旅行の楽しみ方の一つとして、今回、視覚障がいがある人に“目が見えないからこその観光”を教えていただきました。MBSの大吉洋平アナウンサーが、目が見える人たちにとっても旅の価値観が変わるような衝撃的な体験をしてきました。

視覚障がい者が直面する旅の課題「景色は諦めている」

 (大吉アナ)「おはようございます。アナウンサーの大吉と申します」
 (長尾さん)「初めまして。わざわざ京都までありがとうございます」

 京都市に住む長尾博さんは、生まれつき右目が見えず、小学5年の時に網膜剥離を発症して全盲となりました。

 旅行好きの長尾さん。全国の観光地にいるボランティアを頼って一人旅もしてきました。一方で視覚障がい者が直面する旅の課題があるといいます。
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 (長尾博さん)
 「見えない人は旅の楽しみと言ったらやっぱり珍しいものを食べる。それから土産もの、買い物の楽しみ。世間では風景とかね、自然美とか建物の美とか、そういうものを楽しみに出かけている。見えない人は、景色はと言ったらもう諦めている」
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 例えば秋の京都。モミジやカエデが真っ赤に染まる絶景は旅の楽しみの1つですが…。

 (長尾博さん)
 「全景の庭を眺めるとか、それはやっぱり手強いんですよね」

「見えなくても楽しい旅を、見えない仲間に知ってほしい」

 そこで長尾さんが挑戦したのが合格率1割前後という「京都検定1級」。全盲の合格者は史上初です。
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 その勉強方法を見せていただきました。
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 (長尾博さん)
 「ここに点字が出るのは分かりますか。1行ずつね」
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 パソコンに表示されているのは、京都検定の参考書などをボランティアが点字にしたもの。「平安京」と表示されている画面を選択すると、点字ディスプレイにも「平安京」と点字が表示されます。

 こうして地道に勉強を続け1級に合格。モチベーションとなったのは自分と同じ“見えない仲間たち”の存在でした。
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 長尾さんは自身のHP「ムツボシくんの点字の部屋」を通して、“見えなくても楽しい旅”の情報をこれからも発信していきたいと考えています。
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 (長尾博さん)
 「街歩きは見える人だけのものではないですよ、ということなんですよね。食べ物とかお土産とか、それ以外でも『旅は楽しいんだよ』ということを見えない仲間に知ってほしいなと」

アイマスクを装着して手から感じる「観音像の優しさ」

 障がいがあるなしにかかわらず誰もが楽しめる旅。それが体験できるということで、楽しみ方を教えてくれる人物と待ち合わせをしました。国立民族学博物館の広瀬浩二郎准教授。全盲の文化人類学者です。
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 広瀬先生の案内で向かったのは山の方。

  (大吉アナ)「着きました。嵐山の観光地から北に山の中を上がってきた感じですけど」
 (広瀬准教授)「なかなかここまで来ないと思うんですけどね、突き当たりというところ。だから人も少ないし空気もいい」
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 京都・嵯峨野にある愛宕念仏寺。ここで行う観光というのが…。

 (広瀬准教授)「目隠し、アイマスクをしてもらいます」
  (大吉アナ)「私がアイマスクをする」
 (広瀬准教授)「そうなんです。ちょっとビックリかもしれないですけど。2つ意味があるんですけど、『視覚を使えないようにする』というのと『視覚を使わないようにする』。普段よく使っている視覚をちょっとお休みして、別の感覚を使う」
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 大吉アナもアイマスクを装着しました。

  (大吉アナ)「止まっているだけなんですけれども、少しばかり怖さがありますね」
 (広瀬准教授)「どうしても歩くと怖いんですけど、その先に今日は楽しいワクワク体験がありますので」

 障がいがあるなしにかかわらず楽しめる旅行は『ユニバーサルツーリズム』と呼ばれます。実はこのお寺にある「ふれ愛観音堂」には、触ってもいい観音像があり、『ユニバーサルツーリズム』を体験するにはもってこいの場所だといいます。
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 (広瀬准教授)「両手で、手を伸ばしてもらって、これがお顔ですね」
  (大吉アナ)「ひんやりしています。これがお顔ですか」
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 (広瀬准教授)「はい。お顔ですから目と鼻と口があると思うので、それを部分的に探ってみて下さい」
  (大吉アナ)「わかります。たぶんここがまぶたなんですけど、その下に眼球があって」
 (広瀬准教授)「ほっぺたを両手で包み込むような感じで触っていただくと、赤ちゃんみたいな、非常にふっくらした」
  (大吉アナ)「言葉のチョイスが合っているかわからないのですが、赤ちゃんのお尻みたいな、柔らかくてつるんとした優しさがある触り心地というか」
 (広瀬准教授)「まさに優しさとおっしゃいましたけれども、仏様の慈愛・優しさを手から感じていただく」

1200体の石像を“俯瞰”ではなく“触って”感じる

 さらにこのお寺には、もう1つ“触る鑑賞”にぴったりなものが。それが境内にある石像です。実際に視覚を使わない鑑賞をしてみました。

  (大吉アナ)「スポーツ刈りの少年の頭を触ってるような感覚」
 (広瀬准教授)「これはこれで気持ちいいですけど」
  (大吉アナ)「すごく大きなゴツゴツした、男性の年配の方の顔のような気がする。これが鼻かな?」
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 (広瀬准教授)「そうですね真ん中、鼻ですよね」
  (大吉アナ)「そうですよね。盛り上がった部分があって、これが鼻なのかな」
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 境内にある「羅漢」の石像は1200体ほど。
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 目で見ると数の多さの印象が残ってしまいますが、1体1体を見てみると、楽器を弾いていたりボクシングのグローブをつけていたり、特徴的な形をしています。それを触って感じるのです。
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  (大吉アナ)「え?どんな形?これ。なんか醤油皿みたいなのがある。違います?」
 (広瀬准教授)「大吉さんはお酒飲みますか?」
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  (大吉アナ)「めちゃくちゃ飲みます。お酒…あ、おちょこ?下は丸い。とっくりとおちょこ?酒を酌み交わす2人」
 (広瀬准教授)「そうですね」
  (大吉アナ)「あーそういうこと」

「本当のユニバーサルは多数側の楽しみを変えていく」

 最後はアイマスクを外し、自分が“鑑賞”してきたものを改めて捉えます。

 (大吉アナウンサー)
 「眩しい。あ、こんな感じだったんだ。へえ!先生たくさんありますよ、羅漢様が。思ったよりもちゃんと見たらわかる顔をしてるんですね。これ私、アイマスクをつけずにここに上がってくると、たぶん俯瞰で見たと思うんですよ。だけど、今日は1体1体に触れたので、俯瞰じゃないんですよね。やっぱりポイントで深く集中して見ているので、記憶の残り方が違いますね」
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 これこそがまさに広瀬先生の考える『ユニバーサルツーリズム』なのです。

 (国立民族学博物館 広瀬浩二郎准教授)
 「弱者・障がい者と言われる人たちを支えるだけじゃなくて、そこからもっと突き抜けていって。本当のユニバーサルっていうのは、マジョリティー(多数)側の楽しみを変えていく」
 (大吉アナウンサー)
 「目が見えない人たちがどうやって観光を楽しんでいるのかを『知る』ではなくて、彼らしか知らない楽しみ方を我々が体験できる新たな楽しみというか、それをきょう本当に実体験できました」