3月12日、JR西日本のダイヤ改正が行われました。都市部では平日の朝に減便となり、地方路線に目を向けると、減便に加えて廃線の議論や『駅舎のシンプル化』という動きも出ています。駅舎のシンプル化とは、トイレ・ゴミ箱・ベンチなどを撤去して駅の維持コストを削減していくもので、利用者から不便を訴える声などもあがっています。このシンプル化をめぐって“取り組み”が進められている兵庫県姫路市の駅を取材しました。
人口減と高齢化で利用者が減少 新駅舎にはトイレや待合室なし
兵庫県姫路市の北西部にある人口約1800人の太市地区。田園風景が広がる静かなところです。JR姫新線の太市駅は今回のダイヤ改正で、昼間の時間帯、1時間に2本だったのが1本に減りました。
コロナ禍以前から人口減と高齢化で鉄道利用者が減少。施設の維持にも影響が出て、約90年経過した太市駅の木造駅舎は老朽化が進み、JR西日本によって去年3月に新しい駅舎に建て替えられました。
建て替えられた小さな駅舎は改札機と券売機だけで、もちろん駅員はおらず、トイレや待合室もありません。駅は新しくなりましたが住民にとっては素直に喜べるものではありませんでした。
いまでこそ駅前には新しくて立派な建物が建っていますが、元々の計画では改札機と券売機が設置された鉄筋コンクリート造りの小さな駅舎が建つだけ。それなら「駅前を地域の憩いの場にしたい」と考えた地元企業と住民が一体となって動き出したのです。
地元企業が土地を買って社屋新築…ビルの一部を乗客に開放
地元の運送会社・関西陸運の井田正勝社長は、前の駅舎があった土地をJRから買い、去年11月に同じ太市地区にあった本社を移転・新築して、列車の乗客にも開放することを決めました。
(関西陸運 井田正勝社長)
「地元の自治会と話をしていると、ここに駅舎も何もなくなるのは非常に困ると。JRさんはトイレも何も置かない、自動販売機も公衆電話も撤去するというようなことだったので、そういう機能を関西陸運がやるなら(JRは)『土地を譲ります』ということで」
新しい本社ビルの2階は関西陸運の事務所。1階には待合スペースと、始発から終電まで誰でも利用できる公衆トイレを設け、施設の維持管理も行います。
(関西陸運 井田正勝社長)
「(Q地域の方は喜んでいますか?)一番言われるのはキレイになったということ。多目的トイレも設置していますので、利用される方には喜んでいただいています」
駅周辺にはバスもタクシーも走っていないので、レンタサイクルを置いて観光客の呼び込みにつなげようとしています。
さらに、これまで駅前になかった施設も設置しました。ランチタイムには近くの住民や列車の乗客で賑わうレストランです。地元で採れた野菜などを使った料理を提供しています。
(関西陸運 井田正勝社長)
「列車の時間に合わせて午前7時から開けています。農家の皆さんが朝収穫されたものをここに持ってきていただけるんですよ。私どもが買い上げて料理に提供したりここで販売させていただいたりしています」
レストランを利用する人に話を聞きました。
(客)
「まず、おいしい。これが一番です。それから地域の拠点としてここで採れたものを出していく。地産地消の取り組み」
「店が明るいので非常に雰囲気がいいと思います。減便がありましたけど、ダイヤを見ながら時間をここで有効に使えば、いまのところは不便にはなりつつも駅のすぐ近くということもありますので、非常に利用しやすい環境にあると思います」
市は駅前広場を整備 花壇は地区のボランティアが手入れ
3月26日には姫路市が整備を進めている駅前広場が完成予定で、花壇の手入れは地区のボランティアが行います。
太市地区で生まれ育った自治会長の梅元義昭さんは次のように話します。
(太市地区連合自治会 梅元義昭会長)
「姫新線ができてこの駅ができて約90年、私らはこんなに宝物やと思っていなかった。あって当然やから。生まれたときからあったからね。まさか駅舎がなくなると思っていなかった。新しい玄関口ができましたから、これを出発点にして、太市の街づくりを進めたいなと思っています」
鉄道の減便の最中で、どうしたら駅を維持して賑わいを作れるのか。官民一体となった街づくりはスタートしたばかりです。