泥沼化の様相も呈しているウクライナ侵攻について、ウクライナ、ロシア双方の交渉担当者から「停戦」や「合意」といった言葉が出始めています。断続的に開かれているオンライン停戦交渉の背景に何があるのか、双方の思惑についてウクライナ人の国際政治学者グレンコ・アンドリー氏はロシアが停戦に応じるときは、「ウクライナ制圧をあきらめた時」か「次の攻撃の準備のための一時的な延期だ」と分析します。また英メディアが報じた内容の中で「アメリカ・イギリス・トルコがウクライナの安全を保障する」というウクライナの大統領の提案について「国際常識の理解不足による非現実的な案」とバッサリ否定します。

4回目の『停戦交渉』ロシア側の落としどころは…?

ーー4回目のオンライン停戦交渉について、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問が『近く停戦すると確信している』と話しました。そして、3月16日にロシアのラブロフ外相は『合意に近づいている』と発言しました。『16日に停戦交渉が開かれる見通し』も再開したという情報はありません。ロシア側が本当に落としどころを本当に探っているのか不思議なのですがどうでしょうか?

(グレンコ・アンドリーさん)
「二つの可能性があって、一つは本当に停戦のつもりでいるのか、もう一つは本当は停戦するつもりはないんだけど、停戦する用意があると見せかけて、ウクライナと国際社会を油断させるということもありうるんですね。油断させた場合は、目的を明らかで油断している間は攻撃を加えて有利になるということなんですけど。実際に停戦を探っていると仮定した場合は、なんでロシアは停戦を探っているのかというと、それは唯一の可能性というのは今の攻撃によってウクライナを制圧するのは無理だと判断した場合のみなんですね。結局、ロシアの目的は『一貫してウクライナを支配すること』であるので、中途半端なところでは引かないはずなんですね。ここで停戦に応じますといった意味は、攻撃しても制圧できない、できる見込みがないと判断した場合のみなんですね。それで停戦が実現された場合はそれは何を意味するのかというと、今回の戦争の終結じゃなくて延期ですね。つまりロシアは今回の停戦もしくは和平のどちらかになるかもしれませんけど、戦闘行為が行われていない期間を軍の態勢を立て直す、つまりさらなる攻撃への準備に使うんですね。さらなる攻撃への準備が整ったときに停戦を破ってさらなる攻撃を加えます。それは間違いないので。今回は和平もしくは停戦が成立したとしてもそれはあくまで戦争の先送り延期にすぎないということをやっぱり理解しておくべきです」

停戦交渉の検討案…ウクライナ側『自国軍隊は保持』『NATOなどに加盟しない』

ーーイギリスのフィナンシャルタイムズが報じるところによりますと、停戦交渉で検討されている案の内容を報じています。全部で15項目あるんですけどもその中の複数が伝わってきています。まずウクライナは自国の軍隊は保持するNATOなど軍事同盟には参加しない。そして、外国軍の基地や兵器を国内には置かないという条件。その代わりに、アメリカ、イギリス、トルコといった国々がウクライナの安全を保障する、さらに、ウクライナ国内でのロシア語の地位を保障しますという条件が出てきているんですけど、まずはウクライナの条件はどう考えますか?

(グレンコ・アンドリーさん)
「要は中立国でいるなら受け止めていいですよというウクライナの姿勢を表しているんですね。つまり、妥協の余地があって決して戦い一辺倒の話ではないという。ウクライナの姿勢なんですね。ただ、あくまでウクライナはこれぐらいの譲歩ならできるという意思表示であって、特に国軍の保持というところをロシアがそれに合意するとは限らないので、この提案がそのままロシア合意の内容に含まれるかどうかはわからないんですね」

ーーまた報じたところによれば、アメリカ、イギリスやトルコなどの国々がウクライナの安全を保障するということですが?

(グレンコ・アンドリーさん)
「これはおそらくゼレンスキー大統領が提案したところだと思うんですね。これは、はっきり言えば無理な話なんです。ゼレンスキー大統領が提案しているのはNATOに加盟しない代わりに、何らかのウクライナの安全を保障するは国際的な枠組みが必要だということでしょう。だからNATOに加盟しない代わりに、アメリカ、イギリス、トルコは代わりに守ると言っているんですけど、国際的に枠組みを実現する手法や方法論はないんですね。というのは、アメリカ、イギリスとトルコはNATOの加盟国であるので、加盟国である以上他の加盟国を守る義務があって、他の加盟国もイギリスとアメリカを守る義務があります。そのため、その中で非加盟国を守る義務とすると、他の加盟国に対して迷惑になるので現実的な案ではないんです。あくまでゼレンスキー大統領はそれをしたいんだけど、おそらくそれは無理な話かと」

ーーカードとして切っているのにすぎないと?
(グレンコ・アンドリーさん)
「提案して、それに応じて欲しいんだけど、それはゼレンスキー大統領の国際情勢の理解不足のために出てきた非現実的な案かなと思います。ロシアは非加盟国だけではなくて、非軍事化、つまり完全支配を要求しているのに対して、それは飲めないんだけど、非加盟ぐらいなら譲歩できますよという意思表示ですね」

ロシア側「ウクライナでのロシア語の地位保証」を要求

ーーまた、ウクライナ国内でのロシア語の地位を保証するという、これはどういうことでしょうか?

(グレンコ・アンドリーさん)
「ロシアが要求したものですが、ロシアが言うロシア語の地位というのは、ロシア語をウクライナで母国語にするという意味なんですね。それももちろんウクライナはウクライナ語という母国語があるので、のめるわけがない条件なのでこれはおそらく意見の対立があると思います」