新型コロナウイルスに感染しても軽症などで多くの患者が自宅療養をしています。しかし、保健所などを取材すると、自宅療養中に急変して病院に搬送された時には重篤になっているケースがあります。そうした事態を少しでも防ぐために京都市右京区では、リスクが高い自宅療養者にタブレット端末を貸し出す取り組みを始めました。体に異変が起きた時にはすぐに医師と顔を合わせながら会話ができるというもので、コロナ患者以外にも活用が検討されています。この新たな取り組みを取材しました。

自宅療養のコロナ患者へ…訪問診療を行う「開業医」

 3月9日、京都市内を走る1台の車。新型コロナウイルスに感染した患者のもとへ急ぎます。患者の自宅近くに到着すると、高島診療所の高島啓文医師と看護師が玄関の前で防護服に着替えます。
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 (高島医師)「こんにちは。咳はどうですか?あまり悪くはなってない?」
   (患者)「咳はずっと変わらず、たまに咳きこむ感じで。だるさはあるんですけど、ましはましです」
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 待っていたのは40代の男性。前日に高島医師の診療所を受診し、新型コロナウイルスの感染が分かりました。軽症で自宅療養となりましたが、男性は下半身が不自由で車いすでの一人暮らし。医師が注意深く経過を観察する必要がありました。

 (診察を行う高島医師)
 「お薬飲んでくださいね。5日間なんで。(酸素飽和度は)99か。大丈夫ですね」

診察後、「タブレット端末」を患者に渡す

 京都府では軽症や入院の必要がない中等症患者の経過観察は、各地域の医師会に協力を依頼しています。京都市右京区の右京医師会では、所属する開業医らが診察にあたっています。
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 診察を終えた医師が渡したのは、タブレット端末。

 (患者にタブレット端末を渡す高島医師)
 「これがタブレット端末なんです。使い方の簡単な紙があって。明日の朝、僕これで(電話)つながせてもらいますし」

特にケアが必要な自宅療養者へ『タブレット端末』を通じ診察

 右京医師会では2月から、特にケアが必要な自宅療養者にタブレット端末を貸し出し、テレビ電話での診察を始めました。

 (高島診療所 高島啓文医師)
 「たとえば舌をべーっと見せてくださいと言って、カラカラで乾いていたら何も飲めてへんの違いますかとか分かるので。ご本人が大丈夫と言われている時でもそういう判断もできるので、直接見られるというメリットは非常に大きいかなと思います」
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 右京区は京都市で最も広く、北西部は山あいで、頻繁に訪問することが難しく、電話のみで経過観察することも少なくありません。タブレット端末は顔を見て診察できるメリットがあるといいます。

患者「一日の変化があった時に伝えられるのが嬉しい」

 コロナ禍で開業医は、ワクチンの接種や一般診療に追われています。タブレット端末を渡した患者とは、診察の合間を縫って様子を伺うことができます。

 【タブレット端末での患者とのやり取り】
 (高島医師)「咳止めのお薬はあとで届けときますし、元々のお薬はまだあるんですかね?」
   (患者)「はい、いただいたばかりでまだ1か月分あるので大丈夫です」
 (高島医師)「よかったです」

 コロナ患者の経過観察は3日間毎日行われ、異変があった場合は駆け付けられるよう態勢を整えています。
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 (患者)
 「やっぱり連絡していただけると、その時と一日の変化があった時にこの場で(タブレット端末で)お伝えできるのがすごく嬉しいですね」

コロナの症状に専門外の医師もリモート診察に協力 映像など共有し連携

 右京医師会では、こうしたリモート診察への取り組みに約20の開業医が協力しています。中には、皮膚科や整形外科などコロナの症状は専門外の医師も…。
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 (右京医師会 寺村和久会長)
 「先生からするとやはり専門外ですから、この状態を(自宅で)診ておいていいのかどうかとか、呼吸数が増えているけど大丈夫かなと不安に思われる先生もいると思うんです。私ら内科医と担当の先生、患者さんの3人がタブレットで共通の画像を見ながら診療できるのも強みかなと」

 皮膚科などの医師がタブレット端末でコロナ患者を診察し、症状や薬などで悩んだ時は、画像を保存したり映像を共有したりすることで対応していこうと考えています。

 (右京医師会 寺村和久会長)
 「やはりドクターの顔が見える、それから看護師さんの顔が見えるというのは、(患者が)非常に安心されていると。右京医師会が訪問看護ステーションを持っていますので、(患者から要請があって)すぐにドクターが行けないことがある。訪問看護ステーションの看護師さんにお願いして、まず状況を見に行ってもらうことができます」
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 感染の第6波はピークアウトしたとも言われていますが、中等症や重症患者を受け入れている京都第一赤十字病院では、3月28日、コロナの中等症病床18床のうち12床が埋まっていました。
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 高齢者らが病床を埋める、第6波。次の第7波はいつやってくるのか?コロナ病床を担当する医師は、患者の命を救うには“自宅療養者の異変をより早く掴む”ことが大切だと話します。

 (京都第一赤十字病院・感染制御部 弓場達也医師)
 「自宅療養の方は刻一刻、1日1日の変化が把握できないのは当たり前のことだと思うんですよね。いざ病院に来た時には時間もたっていて状態も悪くなっていて治療が難しくなっていることが多いので。ただどのタイミングで入院するかというのは、開業医の先生も軽症を診ている先生もみんな困っていることだと思うので、ここをなんとかクリアできれば、スムーズかつ患者さんの命を奪うこともなくいけるんじゃないかなと思っています」

医師が駐在していない「へき地」への診療も行う

 医療現場のひっ迫を防ぐために、自宅療養の患者らにタブレット端末を渡す取り組みを始めた右京医師会。取材した日、タクシーで医師でもある寺村和久会長らが向かったのは、京都市右京区嵯峨水尾。中心部から車で40分ほど離れた山あいの集落でした。

 (右京医師会 寺村和久会長)
 「(車で)来た道をもう少し便利なようにして、車を通りやすくすると、デイサービスの回数が増えたり、当然救急車も入りやすくなるのでいいんですけど」
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 たどり着いたのは、普段は医師が駐在していない、いわゆる「へき地」です。市からの依頼を受け、週に1度、医師が訪ねて一般診療の日を設けているのです。

 (右京医師会 寺村和久会長)
 「きょうは1軒だけです」
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 この日の診察は、背中の痛みを訴えていた97歳の女性と62歳の娘の健康状態を確認しました。

「へき地」で救急対応や災害時の診察が困難…“タブレットを生かしたい”

 この地域では車を運転できない高齢者が多く、週に1度の診察は欠かせません。右京医師会ではこうした「へき地医療」を3つの地域で行っています。

 (右京医師会 寺村和久会長)
 「本当の救急対応というのは難しいですよね。さっきの道を救急車が飛ばしようがないでしょ。救急車が来た時にはだいぶ状態が変わってる可能性がありますよね」
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 寺村医師はコロナ後、こうしたへき地での救急対応や災害時などにタブレットでの診察を生かしていきたいと話します。

 (右京医師会 寺村和久会長)
 「何か災害が起こった時に現地すぐ行けないと。そういったところにタブレット端末を置いておけば、誰かそこに医療スタッフが1人でもいてくれると、けがをされた方の処置であるとか画像を見ることによって『これは運ばないといけない』とか『これだったらちょっと手当すればいけますよ』とか指示ができますので、タブレット端末があるだけでも、そこのへき地の患者さんは安心されると思います」

 コロナ患者と最前線で向き合う現場。重要な役割を担う開業医たちの試行錯誤はこれからも続いていきます。