最近、電気代が高いと感じている人も多いかもしれません。現在、電力会社は、昔からある関西電力や東京電力など地域ごとの「大手電力」と、電力自由化以降に参入した「新電力」があります。『○○でんき』『△△エナジー』といった名前の新電力には、大手企業もあれば自治体が参入している場合もあります。そうした中、電力の仕入れ値が上がってきていて、2021年度は新電力の31社が撤退または廃業しました。一体何が起きているのか、MBSの大吉洋平アナウンサーが現場を取材しました。
「電気代が上がった」の声が多数…前月から2万円アップしたという人も
電気料金に関して、MBSの番組に視聴者から50通以上のメッセージが寄せられました。この冬から春にかけて「電気料金が上がって驚いた」という意見が多く、『3月の電気代が2月に比べて2万円もアップ』『納得できない高額です。盗まれてないか!?』という声もありました。
(大吉洋平アナウンサー)
「私も今年1月が9000円台だったのが、2月は1万5000円台、3月は1万8000円台になりました。盗電されているんじゃないかと思いましたもん」
新電力へ切り替えようとするも相次ぐ「新規申し込み停止」
メッセージを寄せていただいた大阪府吹田市の八澤敏之さんにオンラインで話を聞きました。2人暮らしをしている八澤さんは今年1月と2月の電気代が初めて3万円を超え、新電力への切り替えを検討したといいます。
(八澤敏之さん)
「『シン・エナジー』が一番安かったので、即切り替えようと思ってWEBサイトで申し込みをしました。そうしたら、申し込みをした3月17日がちょうど(シン・エナジーが)『新規申し込みを停止します』という日だったんです」
八澤さんが申し込もうとした「シン・エナジー」は“安定的な電力調達が難しい”として、3月17日から新規受付の停止を発表していました。さらに…。
(八澤敏之さん)
「次に安かったのが『エルピオでんき』だったので、すぐに申し込みし直したんですね。それが3月18日だったんです。それっきり何の連絡も来なくて、慌ててエルピオでんきのホームページを見てみると、『3月18日より新規申し込みを休止。4月30日で電力供給を停止します』というのを見て、あらまと思いまして」
その後も電話が繋がることはなく、結局、切り替えはできなかったということです。
(大吉アナウンサー)
「実際に今の八澤さんのお話を聞くと、たぶんその先にはもっと根深い問題や課題があるんじゃないかというのが見えてきて、電気料金の値上げからちょっと大きな問題、もうちょっと調べてみたいなと思いましたね」
僧侶で新電力会社の社長に「事業の仕組み」を聞く
新電力業界では今何が起きているのか。京都市で新電力会社「テラエナジー」を運営する竹本了吾社長に、“新電力の今”を深掘りしました。
(大吉アナ)「本職はなんですか?」
(竹本社長)「見たとおり、お寺の住職をしております」
竹本さんは、防衛大学校を出て海上自衛官として働いたのち退官し、僧侶に。2018年、僧侶仲間らと新電力会社「TERA Energy(寺+エネルギー)」を立ち上げました。
(大吉アナ)「今、電気は使用者がいろんな会社から選択して買うことができますが、そもそも電力事業の仕組みとは?」
(竹本社長)「野菜とかと基本的には同じ構造かなと。生産者の方がおられて、運ぶ方がおられて、最後にそれを販売する青果店とかスーパーがあると。うちはその青果店やスーパーみたいな位置づけだと思っていただけると。発電所があって、そこで発電された電気をいわゆる送配電事業者が電柱とか電線を使って運んで、最後小売りですね、われわれのようなところが販売している」
電気の『仕入れ値』が高騰…10円が40円になることも
この“野菜”にあたる市場からの電気の仕入れ値が高騰しているといいます。
(大吉アナ)「電気の仕入れ値が上がっている背景には、世界情勢であったり今の環境の状況であったり、どんなことが考えられますか?」
(竹本社長)「ここ数か月について言いますと、やっぱりウクライナ情勢によってかなり原油価格であったり燃料(価格)が上がってきているということがありますし、もう少し前ですがLNGですね、液化天然ガスが非常に需要が増えることで、世界的に足りなくなっていることがかなり強く影響していると思います」
仕入れ値が上がった分は電気料金の値上げだけでは賄いきれないため、小売業者もかぶらざるを得ないといいます。
(テラエナジー 竹本了吾社長)
「実際のところかなり電力小売り会社は厳しい状況ですね。一般家庭だと約25~30円で単価を販売しているんですね。普段の仕入れだと10円とかそれくらいで仕入れているんですけれども、ここ数か月は時間によっては40円とかで仕入れないといけないようなことになっているので、本当に売れば売るほど赤字が出てしまう。だからいろんな新電力が今『新規の申し込みを受け付けていません』とか、その背景には、今あまりお客さんが増えても、たくさん売ったら売っただけ赤字が出てしまうので、それを避けようという意図があるんだと思います」
廃業・事業撤退の31社のうち14社が倒産「今年度も全国的に倒産が増加する」
帝国データバンクによりますと、2021年度1年間で、過去最多となる計31社の新電力会社が廃業や事業撤退などに追い込まれ、そのうち14社が倒産したということです。実際に関西でも去年9月、大阪の新電力会社「アンフィニ」が電力市場の高騰が決定打となって倒産。
帝国データバンクは「今年度も全国的に新電力の倒産が増加する」との見通しを発表しました。
(帝国データバンク・情報部 昌木裕司部長 4月7日)
「倒産や事業撤退に追い込まれる企業が増えることは間違いないと思いますし、ある意味、事業・業界の再編というか、倒産は高止まりというかまた過去最多をおそらく今年度も更新する」
仕入れ値が高騰し事業者の負担が増えるのは大手電力会社も同じです。関西電力も4月からついに、卸売市場の価格高騰を理由に法人向けプランの新規契約の受け付けを事実上停止しています。この先、新電力から大手電力に戻ろうとする利用者が行き場をなくす可能性も出てきました。
「自前で発電する方向に舵を切るべきではないか」
この先、私たち日本の電力はどうなっていくのか。テラエナジーの竹本社長に見解を聞きました。
(大吉アナ)「今後の電気と私たちの関係について何か思うことはありますか?」
(竹本社長)「一番思っているのは、今回のウクライナ情勢とかを言うまでもなく、日本ってすごく海外のエネルギーに頼り切っているわけですよね。そうすると海外でいろんなことが起こるとすぐにわれわれの生活に影響が出てしまう。これって結構怖いことだなと僕自身は思っています。自前で発電する、そういう方向にできるだけ大きく舵を切るべきなんじゃないかなと」
(大吉アナ)「自分たちで確保できるエネルギーをしっかり持っておくべきだと?」
(竹本社長)「そうですね。今は幸い、太陽光発電・風力発電・バイオマスとかですね、少々お金をかけてでも今のうちにしっかり『日本国民のエネルギーは基本的に国内で賄えていますよ』くらいの状況を作れたら、実はすごく安心でいい社会になるんじゃないかなと思います」