ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ロシア外務省は5月4日、岸田文雄総理大臣や林芳正外務大臣ら63人を入国禁止にすると発表しました。入国禁止の対象となっているのは主要閣僚や国会議員だけでなく、読売新聞グループ本社主筆の渡邉恒雄氏やスポーツジャーナリストの二宮清純氏のほか、国際政治学者の中村逸郎氏らの名前もあります。入国禁止リストが意味することとは何か。今回ロシアから“名指し”された中の1人である神戸学院大学の岡部芳彦教授本人に話を聞きました。
「びっくり」休日の映画鑑賞後に知った『入国禁止措置」
―――ロシアが「無期限の入国禁止」とした63人の中に岡部先生の名前もあります。先生はどのように受け止めていますか?
「びっくりしました。単純にびっくりしました」
―――何か大きな不利益を被るというようなことになりますか?
「今のところはあまり影響は感じられませんが、ロシアには年に何度かコロナ禍の前までは行っておりましたので、行けなくなったのは間違いないなと思います」
―――入国禁止措置について先生はいつ・どのように知ったのでしょうか?
「発表された日は連休中でもありましたので、私は子どもを連れて映画を見にいっていたのですが、そのときは当然携帯電話を切っておりまして、見終わって映画館の外に出て電源を入れると着信が30件とかメッセージが入っていて、一瞬何があったのかよくわからなかったんですけども、ご心配された方とかメディアの方とかがお電話されてきて、それで知ったという形ですね。特にどこからか連絡があったとかではありません」
―――誰かから直接連絡が来るわけじゃないんですね?
「はい、全く違いますね。それでロシアの外務省のウェブサイトを見ようと思ったら、アクセス集中で見られなかったです」
―――政府の関係者や外務省などから直接連絡はないんですね?
「ないですね、全くなしです」
日ロ交流に関しても携わっていただけに「非常に残念」
―――入国禁止の対象に含まれたことについて思いあたることはあるのでしょうか。先生はウクライナ研究会会長という肩書きで書かれたそうですね?
「研究者6人がリストに載ったわけなんですが、他の方は○○大学教授という書かれ方でした。しかし、ロシア外務省のウェブで私だけ神戸学院大学教授、ウクライナ研究会会長というふうに書かれていますね」
―――先生は日ロ協会常任理事であったり、日露大学協会人材交流委員会委員でいらっしゃったりもしますね?
「そうですね。安倍政権下で特に日ロ交流が経済交流を含めて大学でも進みましたので、そのお手伝いも私は長年しております。だから、そういうお手伝いもしていたのに今回の措置は非常に残念だなというふうに感じます」
―――今まで日本とロシアの交流のため、日ロ関係のために尽力されてきたのですよね?
「そうですね。ウクライナがメインと言いながらも、もちろんこちらでも働かせていただいていたので、余計意外な感じがして驚いたという感じですね」
「同じテレビ番組に共通して出ている人も対象に」
―――今回の63人の選定については、慌てて作成した「時代遅れの情報術」という見解のようですね?
「これは推測の域は出ないにしても、ロシア本国の外務省から言われて在京のロシア大使館が作ったと思われるんですけれども、どうもテレビで情報を取ったなという感じがしています。テレビで目立つ人とか、あるいは北方領土関係の方、国会議員も入れられていますけれど。そう考えるとやはり今回のウクライナ戦争である通りですね、ロシアは国内のプロパガンダはテレビが中心なので、やはりテレビが大事な情報源なんだろうなというのがこのリストからは推測されます」
―――ロシアの関係者が日本のテレビ番組をいろいろ見て、「あの人なんかいろいろロシアのこと言っているぞ」みたいなことでしょうか?
「どことは言わないんですけれど、リストの中に同じ番組に共通して出ている人とかもいるので、そこら辺から想像もできるなと」
―――意外とアナログな手法?
「そう感じましたね。ネットメディアでロシア批判している人とかは一切入っていないので、そこからもそういう推測はできるかなと」
―――関西ローカルを見てとかもある?
「ありえますね。でも東京かなという気はします。二宮清純さんと僕は直接お会いしたことないですが、同じ番組に出ていられて結構批判されているのを見たことがあるので。ドーピング問題なんかをかなり厳しく言われていました」
対象者とそうでない人の“線引き”はどこか MBSの解説委員が“ある閣僚に”聞いた話では…
―――今回の入国禁止措置について、MBSの三澤肇解説委員のポイントとしては国家安全保障関連の閣僚も対象に含まれている点だと?
(三澤肇解説委員)「入国禁止となったある閣僚と話したら、閣僚の中でも入国禁止になっている人とそうじゃない人がいて、『この差は何ですか?』と聞いたら、国家安全保障会議のメンバーで線引きしているんじゃないかというふうに言っていました。防衛大臣とか外務大臣とかも含めて9大臣ぐらいいるんですが、そこに入っているか入っていないかという線引き。あと、沖縄・北方問題の特別委員会というところに入っている委員も結構多数リストアップされているんですけども、されていない国会議員もいるんですよ。よく見ているなと思うところもあるんですが、そうじゃないところもあって、例えば、ロシアをかなり批判している国会議員はリストアップされていなかったりして、その人は『私はなぜ63人の中に入ってないんだ』と。『なんでリストアップされていないんだ』と言っている国会議員もいました。だから、よく見ていないんでしょうね、やっぱり。でも一部はよく見ている、ピンポイントではよく見ている可能性はあるのかなと、人選を見て思いました」
―――あとは北方領土のビザなし交流がなくなると困るということですね?
(三澤肇解説委員)「沖縄・北方問題の特別委員会のメンバーである石川香織衆議院議員に話を聞きました。石川議員は北海道11区選出で、1回、国後島に行っているんですね、ビザなし交流で。1回行くとやっぱりいろんなものが吸収できるので、こういったビザなし交流に影響が出るのは困りますねというふうに言っていました」
―――岡部先生はビザなし交流への影響についてどう思われますか?
「それはあると思います。私も実は北方領土へは2016年に択捉島、2017年に国後島、2019年に色丹島と、団長として行っています。北方領土という呼び名自体がロシアにとっては認められないということがありますので、彼らからしたら南クリル諸島ですので、そういうところも影響しているかなというふうに思います」
「5月9日は粛々と戦勝記念日を祝うのではないか」
―――そして、ロシア最大の祝日「戦勝記念日」の5月9日に何が起きるのか。この日は第二次世界大戦で旧ソ連がナチスドイツに勝利した日です。岡部先生は「粛々と戦勝記念日を祝うのではないか」「追悼の日でもあるので過激な行動はないのではないか」「戦争宣言や宣戦布告はしないのではないか」と見ているようですね?
「そうですね。5月9日の戦勝記念日に私はエリツィン時代、だいぶ前ですが行ったことがあります。これは愛国心が高まる日であるとともに、やはり大量の戦死者を出した追悼の日ということもあるので、過激な『戦争だ』というようなメッセージを出すのはちょっと違うのかなというふうに思います。プーチン大統領は毎年5月9日は演説をされまして、だいたい月並みな感じの戦死者を悼むということなんですけれど、5分の1ぐらいは現在の情勢を絡めて話しますので、それがどんなことを言うのかというのが今回の注目点じゃないかなというふうに思われます」