5月9日のロシア戦勝記念日を前にウクライナへの攻勢を強めるプーチン大統領ですが、4月27日には「我々にとって受け入れがたい戦略的脅威を作り出すなら、反撃は電光石火で行われると認識すべきだ」「反撃のための手段は全てそろっている。誰もが持っていないものもある」と述べ、核兵器の使用も辞さないことを示唆しています。こうした中で、本当に核兵器使用の可能性があるのか?どのような条件で判断されるのか?使う場所はどこになるのか?さらに威力の違う『戦略核』と『非戦略核』の違いなども含めて、5月5日に軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんに解説していただきました。

戦勝記念日の軍事パレード控え「マリウポリを開放したことを宣伝するのでは」

 ―――ロシア全土で5月9日「戦勝記念日」の軍事パレードの準備が進むという情報が入ってきています。9日には具体的にどのようなことが行われそうですか?
 「これは例年行われているパレードなんですけれども、ただ今年はやはり装備とか兵士が少ないみたいですね。ウクライナの方に行っていますから。ただ、いわゆる核戦争のときにプーチン大統領が乗る専用機があるんですけども、それが登場するみたいですね」

 ―――9日までにある程度の戦果が必要なんじゃないか、ここで何か発表したいんじゃないか、というような話も以前ありましたが、そのあたりはどうですか?
 「要するに戦果はあまり関係なく、『自分たちはプーチン大統領の指揮のもとで計画通りやっている』『大成功である』という、そういうアピールは必ずやります。おそらく、マリウポリっていう街を1つ象徴的に国内で宣伝に使っていて、ですからマリウポリを開放したということをおそらく大々的に宣伝すると思います」

ロシアの核兵器使用の可能性…危惧されているのは『非戦略核』

 ―――ウクライナ側は、ロシアの挑発や攻撃を強めることを警戒しているということです。今後の核兵器使用の可能性なんですが、黒井さんによりますと“ロシアの敗北濃厚で?”ということですが、これはどういうことですか?
 「ロシアが押しているうちはむしろ可能性が少なくて、敗北してくるということですね。ただそこはどういうときにやるかってはっきり言っていないので、どのくらいになったらこういうこと考えるのかはわからないですね」

 ―――現状で言いますと、ロシアの戦況はどうなんでしょうか。
 「戦況はロシア軍はどちらかというとあまりうまくいっていない、ロシアから見ればですね。今の戦闘というのはウクライナがうまく何とか持ちこたえている状況で、ロシア軍がやはりかなり弱ったものですから、それの補給があまりできていない。その代わり、ウクライナは西側からいろんな武器が来て、この後どうなるかっていうのはわからないんですけれども、西側の武器をどうやって止めるかっていうのがロシアの今の問題ですね」

 ―――NATOが参戦する可能性もあるということですが?
 「そうですね。ロシアが一番怖がってるのはそこで、NATOが直接来るというのはロシアとしてもあまりうまくないということで、それに対する『そういうことをしたら我々は大きなものをやるぞ』という脅しに使っているということですね」

 ―――西側諸国がたくさんの兵器を供与されてるということですが?
 「そうですね、ですからそれに対してロシアは打てる手があまりないんですね、実際。ポーランドのあたりから西の方に来るんですけれども、制空権と言って航空機で空爆できないんで、長距離でミサイルで叩くしかないんですけど、ミサイル1発2発ってそんなに威力大きくないので、わりと補修がすぐできちゃいますから、そういう意味ではロシアとしてもこれを止めるのは難しいという状況ですね」

 ―――全て憶測、いつ使うかは不明なんだけれども、プーチン大統領が核兵器使用を決める可能性はあるということですか?
 「プーチン大統領が全て決める。現場の舞台指揮官にはそういう権限がないんで、プーチン大統領が決める。この人の考えがどうなるかは誰もわからないんですね。ですから、必ずしも劣勢になったから使うとか、そういうふうに安心もできないですし、何かの拍子にプーチン大統領が『これはもうプライドのためにやるんだ』って決めたら使っちゃうということですね。もちろんアドバイザーはたくさんいるんですけれども、プーチン大統領が決めることに対して否定的なことはおそらく言えないと思います」

 ―――核の使用で危惧されているのが「非戦略核(低出力核)」というものです。戦略核は敵の本国を直接攻撃できる威力の大きいものですが、非戦略核は射程が短く威力も比較的小さい戦場単位での使用を想定したものです。核にも種類があるということなんですね。
 「プーチン大統領のそばで度々目撃される黒いカバンが「核ミサイルの発射装置」ではないかと指摘されている話はその戦略核の話で、これは要はアメリカから撃たれたらこちらも撃つぞということで、もう本当に最後の日みたいな感じの世界の話なんですけれども、それとは別に、ロシア軍というのは戦争で使える小さな威力の小さな核を使うという考えがあって、もうおそらく2000発近いものを作っていると言われていますね」

 ―――ロシアは非戦略核を“使える核”として数多く製造・保有をしている。威力は数10キロトン級ということで、15キロトンの広島型原爆と比べるとだいぶ大きいということになりますが?
 「これは誰もわからないんですけれども、小さいものですとおそらく5キロトンくらいのやつもあるとは思うんですが、調節して威力って変えられるんですね。おそらく広島型かそれの2倍かそのぐらいのもの、10キロトン、20キロトン、30キロトンぐらいが多いんじゃないかと思われます」

 ―――万が一、本当に発射するということになったら、どこに向けて発射されるんですか?
 「これは本当にプーチン大統領の命令次第なのでわからないですよね。単に脅しであれば、例えば黒海のオデッサの沖合辺りに落とすということも考えられますし、もしくはウクライナの人の少ないところの可能性もありますし。ウクライナのどこかに落とす可能性はこれからの戦局次第ではゼロではないということになりますね」

『核兵器を使用した場合の報復』はどうする?

 ―――黒井さんでさえもプーチン大統領がどう決断するかわからないということですが、逆にバイデン大統領や西側諸国は今のところ『そうは言っても撃たないだろう』という瀬踏みをしているのか、その可能性込みで支援を続けているのか、そのあたりはどうなんでしょうか?
 「将来の話なのでわからないので、アメリカの政権やNATOの当局は『あり得る』という前提での計画、考えはあると思います。それは考えないわけにはいかないので」

 ―――そのことで武器支援なりを少し用心しようかっていうことにはならないんですか?
 「今のところはロシア側が明確に発射する、核で報復するという流れになってないので、今のところはまだ武器支援を続けるというところ。ただこの後ですね、プーチン大統領ってなんかやる前に自分を正当化するために必ず何かを言うんですよ。その文言によってはちょっとやばいなっていうことも起こり得ます」

 ―――もしプーチン大統領が核攻撃を行えば、それに対する報復はどうなるのでしょうか。黒井さんによると、NATOが「より強力な経済制裁」か「ロシア軍の核兵器出撃拠点への攻撃」ということですが?
 「人によっては核で報復するんじゃないかっていうことをおっしゃる方もいるんですけれども、おそらくそれはかなりお互いの核のエスカレーションを呼びますので、強く動いたとしても核兵器を出撃したところへ通常戦力のミサイルで攻撃するとか、それであれば核で報復っておそらくしてこないということですね。ただ経済制裁の強化で終わるって可能性もあるので、ちょっとここはわからないですね。ウクライナの中っていうのはNATOは直接は報復するということの軍事同盟ではないので。NATO側も強いことをやるとは言っているんですけれども、何かで報復するという具体的なことは言っていないんですね」