなどして終末期を迎えた人を中心に受け入れています。
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 施設に入居する親と面会する家族。
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 感染対策として、手指の消毒や体温計測のほか、ビニール製のガウンやフェイスシールドを着用する必要はありますが、個室内なら時間や人数に制限無く、横に座ってテレビを見たり会話を交わしたりできます。
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 (流里子さん(85)の長女 濱本広美さん)
 「親子そろって嵐の大野くんのファンで、家に一緒にいた時、半身不随になる前は毎日のように嵐を2人で見ていたので。ほんで『大ちゃん』のファンやねんな。でも今は、なんか『大ちゃん』を『お父ちゃん』と間違えています」

緩和ケア病棟では『99%の病院が面会制限』

 このようにコロナ前に近い形で面会ができる施設は未だに限られています。大阪府では、第6波だけでも731の高齢者施設でクラスターが発生し、1万2000人以上が感染しています。去年10月末に日本ホスピス緩和ケア協会が緩和ケア病棟を対象に行った調査では、99%の病院が禁止を含め人数や時間などの面会制限を行ったと回答しています。
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 「えびす堂ナーシングホーム」では、集団感染のリスクは認識した上で、人生の最後を思い残すことなく過ごしてほしいと、“家族との面会”を大切にしているといいます。

 (えびす堂ナーシングホーム・管理者 隅垣佐祐里さん)
 「コロナ禍になって最後の時間を一緒に過ごせない人たちが増えている中で、家族との時間というのは必要不可欠なんじゃないかなという思いで、できる限りできる範囲の中で面会はぎりぎりのラインでできたらいいなと思って継続しています」

面会で夫の優しさに触れた妻「今が一番いい時間」

 面会することでコロナ前より絆が深まった人がいます。80代の妻が1週間ぶりに夫(79)に会いにやってきました。

 (夫に話しかける妻)
 「お父さん、大丈夫?大丈夫?来たよ」

 夫は6年前に肺がんとなり、左肺を全て摘出していて、最近は認知機能も低下しているといいます。
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 (妻(80代))
 「(Q今日は手に反応はありますか?)そうそう手を握っていますから。(Q握り返してくれる?)そうです。感じます」
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 結婚して約50年。改めて向き合ったことで今まで感じたことのない夫の優しさに触れたといいます。

 (妻(80代))
 「いたわってくれるんですよ。私が介護されて大変だとか。この人といて良かったです。今までそんな感じじゃなかったけど。なんで結婚したんだろうとか、何回か離婚したいとかいろんなことを思いましたけれど、今が一番いい時間だと思います」

 (妻)「じゃあ帰るからな」
 (夫)「気をつけてな。気をつけて」
 (妻)「うん、がんばりや」

 人生の残りの時間が限られた人にとって、共に過ごせる時間はかけがえのないものです。

面会に訪れる娘「いつかは父の死を告げたい」

 今年2月に入居した松浦才子さん(83)のもとには、長女の博子さんが週に4~5回は会いに来ています。以前入っていた特別養護老人ホームでは、面会制限で3か月に1度、ガラス越しでしか会うことができませんでした。

 (才子さんに話しかける長女・松浦博子さん)
 「お母さん、お母さん、起きた?来たで。まぶしいな?ちょっとまぶしいか?いい天気やで、きょう外、桜咲いとったわ」

 才子さんは脳梗塞の後遺症で言葉が出にくい状況が続いています。
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 博子さんには面会でどうしても伝えておきたいことがありました。去年12月、同じ特別養護老人ホームに入居していた父親で、才子さんの夫が亡くなったのですが、まだそのことを伝えられずにいます。
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 (才子さんの長女 松浦博子さん)
 「ガラス越しの面会で、弟と一緒に面会に行った時に、父親が亡くなったことを言おうかと思ったんですけど、やっぱりこの状態だと言わないほうがいいかなと思って、言ってないんです」
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 外に出るのが好きな才子さん。天気の良い日は散歩に連れ出します。自分のことを娘だとわからなくなった状態で、母親に父の死が伝わるのか不安ですが、博子さんは会う時間を増やし、いつかは告げたいと思っています。

 (才子さんに話しかける博子さん)
 「久しぶりちゃう?桜見るの。(才子さんが手を振り)手振った、手振った」

2人の娘が1日おきに面会…母親「電話で声を聞くだけよりうれしい」

 5月19日、施設では看護師らの動きが慌ただしくなっていました。入居者の女性の容体が悪化していたのです。
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 今年3月に取材した時の松島知恵子さん(83)。

 (松島知恵子さん 今年3月)
 「これ写真に写っている小さい赤ちゃんはひ孫なんですよ」
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 松島さんは、バッド・キアリ症候群という肝臓からの血管が詰まる難病を患っていましたが、近くに住む2人の娘が1日おきに訪ね、家族一緒の時間を過ごしていました。

 (松島知恵子さん 今年3月)
 「(Q会えてどんな気持ち?)そらうれしいですよ。みんな元気そうでやってくれているからね。電話で声を聞くだけよりね、うれしいですよ」

母親を看取った娘「こんな制約のある時代で私たちは本当に幸せ」

 取材から1か月半後、松島さんは娘2人に見守られながら安らかに息を引き取りました。亡くなる2日前には孫全員と会うこともできたといいます。

 (松島さんの長女 貞子さん)
 「(最期は)直接話しかけるというよりも、娘2人で小さかったころの話をベッドの横で話して、母に聞かせているみたいな感じ。何歳の時にこんな遊びしてたよねとかっていうのを、(母は)聞いてくれていたと思います。(Q人間らしい別れができるということは?)大切だと思います。きっとこんな制約のある時代なので、それもできない方がいっぱいいらっしゃるので、私たちは本当に幸せだと思います」

 当たり前が当たり前でなくなったコロナ禍にあって、人生の最期をどう迎えるべきなのか。今、改めて問われています。