奈良県橿原市にある「今井町」。古い町並みが400年以上続き、昔さながらの景観を保っています。いまでは古民家を活かしたおしゃれなカフェやレストランなども増えてきていて、観光客らでにぎわいを見せています。そんな中、歴史ある町ならではの“ある問題”が深刻さを増しているというのです。

400年以上続く“昔さながらの景観”「時が止まったよう」

 奈良県橿原市。近鉄の大和八木駅から約10分歩くと、時が止まったような町「今井町」に着きます。
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 稱念寺を中心とした寺内町は、かつて織田信長に抵抗。その後、自治が認められて古い町並みが400年以上続いています。電柱の地中化も進んで町は昔さながらの景観を保ち、近年は古民家を活かしたカフェやレストランなども増えてきました。

 (観光客)
 「こんな立派なおしゃれなところでびっくりしました。いいですね」
 「なんか江戸時代にタイムスリップできるかなみたいな。すごく時間の流れが穏やかでゆっくりしているというか」
 「こんな古民家で色合いが渋く抑えられているので、昔の色合いがでているので。私も5~6年は来させてもらっています」
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 お城のような屋根。江戸時代に建てられた今西家住宅は1957年に「重要文化財」に指定。1993年には町一帯が「重要伝統的建造物群保存地区」、通称「重伝建」に指定されました。京都市の「三年坂」や、倉敷市の「美観地区」などと同じ扱いです。
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 (今井町 町並み保存会 中西知会長)
 「私は重伝建が(全国に)126地区あるなかで、日本一の重伝建の街だと思っています」

約760軒のうち80軒が“空き家”状態に

 歴史ある今井町で深刻さを増している問題とは…。自治会長の米川憲久さん(72)が町を案内してくれました。
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 (今井町自治会 米川憲久会長)
 「このへんも道に傾いて結構危険な建物。これも空き家なんですね」

 建物約760軒のうち80軒ほどが住む人がいなくなって空き家です。こちらの空き家は道路の方に大きく傾き、いつ倒れてもおかしくない状態です。

 (今井町自治会 米川憲久会長)
 「(Qかなり傾いていますか?)傾いていますね。道路側に傾いているので、できたら改修をお願いすることも我々の活動としてやっていかないとあかんのかなと」
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 一方、こちらは屋根の一部が陥没しています。

 (今井町自治会 米川憲久会長)
 「これも空き家になっているんですね。屋根も落ちかけて危険な状態ですので」
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 室内に入るとこの状況。大量の木材が散乱してガラス戸は割れています。天井もはがれていて野ざらしの状態。家はいまにも崩れそうです。

 (地元住民)
 「ちょっとした台風が来たときに、だれも住んでいなくてかなり老朽化した家が崩れるのが一番怖いので」

空き家所有者『簡単には壊せない』『修理も1000万円超かかる』

 それでも、なぜ空き家は放置されるのでしょうか。ある空き家の所有者に話を聞きました。

 (空き家の所有者)
 「(Q空き家を壊したりとか考えない?)法律によって壊されへんからね。更地にもできへんから。更地にしたら駐車場にもできるし、潰させてくれへんからね」
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 「町並み保存地区」に指定されたがゆえの苦悩がありました。今井町には伝統的な建造物(特定物件)が501軒あり、その建て替えや解体は原則認められません。改修する際も既存の木材などを使って本来の姿に近づけることが求められます。補助金は改修費の4分の1ほど出るといいますが、改修には踏みきれません。

 (空き家の所有者)
 「修理もしたいけど1000万円超すくらいやからね。お金かかるし、言われた通りしないといけないから」
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 では、どうしたらいいのでしょうか。自治会や地元のNPO法人は「外から移住してもらい町の維持に関わってほしい」と考えています

 (今井町自治会 米川憲久会長)
 「(今井町の)一番の特徴は、ここに住みながら保存をしてきたという事ですから。やはり、住んでいただいてこの景観を守りたいなと。特に保存地区内では高齢化が進んでいまして、空き家がどんどん増えてくると。危険家屋に近いような建物が多いので、本当に危険な状態になるまでに手を入れたい」

移住検討する人に“空き家の下見イベント”…自治会長は“手応え”

 5月上旬、移住を検討する5組が空き家を下見するイベントに参加しました。

 (参加者)
 「横浜から来ました。今井町に住みたくて物件を探しにという感じです」
 「お店をしたいなと思っていまして。それの候補地を見学したいなと思って来ました」
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 さっそく1軒目の空き家へと向かいます。

    (参加者)「うわ広い。こういう建物の耐震性とかはどうなんですか?」
 (NPO理事長)「耐震性は補強をうまくしていく」
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 町内にある9軒の空き家を2時間かけてまわります。空き家の持ち主も住んでくれる人が現れることを願っています。

 (空き家の所有者)
 「もしどなたかがこの家を気に入って買いたいと思う方がおられたら、引継ぎできたらと思いまして」
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 (今井町自治会 米川憲久会長)
 「(Q手ごたえとか反応は?)さっきNPO法人理事長に聞いたら、2~3人ちょっと感触がいいと聞きましたので、プッシュしたいと思いますね」

実際に移住して古民家を“自宅兼カフェ”に改装した家族も

 空き家ツアーをきっかけに、5年前に今井町に移住した家族の暮らしぶりを聞きました。
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 大阪市内から移住して古民家を改装し、自宅兼カフェにしています。

 (寺田栄子さん)
 「ここは天井があったんですけれども取っ払ってもらって。吹き抜けにしているので開放感がありますね」
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 10年間空き家となっていた物件を譲り受けて大工さんと一緒にリノベーションし、自ら住まいを仕上げました。

 (寺田栄子さん)
 「柱はそのまま残せるところは残して、腐ってしまったりした木は危ないので新しく入れてもらった木があって、それも自分たちで色を塗りました。(Q改修で苦労したところは?)この柱をとれないとか、自由がきかないので」
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 古民家暮らしに憧れて移住を決めた人など、これまでに100軒ほどの空き家が解消されましたが、それと同じくらいのペースで所有者が死亡したり子どもが都会に出たりして、空き家はなかなか減らないと言います。400年以上維持してきた町並みが岐路に立たされています。後世に歴史をつないでいくことはできるのでしょうか。