ロシア軍によるウクライナ軍事侵攻。ウクライナ東部においてロシアの攻撃が激化しています。特に人口約40万人が住む港湾都市マリウポリでは連日の無差別爆撃で8割の住宅が崩壊し、市民1000人がロシア側に強制連行されたといわれています。なぜロシアは執拗にもマリウポリを攻撃するのか。その狙いをウクライナ人国際政治学者グレンコー・アンドリー氏は「マリウポリはクリミアとロシアの要衝である」という地政学的な理由を述べます。また市民1000人の強制連行については「人質或いは協力者にしてプロパガンダに使うのでは」と分析します。

「民間人を意図的に狙っている」

 ーー現地当局によりますと、ウクライナ南東部の街・マリウポリで3月19日に子供を含む400人が避難する芸術学校が爆撃された。そして被害の詳細は不明ということです。被害の詳細が入ってこない中でマイナスの意味で新たな段階に突入しているのかなと思うんですがこの辺りどう見ますか?

 (グレンコ・アンドリーさん)
 「マリウポリは三方面から砲撃されている状態だから、避難所が爆撃されてもウクライナの当局者がそこに行って調査することも不可能なんですね。これが初めてじゃないんですよね、数日前にロシア軍による避難所の空爆があったばかりで、それに続いているんですけども明らかに意図的に狙っているので、民間人の犠牲者を構わないというより意図的に狙ってると言った方が近いかなと思います」

「クリミア半島とロシア本土を繋げたい狙いか」

 ーー先週も数百人が避難する劇場だったと思うんですが、そこには子供がいるんだよというメッセージが示されていましたが空爆されてしまいました

 (グレンコ・アンドリーさん)
 「この町の特徴として一つ、黒海につながるアゾフ海の中でウクライナ側では一番大きな港町なんですね。物流においては一つの大きな拠点になっているんですね。アゾフ海の貿易全体はその町を通して行われています。もう一つ重要なのは、位置的にその町はロシアとクリミア半島のちょうど陸路にあるんですね。ロシアは元々クリミア半島を8年前に占領したんですけど、その占領当時は、ロシア本土と繋がっておらず、なかなかうまくいってなくて、だからロシア側から見ると、陸路でロシア本土とクリミアを繋ぎたいというのがあるので、そのちょうど通過点にあるのがマリウポリなので何としてでもそれを落として、ロシア本土とクリミア半島を繋げたいという狙いがあると思います」

 ーー物流の要衝であって、クリミア半島とドネツク、ルガンスクの間にある場所であるのだとすれば、侵攻が始まったときに、せめて民間人はもっと早い段階で逃げるという判断はなかったのか、西に移動するという判断はなかったのか。ここ思ってしまうんですが

 (グレンコ・アンドリーさん)
 「確かに考え方によってここはウクライナの当局の見立ては甘かったということもありうるんですけど、結局マリウポリは東から攻撃されるのは元々は想定されていたので、それに対しては備えがあったんですけど、まさか西側から早い段階で攻められることになるのは、ウクライナ当局もが想定していなかったか、もうちょっと後になるかと思わなかったんじゃないかと思います。というのも、途中でクリミア半島からロシア軍が入ってきてマリウポリに向かうわけですけど、その途中で、そこそこ大きな町は他にもあるんですけど、この間ぐらいにそこは抵抗なく落としてしまったから侵攻が早くなったんですね。ウクライナ側として守りが甘かったとは言えます」

市民が連行との報道…考えられる2つの可能性

 ーーそんな中こんな動きです。海外メディアによると、マリウポリの市民1000人以上がロシアに強制連行されたのではないかという話が報道されていますが、もしこんなことが本当に起きているのだとしたら、その理由は何なのか。グレンコさん、その点についてはいかがでしょうか?

 (グレンコ・アンドリーさん)
 「まずは連行した人全員を人質にするんですね。後でウクライナとの和平交渉で『この人たちが無事でいてほしいなら言うことを聞け』と。つまり交渉の中でカードとして彼らを使うんですね。交渉を自分に有利に運ぼうとするんです。それは1点目。2点目はその中から協力者を探してプロパガンダに使うんですね。ロシアにとって“自分が本当は正しいんだ”というプロパガンダを内外的に流すのが非常に重要なポイントなので、もしこの中に協力者がいて、例えばちょっとお金を渡して、その人にカメラの前で『ロシア軍は非常に親切に扱ってくれて本当にありがたい』と言わせ、逆に『ウクライナ軍はひどくて本当にいい加減。国民のことを全然考えていない』ということをカメラの前で言わせて、ロシアが正しいんだというプロパガンダに使う。両方はやると思うんですけど、まずは人質は全員でその中で協力者は出るか出ないかという状態です。一般的にロシアが今までやってきたように、例えば移動するときは車とかじゃなくて貨物用の車両の荷物を置くところに大量に置いて運んだりとか、あと食料や飲み物をまともにあげなかったり、トイレも自由に行かせなかったりとか。またロシアの中でどういう場所に収容するかによるんですね。ちゃんと部屋を与えるのか、それとも倉庫か体育館みたいなところに大量にぶち込んで『そこで待て』と言うのか、というようなことは考えられますね」