自らの声をAI(人工知能)に学習させてオリジナルの声が作れるというサービスがあります。病気などで声帯を摘出せざるを得ない人にも利用されるなど様々な使われ方があるということです。開発した20代の大学生にМBSの大吉洋平アナウンサーが話を聞きました。
サイトには5000種類以上のAI音声を公開
自分の声をAIに学習させて音声を合成できる「CoeFont」を使って、大吉洋平アナウンサーのAI音声を作ってみました。
【大吉洋平アナウンサーが声を収録する様子】
(大吉洋平アナウンサー)
「ではこれから早速声フォントに私の声を録音していきます。『作品はオーギュストが1872年に出版した。焼肉食べ放題がなんと888円で提供されている』アナウンサー試験とか一年目のアナウンサー研修を思い出しますね」
700ある文章を約2時間かけて録音。それをAIが学習し録音していない言葉も再現してくれるそうです。
開発したのは東京工業大学2年生の早川尚吾さん(20)です。早川さんは一番の魅力は、『価格』と言い切ります。
(早川尚吾さん)
「1500円で出来たと思うんですけど、他の企業とかだと100万円とかなんですよ。そうなると気軽に作れない。それはフォントみたいなものではないなと思って」
字体に種類があるように、声もあれこれ選びたいという発想から、価格を抑えて、手軽な品質なら500円で録音時間は15分、最高品質でも1500円という設定です。
サイト上にはプロ野球解説者の藪恵壱さんやジャーナリストの田原聡一朗さんなど著名人を含む5000種類以上のAI音声が公開されていて、利用料を払えば誰でも使うことができます。
(早川尚吾さん)
「(Qどんな人がどんな用途で使うものでしょうか?)すごく収録時間がかかっていたオーディオブック、本の読み上げなど、ユーザーが聞きたい声で好きな本を聴くことができる。いままではコストとか時間の問題でできなかった。田原総一朗さんは声が出なくなっても『朝まで生テレビ!』を続行するためとおっしゃっていました」
では、AIはどうやって、音声を学んでいくのでしょうか。
(早川尚吾さん)
「なるべく普段言わないような言葉を入れておいて、そういう言葉を学習して言えるようになったりだとか、例えば『げぇ』とかあまり日常会話で言わないと思いますが、そういうものを(AIに)勉強させないとあんまりうまく発声できないんですよ」
がん治療で声帯を摘出した女性…作成したAI音声で夫と会話
この「人格と個性」をもった自分だけのAI音声で笑顔を取り戻した人がいました。東京都内に住む酒井さん。去年6月、がんの治療で声帯を摘出する手術を受けることになりました。手術により酒井さんは声を失うことになります。
(酒井さん 去年6月)
「絶望的じゃないですか、声が出なくなるって。その孤独を考えたら本当に…」
酒井さんは、声を失う前に「CoeFont」で自分のAI音声を作りました。酒井さんはAIでできた音声を聞いて次のように話しました。
(酒井さん)
「いつも聞くセリフです。(Q聞いてみて『私の声』だと?)思います、すごく」
そして、手術を受けて声を失った酒井さん。退院後の去年8月にAI音声を使った夫との会話を動画で届けてくれました。
(酒井さん)「ミューちゃん(猫)の次の病院はいつだったかしら?」
(酒井さんの夫)「ミューはね、いつだったかな、この前(薬を)20日分もらったから」
(酒井さん)「薬がなくなるから忘れずに行かないとね」
(酒井さんの夫)「ああそうやね。それは気をつけんとあかんね」
(酒井さん)「がんで声を失うとわかった時、本当に絶望の淵に追いやられました。でも実際に声を失っても会話ができているので本当に救われました」
声帯の摘出手術を受ける患者らに無償提供 ALS患者にも拡大へ
「CoeFont」を開発した大学生・早川さんもまったく想像していなかった使われ方だったと言います。
(早川尚吾さん)
「めちゃくちゃ嬉しいですね。こういう使われ方がされるとは思っていなかったんですけど、開発頑張ります」
これを受けて「CoeFont」は声帯の摘出手術を受ける患者らに無償提供。半年で約200人の利用や問い合わせがありました。3月に新たに手足や舌など体の筋肉がやせていく難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者にも無償提供することを決めました。
(早川尚吾さん)
「『CoeFont』みたいなものがあれば今までと同じ声で、自分も家族も変わらない日常が過ごせるんですよ。ALSの人も声帯摘出者の人も暮らせるような社会をつくっていきたい」