大学入試をめぐり、いま『総合型選抜』と呼ばれる方法で受験する人が増えています。文科省によりますと、2021年度の「国公立と私立を合わせた全ての大学入学者」のうち、一般入試で入学した人は49.5%だったのに対して、総合型選抜や推薦入試で入学した人は50.3%と全体の半分以上でした。早ければ6月にもエントリーが始まるという総合型選抜。いったいどんな入試で、なぜいまこんなに増えているのか、取材しました。

“夢を誰もが持てる環境をあたえる人になりたい”総合型選抜で合格

 大阪府内に住む大学1年生の赤松じゅりさん(18)。ブラジル人の母と日本人の父、そして姉の4人家族です。この春、関西学院大学に入学しました。
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 (赤松じゅりさん)
 「ここが私の勉強机です。有名な人のモットーというか名言とかをいっぱい貼って、モチベーションにしています」
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 赤松さんは高校2年の時、ニュージーランドに留学しました。そこでアフリカ出身の友人に出会い、開発途上国などは“子どもが夢を持ちにくい”環境だと知り、将来、国際関係の仕事をしたいと思いはじめました。
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 (赤松じゅりさん)
 「アフリカからの移民との出会いがそもそも初めてだったので衝撃を受けて、そこからアフリカに興味を持ちだして、夢を誰もが持てる環境っていうのを自分があたえる人になりたいと」

 自分の夢を具体的にまとめ、アピールして大学合格。そんな入試があるのです。

 (赤松じゅりさん)
 「総合型選抜の中のグローバル入試で合格を決めました」

総合型選抜での入学者は2000年度→2021年度で約9倍に

 従来の大学入試はペーパーテストで合否が決まりますが、『総合型選抜』は以前はAO入試と呼ばれ、志望理由書・面接・小論文などで「主体性」や「表現力」を問う方法です。かつては「一芸入試」と呼ばれていましたが、いまは一定の学力も必要で、評定平均値を出願条件にする大学もあります。
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 また、立命館大学は、数学の講座を高校3年のうちに約1か月、タブレットなどで受講することを出願条件にする方式(※合否に直接関係しない)を今年度始めます。
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 文科省によりますと、2000年度にわずか1.4%だった総合型選抜(AO入試)の入学者は、2021年度には12.7%と約9倍に増加。推薦入試をあわせると入学者全体の半数に達していて、偏差値にとらわれずに大学合格するチャンスが増えているのです。
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 総合型選抜が増えた理由について、大学側は、主体的な人材を求める企業や社会の声があると話します。

 (関西学院大学・入試センター 綾部有課長補佐)
 「自分の強みを生かして、より自主的に主体的に行動できる人材、(大学側が)そういう生徒さんを募集するというところ、このあたりが変わってきているかなと思います」

『総合型』専門の塾「最初からやりたいことが明確な子はほとんどいない」

 どうすれば合格に近づけるのでしょう。取材班は4月6日、総合型選抜専門の塾「AOI」を訪ねました。総合型選抜は早ければ高校3年の6月ごろからエントリーが始まり、私立大学などでは年内にも合否が判明します。しかし、4月の段階で生徒みんなが夢や目標が決まっているわけではありません。塾の生徒たちに話を聞きました。
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 (高校3年生)
 「大学とか調べたりはしているんですけど、まだ曖昧な感じです」
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 (高校3年生)
 「もともと一般受験のつもりでずっと勉強していたんですけど、私も総合型選抜を受けられるんじゃないかなと思って。結構、私もふわふわしていたので」
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 総合型選抜は“どんな生徒にもチャンスがある”と言います。

 (総合型選抜専門塾「AOI」 小澤忠代表)
 「最初からやりたいことが明確で、目標も決まっています、夢あります、みたいな子たちはほとんど実はいないです。総合型選抜ってその子にしか答えがないんですよ。正解がない受験なので、ずっとその子のパーソナルに寄り添うと、個性とか強みとかユニークさみたいなところにその子自身が徐々に自分で気づいていく」

総合型選抜で入学した「メンター」と一緒に“学びたいこと”を考える

 総合型選抜で合格した赤松じゅりさんに、去年この塾で学んだ「目標の立て方」を振り返って再現してもらいました。まずは自分の18年の人生をグラフにして、うれしかったことや悲しかったことを振り返ります。
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 その話を聞くのは、同じ総合型選抜で大学に入学したメンター(良き指導者)と呼ばれる講師の清水柚貴さんです。経験を基に受験生を分析して、夢を固めたり大学で何を学びたいかを一緒に考えます。

 【「目標の立て方」の再現】
 (赤松さん)「元々CAさんになりたいという夢は小さい時からちょっとずつあったんですけど、夢じゃなく憧れだったんです。英語が好きになってきて、中学で英語が始まって」
 (清水さん)「じゅりがいま一番興味があること、社会問題って書いてくれているけど、なんでこれに興味を持ったの?」
 (赤松さん)「高2の時に留学に自分は行ったんですけど、日本では出会うことがなかった人たちと出会ったことでいろんな問題とか課題があるということがわかったので、それをもっと知っていけたらいいなと思って」
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 総合型選抜の入学者が年々増え、先輩も増える。これも、裾野が広がる理由のようです。

 (メンター 清水柚貴さん)
 「総合型選抜は一芸入試とかじゃなくて、ちゃんと対策をしたりとか受験戦略をちゃんと立てれば誰でも可能性があると思っているので、だから本当にすごい子とか実績がある子ばっかりではないです」

新入生に聞く…大学でやりたいことは?

 そしてこの春、各地で大学の入学式が開催されました。

 (新入生)
 「特に目標は何もないです。楽しい学生生活が送れたらいいなと思っています」
 「遊べる時に遊んだり、大学でしかできないこととかをする」
 「サークルしたい。(Q何サークル?)ダンス」
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 受験勉強を終え、キャンパスライフを満喫しようとする新入生たちの中に、赤松さんの姿もありました。

 (赤松じゅりさん)
 「(大学が)国際機関と提携して行っているプログラムがあるので、そこで実際に途上国に行って国際機関の職員の方たちと一緒に働く。途上国の歴史や現状を学びたいなと思っています」

夢や目標は曖昧だった生徒ら“何に興味があるかわかってきた”

 さて、総合型選抜の専門塾に通っていた高校3年の2人。1か月前は曖昧だった夢や目標はいまどうなっているのでしょうか。5月10日、再び2人に話を聞きました。

 (高校3年生)
 「自分の興味のあることを分析していった時に、多様性だとか国際性だとかそういうことに興味があるんだなというのがすごくわかってきた。関西だけじゃなくて関東まで視野を広げて結構いろいろ調べています」
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 (高校3年生)
 「自分ってこういう一面があるんだとか、自己分析をしないとわからなかった自分の一面などを知ることができました。ちょっとマーケティングの方に興味が出てきた」

 2人とも夢にしっかり向き合えていました。

 いま東大や京大などでも枠が広がりはじめた総合型選抜などの入試。大学入試は「出された問題を解く」ことから「自分に向き合う」ことへ…その軸が変わってきたかもしれません。