「パソナグループ」がおととし発表した“淡路島への本社機能の一部移転計画”。この計画に伴い、淡路島ではさまざまな施設が発展し、さらに移住者も増えたといいます。本社機能の移転計画から約1年半が経ったいま、島の社会構造にも変化の兆しが見えてきました。

シングルマザーや音楽家…社員の働き方や生活をサポート『パソナの淡路島移住プロジェクト』

 ゴールデンウィークを前に準備が進んでいたのは、淡路島の山の中に突き出た長さ100mのウッドデッキ「禅坊 靖寧(ぜんぼう せいねい)」です。都会暮らしで疲れた人に、禅や自然食を通じて豊かさを見つめ直してほしいというコンセプトの施設です。
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 (パソナグループ「awajishima resort」 大日向由香里社長)
 「毎日忙しい人に、ほっとするような時間を作っていただきたいなと。非日常を体験したい人に来ていただけたらうれしいなと思います」
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 個性的な施設が増えた淡路島。近年は、移住者も増えたといいます。音楽家の柳田絢奈さんは、去年、神奈川県から兵庫県淡路市に移住しました。島に住めば接客などの仕事と「演奏」をかけもちで働けるという社員募集に応じました。
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 (柳田絢奈さん)
 「常に演奏の場は求めていて。ただ、自分の力だけではどうにもならないところではあったので、日常的に演奏する機会があるというのは、本当に素敵なことだなと思っております」
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 一方、オフィスで働く小林千紘さんは、去年、離婚を機に岐阜県から娘と淡路市に引っ越してきたシングルマザーです。小林さんと柳田さんは人材派遣会社「パソナグループ」の社員です。淡路島への移住を伴うプロジェクトを見つけて入社を決めました。
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 「ひとり親働く支援プロジェクト」は、会社側が借り上げ社宅や生活支援を用意して淡路に移住する社員を募集するもので、子どもには昼ご飯と晩ご飯も提供されます。

 (小林千紘さん)
 「平日家事することが全然なくて、かなり助かっています。預けている間に空手教室やバレエ教室、レゴ教室などのプログラムがいっぱいあるので」

    (千紘さん)「きょうレゴやったな。あと何してるんやったっけ?」
 (娘・希咲ちゃん)「空手」

 入社するまで事務仕事の経験がなかった小林さん。淡路島で子どもと一緒に新しい人生を楽しめているそうです。

 (小林千紘さん)
 「私が(プロジェクトの)第1号みたいな感じで入ってきて。最近になってどんどん入ってきて、(移住したひとり親が)28人くらいになったと聞いているんですけど。働くママさんに優しい環境は整っているなと思います」
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 パソナグループはおととし、淡路島への本社機能の一部移転を発表。社員約1200人の移住を計画しました。

合併以来初めて『転入者』が『転出者』を上回る

 島内にはパソナグループの施設が次々できています。テーマパーク「ニジゲンノモリ」は、この春から人気アニメ「鬼滅の刃」とのコラボを実施。
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 ほかにも、海辺に立つ巨大な「ハローキティ」が印象的な観光施設「ハローキティスマイル」や
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 島の食材を活かした飲食店などもあります。
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 働く場所が増えたこともあり、淡路島には2020年~現在までに約350人のパソナ社員が移住しました。そして、淡路市は合併以来初めて、おととし、転入者が転出者を上回る「社会増」となりました。
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 これに喜びを禁じ得ないのは淡路市の門康彦市長です。

 (淡路市 門康彦市長)
 「パソナ自身もそうですけれども、パソナが発信したPR能力ですね。これがすごいと思います。そのことによって相乗作用としてほかの企業も動いてきますから」
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 いま、淡路市は新規出店する事業者の建設ラッシュです。島の外の業者にも下請けの発注が及んでいるといいます。
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 進出したのは、パソナグループだけではありません。3月にオープンした淡路島の食材を活かした食堂などが入る複合施設「SAKIA」。東京や大阪に本部がある「バルニバービ」は3年前の2019年から淡路島でも飲食店やホテルなどを展開。5月には島内だけで10店舗に到達します。
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 (バルニバービオーガスト・取締役 井上隆文さん)
 「ちょっと小旅行とかで行けたり、現実から離れられるようなロケーションが見られたり。あとはやっぱり食材ですよね、いろんなものがおいしいので。そこがすごく魅力的だなと思っています」

進出事業者の増加で『物件が枯渇』人気エリアの別荘地…売れ残りはほとんどない

 3年前から社宅に移り住み、すっかり島暮らしを気に入っているという井上さん。ただ、家族で住める家を探しても、なかなか見つからないといいます。

 (バルニバービオーガスト・取締役 井上隆文さん)
 「家を探そうとしたときに全部売約済みになっているとか。どんどん家とか買われていっていて、どんどん高くなっていってるんで」
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 物件について地元の不動産会社「田尾不動産」に話を聞きました。

 (田尾不動産 田尾吏さん)
 「賃貸の方に関しては、ご紹介できる物件がないくらい、ひと通り物件が埋まってしまっている。新規の事業者さんとかが物件を探されるケースがあるので、本当に物件が枯渇してしまっていて」
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 田尾さんに島内の人気エリアを案内してもらいました。

 (田尾不動産 田尾吏さん)
 「そこちょうど、うちが分譲している区画なんですが。まだ何も建っていないですけれども、4区画あってもう3つが決まっているような状況で。新築の家がトントンとできるような感じですね」
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 問い合わせが多いのは、人気のカフェや商業施設が集まる西海岸沿いの「北淡エリア」です。

 (田尾不動産 田尾吏さん)
 「ここは『尾崎マリンタウン』という名前がついている別荘地なんですけれども。2年半ぐらい前って割と売れ残っている物件もあるイメージだったんですが、たぶんいま売れ残っている物件はほとんどないんですよ」
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 このエリアは京阪神からもアクセスが良いため、別荘地として関心を持つ人も増えているそうです。

 (田尾不動産 田尾吏さん)
 「(Qターニングポイントは?)100%『パソナさんが本社機能を移転する』というニュースが出て以降ですね。こういう仕事でお金稼ぎをしている身としては、もうありがたくてしょうがないですね」

パソナの課題は『地元や行政が追いつけないほどの速さ』

 一方で、淡路市の門康彦市長は「パソナ特需についてまだ課題はある」と話します。

 (淡路市 門康彦市長)
 「パソナグループの1つの課題はね、速いんですよ。地元が追いつけない。その分だけ嫉妬があるし、誤解もある。市民どころか行政も置いてきぼりですよ。なんか動いてから『市長ここにオープンするんで挨拶に来てくれ』と言われて行ってみたら、まだそこの駐車場を舗装しているんですよね。『こんなもんでできるんか!?』というくらい速いんです。いい悪いを言っているんじゃないですよ」

 注目が集まる淡路島は、この先どんな島に成長するのか。目が離せません。